第14話 文化祭ミーティング

 リモート授業での最初の1週間が終わり、まだ暑い9月の昼間。週末と言うことでバスで遊びに来た田宮と、富士見さんのアパートに帰省している屋形が俺の部屋にいる。ダラダラとゲームで遊んでいる状況だ。

「しかしすごかったなあ。あれが400年後の技術か。しかも実戦用じゃないんだよな。あれに乗れるようになった大もすごいよな」

「パイロット科の遙香の教えとAIあってのものだし。俺だけじゃ到底覚えられなかったぞ」

「いやぁ、僕がバランスを崩したとき、咄嗟に支えたよね。あの動きを補助なしでやったのはさすがだなあ。僕には出来る気がしないよ」

 俺たちはコントローラを操作しながらAAについて語り合う。ちなみに現在、2機のAAは役場の駐車場で握手した状態で突っ立っている。1970年代のロボットアニメの劇場版を彷彿とさせる立ち姿に親父は泣きそうだった。わかるかな、新旧主役ロボットや、別作品のロボットが共闘するやつ。

「しかし、AAは来るべき所に来たって感じだよな。大の親父さんのコレクションといい、お前の組んだプラモの数といい、ロボットアニメ好きすぎじゃないか?」

「それは僕も思ったよ。田宮君、さすがわかってる。僕はね、伴君に呼ばれてきたと思ってるんだ」

 ずいぶんとロマンチストだなと思うが、そこには盲点がある。

「倒すべき悪も、貫き通す正義もないんだよ」

「あー……じゃあお前たち親子のコレクションってことで」

 付属品のフィギュアもご丁寧にちゃんとついてきたな。


 リモートでもやるべきことはやらされる。ゲームに疲れたら休憩し、学校との連絡係と化している笑美から受け取っていた課題をこなす。これは田宮が来るなら笑美からじゃなくてもよかったな。俺たちが課題を進めている間、暇になった屋形は漫画を読み始めた。

 課題を始めて10分ほどし経過した。ほどほどに集中している時に階段を駆け上がる騒がしい足音。やつが来た。

「大、新刊買った!?」

 Tシャツにホットパンツ姿の遙香が乱入してきた。俺の返事を待たずに本棚を確認すると、通販で昨日届いた漫画を手に取り、勝手に俺のペットボトルからお茶を一口飲んでベッドへと転がる。

「あ、みんな気にせず課題でも何でもやってて。私は漫画を読みに来ただけだから」

 どうだ田宮。これがお前たちの知らない遙香だ。ガサツだろう。

「青島さん、もうちょっと肌を隠すとか」

「暑いのよ!」

 俺の部屋はエアコン効いてるぞ。設定温度を下げるだけ下げてやろうかと思ったが、俺たちも寒くなるので我慢だ。なお、田宮は眼福と言った感じで拝んでいた。

 遙香という台風は漫画やゲームさえ与えておけば静かになる。しかし、この静寂は俺と田宮が課題を終わらせて話題が変わったことで打ち破られる。

「なあ、大。文化祭だけど」

「なんだ? 俺は参加していいのか?」

「それは学校や局に聞いてもわないとだけど、せっかくAAが2機あって、お前と青島さんがいるだろ? 許可とってグラウンドで何か出来ないかな」

「いいわねそれ! 私は賛成よ!」

 てっきり話を聞いていないと思っていたが、遙香がものすごく食いついてきた。

「でも青島さん、やれることなんてあるのかな。この時代の学校には演習場なんてないよ。出来るのは棒立ちで手を振ったりするくらいだよ」

「いいのよそんなことは。みんなが楽しんでくれたらそれでいいのよ」

 楽しんでもらえたら良いか。俺にも何か出来ることはあるのかな。

「文化祭の出し物や係とかはそろそろ決めるだろうから、その時に俺から提案してみるよ」

 田宮は発案者だけにやる気だ。

「もう今から文化祭楽しみね。模擬店の屋台を食べ歩きしたいわね」

「うちの学校、模擬店での飲食物の提供は家庭科部と理科部しか許されてないぞ」

「なっ……!」

 遙香がフリーズした。


「こんにちはー」

 とたとたと静かな足音の後、控えめにノックをしてからドアを開けたのは笑美だ。遙香も見習ってほしい。

「片山さん、ちわっす」

「ども、屋形です」

 そういえばこの二人も初対面だったか。しかし屋形は人見知りしてる感じだ。さては屋形、女子に耐性がないな? 遙香だから平静を保っていられたと見た。

「遙香、またそんな格好で男子の前で横になって」

「いいじゃない、どうせこいつらに私をどうこうしようって勇気はないし、むしろサービス料ほしいくらいよ」

 笑美はそう言って動かない遙香の足にシーツを掛ける。

「ねえ片山さん、AAを文化祭の出し物で使おうって悪巧みをしてるところなんだけど、何か案はあるかな」

「んー……クラスの出し物ってなると大がかりじゃないかな。場所もかなり使うから、生徒会と実行委員の扱いにするとか、学校全体の企画とかにした方が良くない? もし実現するなら私も実行委員やろうかな」

 俺の椅子に座ると、笑美は田宮の質問に建設的な意見を返す。ちゃぶ台を囲む俺たちはその意見にもっともだと頷く。

「まずは生徒会に話をして、それから職員会議に? 流れがわからないけど多分そんな感じか」

「ねえ、僕は部外者だけど何かやれることはあるかな」

 屋形も参加したいのか。遙香と同じく謎の特別枠で入学してもらえばなんとかなるのかな。そこら辺は長谷川さんに学校と交渉してもらおうと思うが、仕事を増やしたら怒られそうだなぁ。


 漠然とAAを使って何かやりたいという話だけが決まったが、その先は何も進展しなかった。あとは学校でだ。

「さて……と。話は終わった?」

 遙香が本棚に漫画を戻すと、俺たちに向き直る。

「今から、何が出来るか試すわよ」

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