第15話 撮影会
俺たち5人は役場に来た。遙香の提案と勢いのまま役場まで来たのだが、何を試すと言うのか。
「そうね、私もノリでああ言ったけど、何も思いつかないのよね。現物を前にしたら何か思いつくんじゃないかと思ったんだけど」
「AAは動かせるけど、それだけじゃどうしようもないな……」
もう夕方で当直の職員も帰ってしまっている。何か備品を貸してもらおうにも、どうにもならない。しかし考え方を変えれば、バレないように動けば駐車場を使い放題ということだ。まあ、何の案もないのだけど。
「思いついたぞ」
田宮が口を開くと視線が集まる。
「腕相撲はどうだ? さすがにこのサイズで専用の台は用意できないから、向かい合わせにうつ伏せに寝てやるんだ」
「なるほど、AAのパワーを見せるいいチャンスだな。だけどスペック上は同じのはずだから、勝負が決まりそうにないな」
「指先で新品のスコップをつまんで、人間とどっちが精密に穴を掘れるかというのはどうかな」
今度は屋形が提案する。これも良い案だが、学校に掘っても良い場所などあるのだろうか。そもそも、まだ学校に対して提案すらもしていないのだが。
せっかく親に役場まで連れてきてもらってなんだが、なにをしようにもあまりに現実的ではないので行き詰まる。サイズ感がどうにもならない。
「ねえ、まずは学校の許可を取ってからにしない? 今から考えて駄目だって言われてもつまらないし」
笑美の言うとおりだ。完全に何かやるという前提でいたが、やらせてもらえるかどうかも決まっていない。
結局この5人でAAをバックに写真を撮って、その日は解散した。
月曜、予想通り文化祭についての話があった。俺はリモートでの参加だが、教室に置かれたタブレットからでは声が届きづらいため、発言権はない。そして先生と違って俺に配慮してくれないので、絶妙に黒板の文字が小さくて読みづらい。参加しづらいなぁ。
画面越しにクラスの会議を見つめているが、クラスの出し物の案がなかなか出ないため、ネットワークの障害が起きたかと思うほどの静けさだ。それもこれも、飲食店をやっていいのは家庭科部と理科部に限定されているせいだ。
誰も提案しない空間に業を煮やしたのか、クラス委員が画面の向こうから俺に案はないかと問いかける。俺が思いつくくらいならもっとたくさん案が出ているはずだ。思いつかないと回答しようと思ったが、頭の中に夏休みにやったボランティアが脳裏をよぎる。
「うちのクラスには遙香がいるわけだし、AAの写真を各々で撮って、写真展みたいなのやるのは? うちの町に来て写真を撮って印刷してくるだけだし、手間はそんなにかからないかと思うけど」
なんなら俺も少しは扱えると付け加える。
「写真を飾るだけでいいなら楽だな」
「クラス展示ならそんなものかな」
「岡ノ島町って他に何かないの?」
これなら特別なことをせずに、我がクラスならではの特別なことが出来る。我ながら良い案を出したと思う。ちなみに我が町にはキャンプ場くらいしか楽しめそうなものはない。
俺の案で決まると後はとんとん拍子に進む。写真だけじゃつまらないから、段ボールでAAを作って、誰かが着込んで案内するとか、むしろ教室の中心にも立たせようとか。
方向性が決まってきたところで、この会議は終わりだ。次はクラスから男女1人ずつ選出する文化祭実行委員だが、これはすんなり決定。立候補で決定した。当然男子は田宮だが、女子と仲良く仕事をする気がないのはわかる。手はず通り、生徒会扱いか学校扱いでAAを持ち込むために実行委員に立候補したのだ。
隣のクラスでも笑美が実行委員に決まり、計画は進んでいく。
「ただいま。私も田宮君も実行委員になれたよ」
今こいつ、俺の部屋に来て自然にただいまって言ったぞ。ここは笑美の家じゃないのだが?
