結成、シタミデミタシ

「うわー、すげーきれいな部屋だな」

「あんまし物を置いてないからな。幸いここにはロフトがあるから、くがっちはここで寝てくれ」

 悟が自分の部屋にくがっちを案内していた。

 相方とはいえ、まさかほとんど知らない男を自分の部屋に住まわせるとは、悟も全く想定していなかった。

 当然と言えば当然の話である。

 くがっちが自分の荷物をロフトに置き始めた。

 とはいえほとんど悟が買い換えたのだが。

「それじゃあくがっち、下で作戦会議といこうぜ」

「分かったー」

 くがっちがロフトの階段をゆっくり降りてきた。

 ロフトに慣れていないのか、くがっちが恐る恐る梯子に足を伸ばしている。


「それじゃあ早速だが……」

「愛の告白?」

「んなわけねーだろ!」

 くがっちが唐突にボケをかますので悟がツッコむ。

「コンビを結成したんだから、まずはコンビ名決めないとな」

「そっかー、でもぼくたちに何がしっくりくるかなあ?」

 悟の言葉にくがっちが首を傾げた。

 対する悟は平然としており、そうでもないようだ。

「さとるー、ぼく何にも浮かんでこないよー」

「俺、実は案があるんだよなー」

「マジかあ、さすがさとる」

「その名も『シタミデミタシ』だ。俺たちの出会いはお部屋の下見だからな」

「もっとカッコイイ名前がよくね?」

「変に有名な言葉をコンビ名にすると、サジェスト汚染って非難轟々だからな。それを避ける意味もある」

「意外と考えてんだな」

 悟が考えたコンビ名にくがっちは最初こそ難色を示していたが、悟の説明を聞き納得してくれたようだ。

 こうして、コンビ名は『シタミデミタシ』で決まった。

 そうそう他のコンビと名前が被ることは無いだろう。

 このコンビ名は、何気に回文となっている。


「あ、あとぼくがツッコミするよ」

「正気か!」

「え、違うの?」

「どう考えたってお前がボケだわ!」

 そしてボケとツッコミの担当決めだ。

 これはもはや言うまでもあるまい。

「それと、生活スタイルをどうするかってところだな」

「さとるも仕事を辞めてお笑い全振りだな」

「んなわけねーだろ! まずは本業の空いた時間にお笑い活動をやるんだよ」

 くがっちが夢ばかり追いかけようとするので、さとるが指摘する。

 普段の生活が成り立たなければ、到底お笑いの道を邁進出来ないのだ。

「一発どーんと当てていこうよ」

「断る、それにくがっちは私物を買い換えたお金返してもらわないとな」

「ぼく相方だよ」

「それとこれとは話が別に決まってんだろ! こっちも貯金はたいたんだからな!」


 それに悟はくがっちのアパート退去や私物を買い換えるのにお金を使ってしまっている。

 まずはくがっちに自分が払ったお金を返済して欲しいところだ。

 万が一とんずらされたらたまったものではない。

「じゃあ仕事探さないとなあ。コンビニとか?」

「コンビニは不定休だから練習時間が合わせにくい。俺は不動産営業だが幸いなことに土日休みだから、くがっちも土日休みの仕事にしてくれ」

「じゃあこの工場オペレーター、製品検査とかかぁ」

「まあ、土日休みでそこそこ給料がいいとなるとそうなるか」

「えー、女の子がいっぱいいるところがいい」

「それは諦めろよ! あとくがっちは鏡見たことあるか?」

「ひどすぎるよー」

 悟がくがっちに辛らつな言葉をぶつける。

 お笑いのために働くのだから、出会いを求めるのが目的ではないのだ。

 それと、残念ながら身長小さ目小デブなくがっちには少々不利な話なのかもしれない。


「あとはあれだな、会社のことを調べてから求人に応募ってところだな」

「何するか分からないもんね」

「それもあるが、会社の評判が分かるところならあらかじめ調べるって手が有効だな。これでくがっちに向かない職場やブラック職場を回避しやすくなる」

「なるほど」

「あとはざっくりだが、面接のロールプレイングもやっとくか」

「ゲーム?」

「そりゃあロールプレイングゲームのロールプレイングだし。そんなことは気にせずやっていこうぜ。くがっちは職歴が無いから、めんどくさいことはそんなに聞かれないはずだし……」

「分かった!」

 こうして、悟が手取り足取り就職活動についてレクチャーしていった。

 二人の生活基盤を徐々に固めるべく、邁進していく。

 全てはシタミデミタシとしての活動を進めていくためだ。

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