第16話 文化祭まであと少し
撮影会も終わって数日、田宮と笑美の参加する文化祭実行委員も動き出した。とは言え、俺は相変わらずリモート授業なので、若干の疎外感は否めない。遙香でさえ暇なときは学校に行っているのにだ。
さて、その文化祭実行委員だが、予定通り田宮がAAの展示を提案した。学校側もそれが面白そうだという話になり、ノリノリのようだ。これには動かせる人間として俺と遙香がいることに加え、リモートで引きこもっている俺を文化祭に参加させたいという田宮と笑美の訴えも先生の心を動かす効果があったようだ。俺、リモートに慣れてきってしまって家から出たくないんだけど……。
いつも通りの放課後、学校帰りの笑美と遙香が俺の部屋でプリントやらノートやら広げていると、俺のスマホにメッセージが届く。送信元は形原さんだ。
「文化祭の話が学校から来た。学校としてもやりたいようだが、長谷川は反対している。君としてはどうしたい?」
しばし思案するが、懸念するのは学校までどうやって運ぶかだ。それさえクリア出来れば、後はどうにでもできる気がする。
「ちなみにそちらとしては?」
「反対しているのは長谷川のみ。俺と富士見は賛成だ。2機とも出してもいいと思っている」
なるほど、予想以上に好意的だ。長谷川さんは無駄なリスクを負うことを避けているといった感じだろうか。
「こちらとしては高校生のみで考えて提案したので、今更拒否は出来ません。AAを移動させる手段さえなんとかなればなと思ってます」
「それならいつも通り、局の車で先導しよう。なんなら、AAに回転灯を取り付けるのもわかりやすくなって良いな。交通量の少ない夜間なら問題ないと思う」
形原さんがそういうなら、ありがたく甘えるとしようか。大人に甘えられるのも子どもの特権だ。長谷川さんには申し訳ないけど、上司が言うなら部下には従ってもらおう。
俺が形原さんとのやりとりを伝えると、笑美が正式に決まってないけどと口を開く。
「あのね、AA展示出来るなら、今年の文化祭は一般公開するかもって」
「あー、そう来るか。いや、もう俺にとっては今更だしいいんだけどな」
「そうそう、どうせ私たちはいつも通り棒立ちのAAに乗って、たまに手を振るだけよ」
スティック状のチョコ菓子をかじりながら遙香が言う。まったくその通りだが、まずはお菓子よりもペンを持て。少しは一般科目の勉強をしろ。
ともあれ、形原さんがOKを出せば大枠は決まったようなものだ。その他警察や消防関係にもうまいことやってくれるだろうし、学校もAAが2機も展示できるとあれば大喜びだろう。私立だし、来年の受験者数にも良い影響が出るかも知れない。
その後はとんとん拍子に話が進み、クラス展示の準備が進んでいく中で話が膨らんでいく。俺と遙香しか動かせないのは交替をどうするのかという話だ。AAの展示は学校扱いであってクラスの出し物ではないのだが、懸念する声が出たのだ。コクピットの中で弁当を食べて適当にしていたらいいと思ったのだが、そういうわけにもいかないらしい。
「ねえ、屋形くんも動かせるんだったら、交代要員で呼べないかな!」
女子の一人が言い出した。きっと、女子の中でこの流れを作りたかったのだろう。しかしそうはいかない。
「やめた方がいいわよ。寿和も動かせるけど、大惨事になりかねないから。あいつ、暴れるのよ……」
遙香が注意喚起する。そう、屋形の悪癖はAAの操縦が楽しくなってしまい、歯止めが利かなくなることらしいのだ。しかも操縦センスはそんなによろしくないときている。
「最悪あいつにも手伝ってもらうけど、誰か他の人にお願いする方がいいわね」
残念がる女子一同をなだめるように俺も口を挟む。
「でも、AAに何かあったときのために、屋形にも来てもらうべきだよな」
「そうそう、それ! 伴もいいこと言うじゃん!」
女子の機嫌取りも大変だ。
「というわけで、田宮。あんた大と仲がいいし、私が教えるから乗りなさいよ。大丈夫、あんたが駄目でもAIがなんとかしてくれるわよ」
「はあ!? 青島さん、本気?」
「俺も最低限の動きはなんとかなったし、大丈夫だと思う。AAの操縦、楽しいぞ」
俺も田宮を引きずり込むべく、画面越しに声をかける。
「お前とは練習できる時間数が違うだろうが」
「いいから田宮も乗りなよ。文化祭実行委員だし、伴といつもつるんでるから適役じゃん!」
「青島さんから教えてもらえるなんてラッキーじゃね?」
女子に言いくるめられ、田宮の仕事が増えることとなった。特に、遙香に教えてもらえるというのが決定打のようだ。週末は我が町で特訓だ。
土曜、田宮は親の車で送ってもらって俺の家に来た。そして田宮の親はやたらとゴツいカメラを携えている。
「すごいな、お前の親」
「母ちゃんがな、親戚からあのカメラを借りてきたんだよ」
「愛されてるな……」
「ところで、青島さんは?」
「すまん、遙香と青い方は役場。今は赤いのと俺だけだ」
肩の装甲が赤く塗られたAAを見上げ、我が家の畑で、田宮はうなだれる。
「じゃあ、まずは乗り方。脚の装甲を適当に叩くと掴まったり足場に出来たりする棒が出てくるから。駐機姿勢だとそんなに高くないから、案外平気だぞ。で、しばらく力がかからないと引っ込む」
「なるほど、よく出来てるなぁ……」
田宮は棒を順番に出してゆっくりと上っていく。
「ハッチは横のレバーを引いて回すと開くから」
数メートル高いところにいる田宮に指示を出すと、まず装甲のハッチ、そしてコクピットに直付けされたハッチが開く。田宮がシートに座ったのを確認すると、俺も上っていき、簡単に操作を教える。
「AIに補助してもらえばバランス制御も速度の制御もしてくれるから、まずはゆっくりペダルを踏み込んで」
開きっぱなしのハッチから見える風景が動く。AAが立ち上がっていく。下を見ると、田宮の親が一眼レフカメラのシャッターを切りまくっている。
「こえー。お前いつもこんなことしてんのか」
「普段はハッチ閉じてるから怖くないぞ」
「そうじゃなくて、周りの人とか建物とか潰しそうで」
「AIが補助してくれるから安心しろ」
基本動作を教えると、俺の家の周りを歩いたりしていた。俺が降りても出来るようになったので、少し動かす程度ならよっぽど大丈夫だろう。これが実戦向けならAIの補助なしでの動作を覚えさせられるのだろうけど、文化祭向けの交代要員なら十分だ。
「これ楽しいな。大がハマったのがわかるぞ」
「だろ? 俺たちが生きてるうちには造られないのが残念だよな」
こうして、土日とも遙香コーチによるレッスンがないまま田宮は操作を覚えていった。なんだかんだで、田宮も男ではなく男の子だった。それでもまったく遙香と顔を合わせない訳ではないし、他の男子よりは一歩前にいるのではないだろうか。遙香本人の気持ちは別問題として。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます