決勝進出者発表
準決勝を終え、控室には出場コンビが集合している。
あるコンビは真剣な眼差しでスタッフを見つめ、あるコンビは祈るようなそぶりを見せている。
結果発表の時が来たという事だ。
「それでは、第11回腹筋BREAKER決勝戦出場コンビを発表したいと思います。どのコンビも強烈な笑いを起こした素晴らしい準決勝でした。決勝戦も素晴らしい大会になると今から確信しております。それでは、発表します」
スタッフが決勝戦進出者の読み上げを始めた。
「一組目、エントリーナンバー98番。『エクセレンツ』!」
中世貴族のような衣装を身にまとった二人組が喜びを爆発させている。
二人で体を寄せてその健闘を称えあっていた。
周りからは大きな歓声と拍手が巻き起こった。
「二組目、エントリーナンバー51番。『陰ノ者』!」
暗そうな雰囲気の二人組が礼をして、何故か二人してメガネをクイっと持ち上げた。
昨年のファイナリストであるからか、歓声はなく拍手のみだった。
他のコンビから見ても、決勝進出は当然と思われていたのだろう。
そして、次々とコンビ名が呼ばれていった。
歓喜の涙を流すコンビ、雄たけびを上げるコンビ。
喜び方にコンビの個性が現れている。
「七組目、エントリーナンバー403番。『あきあかね』!」
「「しゃーい!」」
準決勝唯一の女性コンビである『あきあかね』が決勝進出を決めた。
可愛らしい二人組が両手を合わせて喜びを見せる。
周りからは大きな歓声と拍手が巻き起こった。
そして、会場が明るくなったように感じられた。
そして、運命の八組目発表。
シタミデミタシが呼ばれる気配が全く感じられないが、悟もくがっちも焦りや悲しみを見せる余裕がなかった。
控室の独特過ぎる空気に飲まれて我を忘れてしまっていたのだ。
そんな中、決勝進出者最後の一組が発表される。
「ラスト八組目、エントリーナンバー478番。『シタミデミタシ』!」
歓声と言うよりもどよめきに近い声と拍手が同時に起こった。
初出場、ノーマークなので当然と言えば当然だろう。
そんな悟とくがっちは、一瞬自分たちが呼ばれたことが分かっていなかった。
自分たちが呼ばれたことを確認するかのように顔を合わせる二人。
そして、慌てて一礼した。
ついに、腹筋BREAKER決勝戦進出の切符を手にすることが出来た。
ただ、その喜びを見せるのは控室を後にしてからだった。
事務所に帰って決勝進出を報告すると、円城プロの事務所内は歓喜に包まれていた。
「やーったやーった! やってくれましたなあお二人さん! お赤飯炊かんといかんなぁ」
「別に赤飯じゃなくていいだろ!」
後輩の大躍進を喜んではしゃぎまくっているラブソング糸川に、バラード東田がツッコミをかましている。
「完全に二人の実力だな。おめでとう」
「決勝戦が今から楽しみで仕方が無いよ」
三橋ジロウと深川ジンがシタミデミタシの二人を祝福してくれた。
「二人の日頃の努力が実を結んだ結果です。このまま決勝戦も駆け抜けていきましょう」
円城社長も他のみんなと同じように嬉しそうにしている。
「本当なら、宴会を開いてしまいたいところですが、まだ腹筋BREAKERは終わっていませんので、最後までシタミデミタシの二人を応援していきましょう」
円城社長がシタミデミタシの腹筋BREAKER決勝戦進出報告を締めくくった。
後は、シタミデミタシのネタがどこまで通用するかだ。
シタミデミタシの決勝戦への思いは今も変わっていない。
腹筋BREAKER優勝に邁進していくだけだ。
鈴音がオフィスで今回の腹筋BREAKERについて上機嫌で情報をまとめていた。
鈴音自身もまた観客として腹筋BREAKERの準決勝を見ていたので、シタミデミタシの決勝戦進出が決まったことをとても喜んでいた。
(良かった、私の目に狂いはなかったんだ。それに、これで遠慮なく彼らを調査することが出来る)
鈴音はシタミデミタシの調査をどうやって行おうかとばかり考えていた。
もし彼らが腹筋BREAKERを優勝すれば、コンビとしては芸歴最年少優勝となり、くがっちが最年少チャンピオンの記録を更新することが出来る。
未だかつてない状況に、早くも鈴音は興奮しているようだ。
「おーい、守屋いるかー」
そんな時に、編集長が気の抜けた声で鈴音を呼び出した。
「はい」
「腹筋BREAKERの記事、守屋の注目コンビとか書きこむことは考えて来たか?」
「はい、考えています」
「どのコンビにするつもりなんだよ?」
「シタミデミタシです」
「はあっ?」
「編集長、腹筋BREAKERの決勝戦進出コンビをご存じないんですか? 私はこれから取材に回りますので」
そう言って鈴音はオフィスを飛び出してしまった。
鈴音は内心してやったりと言う気持ちでいっぱいだ。
「あんな奴らがって、おい! マジかよ! 守屋のやつ予想を当てにいってんのか……」
腹筋BREAKERの決勝戦進出者を見て、編集長が驚愕の表情を見せた。
そんな編集長を見て、密かにクスクス笑っていた者がいたと言われていたそうだ。
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