新ネタ出陣

「ホ、ホントですかそれ!」

 事務所から突然の朗報がシタミデミタシの二人に届いた。

 何と、先日のオーディションに合格し、ライブの出場権を手にしたのだ。

 前回の元気笑会主催のライブほど大きい会場ではないものの、ライブが決まったのは大きい。

 シタミデミタシとしては手ごたえこそまあまあだったものの、すぐに合否が決まらなかったので次のオーディションに向けて準備していたところだった。

「さとる、今回は新ネタだね」

「おお、くがっちが考えてくれたあれ、ぶつけてみようぜ!」

「練習は十分やって来たから、後は本番でどうなるかだね」

「久しぶりのライブだから、ドキドキだな」

 くがっちと悟が部屋の中で興奮している。

 休息を終え、作ったネタが揃いつつある中でのライブだ。

 かえって色々試したくなるくらいだろう。


 そして、その日はやって来た。

 新ネタでライブに思いっきり打ち込める喜びを噛みしめながら、悟とくがっちはリハーサルを終えた。

 お客さんの反応が気になるところだ。

 会場は他のコンビのネタで盛り上がっている。

 そんな中で舞台袖で出番を待つ二人。

 すぐにでも出て一本ぶつけたい気持ちでいっぱいだ。

 そして、名前を呼ばれたシタミデミタシが軽快な足取りでステージに向かう。


「皆さんこんにちは、モーニング娘。です!」

「いっこもそんな要素ねーじゃねーか! シタミデミタシでーす、よろしくお願いしまーす」

「さとるー、ぼく最近料理始めたんだけどさ。料理って楽しいよねー」

「そうだなー、俺も料理好きだから分かるわ」

「料理をやってて思うんだけどさ」

「どうしたんだよ?」

「カップラーメンって美味しいよね!」

「台無しだわ! 今までの話の流れがなあ」

「最近のレトルトカレーなんですけどぉ」

「一緒じゃねえか! そんなんで流れが変わるわけねえだろ!」

「まあそんなことはどうでもいいんだけどさ」

「話を雑に切るなよ」

「料理してたら、料理番組に憧れちゃうようになってさ」

「何、料理番組やってみたいわけ?」

「さすがさとるー」

「顔見て何となく察したわ」

「さあ始まりました。料理番組『のらりくらり』のお時間です」

「番組名どうにかなんねーのか?」

「いいじゃん。この適度に打ち切られない感じ」

「もっと勢いが欲しいなぁ」

「さあ始まりました! 料理番組『料理は炎上』のお時間です!」

「愛情どこ行ったんだ? その番組名はダメだろ!」

「さとるが勢いが欲しいって言うから」

「だったら『のらりくらり』でいいよ。妥協してやるから」

「本日の料理は、蒸し鶏です」

「シンプル過ぎるだろ! もっと見どころのある料理してくれよ」

「何と今回は、蒸し野菜もつけちゃいますよ」

「一緒なんだよやることが! 切って蒸すだけなんだからさ」

「タイパ考えないとさ」

「あっさりし過ぎなんだよそれだと!」

「本日の料理は、牛すじ煮込みです」

「やっと料理番組らしくなってきた」

「寒くなると、これが食べたくなるんですよね」

「分かります。おでんの牛すじとかもいいですよね」

「あ、そうですか? それでは今からおでんの牛すじを作りたいと思います」

「流されすぎだろ! そこは自分の意思を持ってくれよ」

「まずは牛すじとこんにゃくを一口大に切って、ボウルに準備しておきましょう。牛すじは沸騰したお鍋の中で下茹げゆでします」

「どんな間違い方だよ! せめて下茹しもゆでって言ってくれよ」

「おっ、番組の方に早速メッセージが届きましたね!」

「最近はSNSと連動している番組も増えたからなー」

「ぺこーら愛してる、一万円っと」

「スパチャ送ってんじゃねーぞ生放送中になあ!」

「ぺこーらの生配信とかぶっちゃったからさ」

「こっちに集中しろ!」

「届いたメッセージの方はと、匿名希望さんからですね。ぺこーらの生配信からこっちに切り替えましたのことで」

「奇跡が起きてんじゃねーか! 逆に向こうへ行った人の方が多いだろうけどさ」

「よりによって何で被っちゃったんだろうね」

「番組やってたら避けて通れないことだからな……」

「そうだ、ただ今からぺこーらの生配信と二枠で放送致します!」

「便乗すんな便乗すんな! そこはプライド持ってやってくれよ!」

「そんなこんなでいい匂いが」

「色々端折り過ぎだろ」

「牛すじ煮込みがこの煮込み工程を経て出来上がります。そして、その工程を終えたものがこちらになります」

「調理に時間がかかるものは前もって準備しておくんだよな」

「さらに工程をすっ飛ばしたい人はコンビニに行って買って下さい! ぼくのおすすめはファミリーマートです!」

「台無しじゃねえか!」

「これからこれをあてにしてやけ酒です!」

「やめろやめろ! 放送事故になるぞ! ただでさえ危なっかしいんだから」

「来週はブラウニーを作りたいと思います。ブラウニー、お前やれるのマジで? これからのさあ、長い道のり」

「ちょいちょいぺこーら匂わせてくんな!」

「気のせいですよ~」

「ごまかし効かねえだろ絶対。くがっち、ハッキリ言うけどもっと真剣にやった方がいいぜ。ちょっとふざけ過ぎだわ」

「さとる、ぼく真剣だよ。この番組のジングルもちゃんと考えてたんだよ!」

「マジか! 話に反して結構凝ってたんだな」

「ぶんぶんちゃ! ぶんぶんちゃ!」

「ぺこーらはもういいよ! どうも、ありがとうございました」


 ちょっと間を空けてしまったものの、久しぶりにネタをやった割にはお客さんからの反応は良かった。

 拍手笑いに包まれると気持ちがいい。

 漫才の舞台に立っていたい。

 悟とくがっちは、漫才を通じて自分たちの気持ちに改めて向き合うことが出来た気がした。

 今回のネタは、腹筋BREAKERに向けてのいい弾みになった。

 もっともっと新ネタ作って、漫才やっていきたい。

 そうすれば、今よりもずっと腹筋BREAKER優勝へと近づくことが出来る。

 悟とくがっちは、これからも愚直に漫才をしていくことになるだろう。

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