第13話 富士見優作の技術報告書

 高校生が夏休みを終え、始業式の日。その夜にことは起こった。未来から来た人型ロボット、AdvanceArm(以降AA)が再び降ってきた。それも、また伴家の畑である。

 この現象の数時間前にも町役場において空間の歪みのような現象を確認しており、全てに伴大が近くにいるという共通点がある。よって、街中で被害が出ることを想定し、彼を空き地の多いこの町から出さないことを提案。しばらく様子を見ることとなるが、この現象の再現性などに手がかりがないため、確認は困難なものになると思われる。

 また、今回未来より来た少年、屋形寿和は学校のメカニック科に通っているということであり、技術的な情報が提供されると判断し、一時的に私の部屋に引き取った。


 AA(IT56-J)について記す。しかし屋形寿和がメカニック科の学生であり、何らかの開発に関わっていたわけではないため、基礎的な情報のみである。


・外装

 装甲材は金属だけではなく、カーボンや現代にはない素材を使用。宇宙開発も進んでいると聞くので、無重力状態での配合で成功する物や、地球外の素材も考えられる。恐ろしく軽く硬く作られているのはこのためだろう。

 この素材はちぎれたり完全に潰れたりしない限りは元の形状に戻ろうとする性質があるようだ。修復の手間が省けるのは良いが、内側だけ破損して外装が修復されていると、故障箇所がわかりづらいという欠点があると感じた。


・エネルギー

 エネルギーは基本的に電気だが、オプションの飛行ユニットには現代と同じくジェットエンジンを使用するらしい。現物は存在しないため詳細は不明。エネルギー供給は数日に渡る作戦行動などを可能にするほど、効率の良い発電機構を有する。ソーラー発電、駆動時の熱エネルギーと運動双方のエネルギー回生と現代では再現ができない効率の良さで充電している。

 また、空気中の水素を用いているとも聞いた。こちらは背面のユニットの中に空気を取り込みフィルターによって水素のみを取り出し、シリンダーの中で圧縮、ごく小規模の爆発を起こすことで熱エネルギーと運動エネルギーを発生させ、電気として変換しているらしい。非常に危険な発電方式のようだが、空気中から取り込んだ量だけで行っているとすると、非常に規模が小さいのも頷け、そこからエネルギーを取り出すなど逆に安全でかなりエコロジーであると考える。かなり高度で洗練された水素エンジンと言ったところだ。


・駆動系

 油圧ダンパーやモーターも使われているが、特筆すべきはそれを凌駕する筋肉のような素材だ。電気を通すことで膨らんだり縮んだりと収縮する、現代で言うインクジェットプリンタに使用される圧電素子のような素材と仮定する。流す電気の量で動く量も変わるため、精密な制御が可能になる。かなり小さなこの素子が繊維状に編み込まれ、装甲の下にかなりの量が詰まっている、この電気的に動かす筋肉の力とモーター、油圧ダンパーを用いて各部が駆動するため、このサイズのAAが駆動できる。

 未来の技術といえど、完全に夢の技術と言える物ではなく、最大出力で動き続けると過剰な電力消費に発電が追いつかず、しばらく行動不能になることがあるらしい。このため、格闘などは極力控えるべきとされている。


・コクピット

 単座式のコクピットには複数のモニターと計器類、各種レバー、フットペダルなどがある。モニターは外部のカメラが映す全方向が確認できる。コクピットにはパイロット補助AIされており、死亡や意識の喪失などの最悪の場合や、パイロットの指示があった場合にはAIによる自律運転で作戦行動の続行や、帰投することが出来るようだ。しかし、あくまでも補助であり、基本的には人間の制御しきれない操縦のための存在であると言える。そのため、AIもパイロットともに成長し、パイロットに合わせて補助の内容や度合いが変わる。

 AIの自律運転には未来においても倫理的な問題など多数抱えているようだ。

 このコクピットはサバイバルコアとも呼ばれ、パイロット保護のため非常に強固に作られている。また、このコクピットの外とシートにはレールと油圧ダンパーが多数取り付けられており、急な動きや衝撃に対するパイロットへの負担を緩和することも考えられている。


・その他

 本機は教習用であるため装備がほぼ存在しないが、実戦用の機体が足らない場合を考慮し、多数のオプション装備が使用可能となっているらしい。しかし、製造コストの面などからパワーや装甲材の質も抑えられているため、どこまでの攻撃に耐え、どのような装備が使えるのかは不明とのこと。現状、青島遙香や伴大が操縦しているのを見る限り、人間と同じく5本指で扱える物はどのようにでもなりそうだ。

 なお、学校ではペイント弾やレーザーによる演習がほとんどであるようだ。


 以上、提供された大まかな情報である。屋形寿和はあくまでもメカニック科の学生というのが惜しいが、かなり有益な情報である。特にエネルギー関連は関連企業や自動車メーカーに開示すべきと思うところがある。

 ソフト的な部分で言えば、コクピット内のコンソールとつながる手段がほしいところだ。そのため、片方を部品取り兼、研究用にすべきか悩むところではあるが、未来技術保護局としての最終目標が2人と2機を未来へ帰すことであるため、分解すべきではないだろう。

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