「委員会は来週からだけど、今年は楽しくなりそうだね」
笑美はニコニコと話しているが、こっちもこっちで週末は大変だ。クラスの奴らがAAの写真を撮りに来るし、その上で観光客の対応もしなければならない。いや、AAにポーズを取らせるだけの簡単なお仕事なんだけどな。
ちなみに、笑美のクラスの出し物はお化け屋敷だそうだ。うーん、定番。
「俺も企画が通ったらという前提で局に話をしないとな」
「そうだね、長谷川さんすごく怒りそう」
俺もそう思う。どう説得したものか。
「あら、お二人さん今日も仲睦まじいですわね」
ポテチの袋を片手に、ノックもせずに入ってきたのは遙香。、出たよ、居候なのに我が物顔なやつが。
「文化祭でAAを展示する企画が通ったとして、局をどう説得するかって話だ」
「そんなの簡単よ。私か大か、まあ、あとはちょっとアレだけど屋形しか動かせないんだから。有無を言わせなきゃいいのよ」
「それは駄目だよ。移動させるにも、ちゃんといつも通りに局の車の先導がいると思うし」
圧倒的に笑美が正しい。無理を通して学校から怒られるのも勘弁だ。
「でも、アレは局の管理下にあるだけで国や局の物じゃないのよ」
「そうじゃなくて、倫理の話な」
「わかってるわよ……」
学校と未来技術保護局。両方の許可取るのは本当に大変そうだな。誰でもいいからこういうの後押ししてくれる先生出てきてくれないかな。いやもう、先生じゃなくてもいい。解決できる大人求む。許可以前に、まだこの件に関しては何の話も進んでないけど。
週末、クラスの大半が岡ノ島町に来た。AAの撮影会だ。大半がスマホだが、親から借りたのであろう高そうなカメラを持ってる奴や、インスタントカメラを持ってる奴もいる。
そして、当然AAを一目見ようと訪れた純粋な観光客もいる。
「皆さーん、これから立ち上がるので、少し下がってくださーい」
スピーカーを通してAAの中の遙香の声が響く。その声に合わせて一斉に数歩下がるギャラリーたち。その中で、ローアングルで撮影しようと仰向けに寝そべる人もいる。あ、うちのクラスのやつだ。ちゃんと下がった上でやってるし、それなら踏み潰されることもなさそうだから、まあいいか。
片膝立ちのAAが動き、立ち上がると歓声が上がる。ローアングルで撮影している奴は、立ち上がるAAを連写し続ける。
仮にも遙香もクラスメイトということもあって、いろんなポーズをキメる。それにしてもこのパイロット、ノリノリである。
さて、俺も動かすとしよう。
「こっちも動かしまーす」
肩の青い遙香の機体に続き、同じく肩が赤く塗られた俺の(というわけでもないけど)機体が立ち上がる。まったく同じ機体だけに、AIとの対話もハード的な操作も、全て違和感はない。こっちのAIにも名前付けてやらないとな。
立ち上がった俺の乗る機体には遙香の機体とは違い、目立つ装備がついている。そう、ブルーシートをつなげ合わせてマントにしたのだ。少し不格好だが、スーパーロボット感は出ていると信じたい。抜けるような秋の空にブルーシートのマントがはためく。うん、悪くないぞ。
「おお、これはいいんじゃないのか?」
「伴、本当に動かせてる! すごいじゃん!」
クラスメイトからの評価は上々だ。当然、観光客のちびっ子も大喜びだ。
ちびっ子に手を振っていると、富士見さんに連れられて屋形が来た。そこから女子は屋形の方へ。君たち、イケメンもいいけど写真はどうするのかね?
「あの、青島さんと同じ風にこっちに来た人ですよね? 握手してください!」
「え、あ……は、はい」
女子に慣れていないことが露呈する前に逃げるんだ。
「今日も仕事なんですか? 青島さんみたいに学校には来ないんですか?」
未来に彼女はいるのか、どこにお世話になっているのかなど、女子に囲まれての質問攻めに屋形はかなりテンパっている。
「顔面偏差値が高い奴はさすがだな」
田宮がぽつりとつぶやいたのをAAのマイクが拾っており、狭いコクピットに悲しく響いた。
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