相性は大事
「いざネタ作りってなってもなー」
悟がぼそりと呟く。
「何か出てきそうで何も出てこないや」
くがっちも悟と同じく苦戦している。
悟とくがっちはネタ作りをやっていたのだが、中々はかどらない。
お互いに仕事終わりや休日に時間を作ってあーでもない、こーでもないとネタ作りをしているのだが、頭が回らない。
「ねえねえさとるー、それよりも大事なことってあるんじゃない?」
「何なんだよそれ?」
「ぼくたちの相性」
「急にどうしたんだよ!」
くがっちが突然話を切り出したので、悟が困惑している。
「さとるって血液型何型なのさ?」
「そんなんで簡単に相性決まらねーだろ!」
「教えてよー、さとるって何型なのさ?」
「O型だよ」
「じゃあぼくと一緒だね」
どことなくくがっちが嬉しそうだ。
そんなくがっちを見て、悟はちょっと気持ち悪くなったのか、苦い表情が見え隠れするようになった。
「これ本当に必要か?」
「ありとあらゆる角度から検証した方がいいかもね。あとは姓名判断とか?」
「やめてくれよ、そんなので……」
悟の疑問を差し置いてくがっちが更に話を進めてくるので、悟は引いてしまっている。
それでもくがっちが手を緩める様子は見られなかった。
「じゃあ16タイプ性格診断はどう。ちなみに、ぼくはINEPね」
「マッチングアプリじゃねーんだぞおい!」
くがっちのトークがかなりエスカレートするので、悟がたまらずツッコミを入れてしまった。
「二人の愛を確かめないといけないじゃん!」
「コンビ愛だろ! あくまでコンビ愛だろ!」
くがっちの悟への迫り方がどんどんキモくなってきた。
これ以上は危険域に突入してしまうだろう。
悟はそんなくがっちに対して不安を感じた。
だがしかし、その一方でくがっちの不安に納得できる部分もあった。
メジャーなお笑いコンビは中学、高校、大学の同級生または養成所の同期で組んでいることが多い。
それに対しシタミデミタシは下宿先の下見で顔見知りになっただけだ。
特徴的とは言えるが、つながりが強いかと言うとそうでもない。
正直言って赤の他人同士で結成したコンビだ。
くがっちは心の底で無意識に気にしていたのかもしれない。
「それに夫婦漫才って言うじゃん」
「それはガチの夫婦で漫才やる時の言葉なんだよ」
くがっちに対して、悟が夫婦漫才について解説している。
それこそシタミデミタシとは対極の強いつながりがあってこその漫才コンビだ。
真似なんて出来るはずもない。
「くがっちは俺たちの出目について気にしてたんだな……」
「うん、ちょっとね……」
「あの執着っぷりは中々のもんだぞ」
くがっちの取り乱した様子を悟が優しく諭す。
「まああれだ、くがっち。最後にゃ俺たちが面白いかどうかで決まるんだから。いつまでも心配したって仕方ないさ。おもろいネタかまして他のコンビを驚かせてやろうぜ!」
くがっちの意識がネタ作りの方向に向くように、悟が何とかして誘導しようとしている。
果たしてうまくいくだろうか。
「ごめんねさとる、ぼくなんだか変なことばっかり考えていたみたい」
「他のお笑いコンビと比べると、そういう部分が浮き彫りになってしまうのは仕方がないことだ。だけど俺たちはお笑いで勝負すんだから、そんなん気にせずに純粋に面白いネタを作っていこうじゃんか! それが俺たちシタミデミタシのためだ!」
「うわあああん、さとるううううっ!」
悟の話を真剣に聞いていたくがっちが、感極まって悟の方へと飛びついて来た。
正直言って暑苦しいし気持ち悪い。
「分かった、分かったから一旦落ち着けよ」
「うん、つんつん」
「『お乳突け』じゃねーんだよ! 流石にこれは古すぎる。漫才と言うよりセクハラ親父が言ってそうなことだしな」
こうしてシタミデミタシは少しづつ調子を取り戻していた。
これならネタ作りに真剣に取り組めそうだ。
そんな中、くがっちが悟に提案をし始めた。
「せっかくだからさー、コンビの相性を題材に1ネタ作ろうよー」
「却下!」
「えー、何でさー?」
「この時のくがっちが余りにも気持ち悪い!」
「そ、そんなぁ」
あんなくがっちを見せられたら悟の方もやりにくいというものだ。
無理もない話だ。
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