くがっち、肉を堪能する

「よし、せっかくだからやるぞ」

 くがっちはくがっちで一人料理に勤しんでいた。

 悟ほどの技量はないにしても、最近夕食を担当する日が増えたくがっち。

 それなりの料理スキルはついたはずだ。

 そして今、それを発揮する時が来た。

 キッチンにはひき肉、卵、タマネギ、パン粉、ケチャップ、ソース、はちみつ、塩コショウ、ナツメグがずらりと並べられている。

 くがっちはハンバーグに挑戦するようだ。

 この余りにも肉肉しいひき肉にくがっちが目を輝かせている。

「こ、こんなぜいたくをしてもいいのだろうか?」

 今まで生きてきて、くがっちはここまでの量のお肉を食べたことがない。


 ここまで来れば、後は調理に勤しむだけだ。

 くがっちがタマネギをみじん切りにし始める。

 それなりに料理してきた経験が生きているのか、手つきが危なっかしいという様子は見られない。

「うおおおおん、おにく~」

 くがっちの涙はタマネギを切っているからなのか、嬉し涙なのだろうか。

 それは誰にも分からない。

 恐らく本人すら分かっていない。

 フライパンに油を引き、タマネギを炒めていく。

 タマネギが焼けていく音が心地いい。

 そうしている間に、ボウルにひき肉、パン粉、卵、ナツメグを入れていった。

 そして、ここに炒め終えたタマネギをボウルに加える。

 流石にちょっと熱いだろうから、最初は菜箸でハンバーグのたねを混ぜ合わせていった。

「料理が出来る男はモテるって聞いたことあるけど、ホントかな?」

 そんなことを口にしながら、くがっちはハンバーグのたねを手に取り、成形していった。

 左右の手でハンバーグのたねを小気味よくキャッチしている。


 空気を抜き、形を整えたハンバーグのたねは皿に置かれていった。

「これを独り占めしてしまうのか……」

 せっかくたくさん作るのなら、悟の分も残しておけばいいと思うのだが。

 くがっちが描いた肉肉しい世界を実現するためには、ハンバーグの独り占めは仕方ないことなのかもしれない。

 ハンバーグを成形し終えたくがっちは、デミグラスソースを作り始めた。

 ケチャップ、ソース、はちみつをしっかりと混ぜ合わせていく。

 混ぜ合わせたソースの味はどんなものだろうか。

 くがっちが味見をする。

「これくらいで試してみようかな。目分量で作っても怒られない、一人で料理する時の特権だね」

 一人で作る分には文句を言う人がいないので安心だ。

 かと言って、悟が料理のことでくがっちに当たるようなことはないのだが。

 仮に失敗したとしても、自分で食べきってしまえばいいだけの話だ。

 そして、我慢が出来なくなってきたくがっちはフライパンでハンバーグのたねを焼き始めた。

 フライパンで焼ける音と匂いがとてつもなく気持ちいい。


「もうこれだけでもたまんないや……」

 くがっちが恍惚の表情を浮かべている。

 ハンバーグにキレイな焼き色がつく。

 そしてひっくり返して、両面に焼き色をつけていく。

 これだけでも美味しい感じが伝わってくる。

 ある程度焼きあがったら、先ほど作ったソースをフライパンに入れていった。

 そしてふたをする。

どうやら煮込みハンバーグにするようだ。

「料理楽しいなー」

 くがっちがとても料理を楽しんでいるのが分かる。

「料理番組出てみたいかも……」

 くがっちが脳内であれこれ想像し始めた。

 シタミデミタシの二人で出てみたい。

 やりたい料理のこと、演出のこと。

 そんなことをくがっちが脳内で演出し始めていた。

「待てよ、これをネタに一本書けるかも……」

 くがっちがそんなことを考えながら、慌ててスマホを取り出し、思いついたことを打ち込み始めた。

 オフの日でも漫才のことは忘れられないようだ。


 念のため、コンロの火は消しておく。

 万が一のことがあっては元も子もない。

 向こうでは、炊飯器からご飯が炊けた音がしている。

「はあ、はあ。ちょっと興奮しすぎてしまったかも。ネタはご飯食べてからまとめるようにしよう」

 くがっちがスマホの操作をやめ、再びハンバーグを煮込み始めた。

 大分ソースが沁み込んでいるように見受けられる。

 くがっちが冷蔵庫からレタスを取り出し、ちぎってお皿に盛りつける。 

 そして、出来上がったハンバーグをお皿に盛りつけていく。

 たくさん作っているので、たくさん盛り付ける。

 ワガママ盛りといったところだろう。

 熱々のごはんをよそった茶碗をハンバーグの皿と一緒に机に並べ、さあ実食だ。

 くがっちが出来立てのハンバーグを炊き立てご飯と一緒にかきこむ。

「し、幸せ過ぎる……」

 くがっちはあまりの美味しさに思わず笑みが浮かんでしまう。


 しかし、今回はそれだけで終わらなかった。

 くがっちが冷蔵庫からスライスチーズを取り出す。

 そして、スライスチーズをハンバーグに乗せる。

 今度はチーズハンバーグにして食べ始めた。

「ふおおおおおっ、これはたまらん!」

 リアクション芸人でもしなさそうな反応をくがっちが見せる。

 ただ、残念なことに部屋にはくがっちしかいない。

 チーズハンバーグが美味しいのは間違いないのだろう。

「今度は悟にも作ってあげよう」

 くがっちがそんなことを思いながら、ご飯をお代わりしだした。

「今度は牛すじ煮込みもいいなあ」

 くがっちは次に作りたい料理のことも考えていた。

 食事と片付けが終わったら、思いついたネタをまとめて一本にしよう。

 そんなことを思いながら、くがっちのオフの時間が過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未来は下見できない たたみや @tatamiya77

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画