悟とくがっち
「何で俺がこいつと一緒に部屋を掃除しないとダメなんだ……」
結局のところ、悟は苦学生と一緒に103号室を掃除することになってしまった。
部屋にはゴミ袋が山のように積まれていた。
ゴミ屋敷となっていた103号室は、ゴミ袋だらけとはいえきれいに片付いた。
結局苦学生は大家さんに退去させられることとなった。
無理もない話だ。
そして苦学生はあわれ、学費もアパート代も支払いが出来ないことで途方に暮れている状態だった。
しかし、悟がいてくれたおかげで自殺は諦めてくれたので、一安心だ。
「こいつをゴミ捨て場に持って行こう。幸い、ゴミの面倒は大家さんが見てくれるらしいから」
悟が苦学生に声をかけると、苦学生はこくりと頷いて悟について行った。
「それにしてもあれだな。お前の両親に電話したけどまるで相手にしてくんねーのな。流石に腹が立ったぜ」
「二人ともぼくのことが嫌いだから……」
苦学生の話を聞いていると、どうやら貧しいだけでなく家庭環境も悪いようだ。
悟は本当なら苦学生のけつを拭かされて腹が立つところなのだが、それ以上に苦学生の両親の対応に腹を立てていた。
大人とはいえ学生だ。
まだまだ知らないことだらけなのに、全部責任を押し付けられている。
これではあんまりだ。
ゴミ捨てを終わらせた二人はいったん部屋へと戻ることにした。
「そういやあ名前聞いてなかったな、俺は悟。三島悟だ」
「
「何て呼べばいい?」
「何でもいいよ、大抵呼び捨てだけどね……」
「それじゃあ『くがっち』ってどうだ?」
それを聞いて嬉しかったのか、苦学生のくがっちが明るい表情を見せた。
「それってあだ名ってやつ? つけられたの初めて! わーいわーい」
「そんなに嬉しかったのかよ!」
くがっちが余りにも喜ぶので、悟は目を丸くしてくがっちを見ていた。
「くがっちは色々あったんだな……、今日だけで嫌というほど分からされた気がする」
「さとるさんは?」
「悟でいい」
「さとるはどうなの?」
「俺かあ、不動産の営業マンのかたわら、とあるエージェントをやってたんだけど、意味が分からないし、くがっちとお笑いやるから辞めてやったぜ」
「エージェントって何するの? お笑いよりよっぽど重要そうな感じがしたけど」
「エージェントのことか? あれマジで名ばかりだからな。俺は未だに意味が分かってねえ。エージェントネームってのをもらったんだけど、一回も使わなかったぞ! 何のためのエージェントネームなんだよ! この仕事だって結局本名でやってるしな」
悟はくがっちに名刺を見せる。
確かに『三島悟』と書いてある。
そうなるとエージェントネームをもらった意味がまるでない。
「エージェントって他にもいるの?」
「ああ、そうだ」
「どんな人がいるの?」
「変な奴らばっかりだぞ。色町ほっつき歩いてる奴、プレゼン失敗するたびに転職してる奴、小さな町医者のジジイ、あとメガネ屋さんなんかもいたなあ」
「それ面白そうじゃね? 何か夢みたいな話だ」
「お前やっぱそっち系なのか……。まあ、夢だと思ってくれた方が俺は助かる」
悟の身の上話をくがっちが興味津々で聞いていた。
不思議な話ではあるし、くがっちが知らない世界だからだろう。
それにしてもくがっちが目を輝かせて聞くものだから、悟は困惑していた。
「たちまち住むところが無いだろうから、俺んち来いよ」
「いいの?」
「ああ、相方だからな。ただし……」
「ただし?」
「言っとくけど、私物は買い換えて来てくれよ」
「何でさ?」
「あんなきったねえのが俺の部屋に押し寄せて来たら困るんだよ!」
「えーでも」
「そして色々とお金は払ってもらうぞ、返済スケジュールくらいは組んでやるから」
「そんなー」
「利子がつかないだけ
流石の悟もくがっちの汚部屋にあった私物ごと迎え入れたくはないだろう。
至極当然の話だ。
そしてくがっちにお金の返済を求めるのもまた当然だろう。
いくら相方とはいえ、退去費や私物の買い替え費用を負担するのだから、悟の懐が厳しい。
「でもぼくどうしたら……」
「今後のことは俺の部屋で話をしようぜ」
こうして、悟とくがっちの共同生活が始まるのだった。
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