第12話 特異点疑惑
遙香が来た時と同じく騒ぎになったが、二度目ともなるとご近所の皆さんの反応も薄い。野次馬はさっさと帰って行った。とりあえず警察に規制線を引いてもらい、マスコミに対して不法侵入されないようにする。
そうしてようやく我が家のリビング。我が伴家親子3人(祖父母には寝ていてもらった)に急遽集まってもらった未来技術保護局の3人、そして未来人2人の会議が始まった。
俺と遙香に挟まるように縮こまって座る彼、屋形寿和は遙香と同じ学校でメカニック科の生徒らしい。実習でメンテした後に外でちょっとハードに試運転していたらシステムがダウンし、次に起動したときにはここだったと。そうか、モニターが使えなかったら外の状況はわからないよな。
ん? こいつ甘い顔に爽やかな声で腰も低いが、実は危ないやつなのでは。なんでメカニック科がハードに試運転するんだ。それこそパイロット科に乗らせるべきじゃないのか。よく聞く、ハンドルを握ると性格が変わるやつみたいな感じか? この眼鏡イケメン、監視対象にすべきだ。
「で、あっちでは私はどういう扱いになってるわけ?」
「ん……ええとね。青島さんの捜索は打ち切られて行方不明者として」
最初こそ言いよどんだが、遙香が400年後においてどのような扱いか告げる。飛行演習中に突如姿を消したAAとパイロットというネタで連日報道されたことも。そして、それは自分もそうなるのだろうと。
「ふうん。ま、仕方ないわね。意味がわからなすぎるけど、生きてりゃ楽しく過ごせるもんよ」
お茶をすすりながら言う。さすがの遙香、タイムスリップの先輩の貫禄だ。
「屋形君は、今こちらの時代において身寄りのない状態だ。とりあえずの住む場所とか必要じゃないかな」
「じゃあ、俺の家に来てくれてもいいんだけど」
形原さんの言葉に、富士見さんが積極的に立候補する。ようやく技術的な話が出来るとわかるや、この前のめり。
「すみません、それじゃお世話になります。えーと、AAは……」
「いいのよそんなの、私と大で適当に動かしておくから」
「それはいいんだけど、うちとしては畑だなあ。半分趣味みたいなものだけど、さすがにじいさんたちが可哀想になってきた」
俺たち親子3人が祖父母に同情するが、こればかりは不可抗力なので、誰も責められない。
今後のことをあれやこれやと話していると、富士見さんが口を開く。
「AAの技術的な面の話は、屋形君が来てくれたのでかなり捗りそうなんだ。現代の技術で再現できないとは思うけどね。それともう一つ。大くん、君だ」
「え、俺ですか?」
「そう、最初に青島さんが来たとき、今日の昼間、そして今。全部君の近くで起きている。君が特異点なんじゃないかな」
「大、お前なんかかっこいいな! 特異点だぞ! これぞSFだなあ!」
うん、中二病心をくすぐるな。かなり滾るものがある。高校生だけど。でも親父、そこじゃない。
「確かに、言われてみたらそうですね。それこそ未来の技術でも起きない不可解な現象が俺のいるところだけで。あれ、もしかしてここに住んでたら次こそ家が壊されたりする?」
「それについてはわからない。例えばいくつか決まった位置にゲートがあって、君が近くにいることで開くかも知れないし、単純に君の近くで適当に開くかも知れない」
なるほど、解明のしようがない。2機のAAに搭載されたAIに聞いたが、やはりどちらも最後の記録はタイムスリップ直前だ。システムがそこでダウンし、再起動後はこちらの時間だ。よし、わからないものはわからない。ここは遙香の主義に乗っかって、そういうものとして受け止めよう。
「とりあえず今日は屋形君は富士見の家に。AAは明日、どちらも調査。そして大くん、君はしばらく学校を休んでもらうよ。すまない。富士見の仮説が正しければ、なるべく被害の少ない場所にいてもらいたい」
形原さんの意見はもっともだ。学校に行かなくてすむのはラッキーなのかもしれない。
そんな話でまとまり、解散となった。なお、長谷川さんはずっと蚊帳の外と言った感じで、姿勢良くお茶をすするだけだった。
翌朝、朝日に照らされるAA2機の写真を田宮たちに送り、しばらく学校に行けないかも知れないとメッセージを添える。どうせ俺だけリモートで授業になるだろうし、まあそれならどこでも問題はない。むしろ過酷な自転車通学から解放されるのが嬉しくてたまらない。
「あら、早起きじゃない」
AAの前でスマホをいじっていると遙香に声をかけられる。
「なに? 朝からオタクっぽいことしてた?」
「その通り。かっこいいアングルで写真を撮ってクラスの奴らに送ってた。夏休み延長のお知らせも兼ねて」
「それなんだけど、しばらくあの距離の通学をしないのよね? 私こっちに来てなまってるし、ちょっと付き合ってよ」
「いやだよ。俺はこれから二度寝を決め込むんだ」
「人間、体力よ。いざというときに動ける体力は大事なの! ほら、着替えてきて! 走るわよ!」
ランニングなんてまともにしてないのに走らされて、ヘロヘロで帰宅した。運動後のご飯の美味しいこと。明日からスマホで走った距離も計測してみよう。
学校へは親と局が話をつけてくれた。そしてやはり、リモートでの授業となった。世界を狂わせた感染症で広まった、リモートという選択肢がここで生きるのはありがたい。多少黒板が見づらいが、そこは我慢だ。
休憩時間にはクラスのやつらからメッセージが来たり、画面越しに話しかけてくれる。リモート授業、うらやましかろう。そんな中、田宮から送られてきたメッセージを開くと、長いURL。よく見かけるニュースサイトのドメインだ。開くと「宝くじを二度当てた一家」などという見出しが付けられていた。マスコミは仕事が早い。田宮には2機に増えたAAを見に来るようにと返信しておいた。うらやましかろう。
笑美からは頻繁にメッセージが来る。リモートがうらやましいとか、家に一人だけど、ちゃんとお昼を食べたのかとか。ちゃんとやってるから安心してほしい。お昼ご飯はばあちゃんが作ってくれたし。
さらに受信したメッセージによると、放課後はうちに来るそうだ。めんどくさい。
夕方5時ごろ、宣言通り笑美が来た。俺の部屋に通すと、昨日のいきさつを話す。
「なるほど、大が呼び寄せてるみたいな感じなのかな。その説だと」
「そうなるな。学校や街中でAAが降ってきたら、さすがに被害が大きすぎるからな。田舎で良かった」
「そうだね。過疎化は進んでるけど、おかげで何もないしね」
「遊ぶところすらないもんな。まあ、俺はしばらくこの何もない田舎に幽閉だ」
こんな話をしていると、ちょっと学校が恋しくなる。リモートは楽でいいとか思っていたのにだ。
「面会謝絶でもないし、遊びに来られる分にはいいんだよな。ちょっとクラスの奴らにメッセージ投げておこう」
「私は毎日来るよ。クラスは違うけど共通の課題とかあるでしょ」
「急に一人になりたくなったので、毎日来なくてもいいです。お願いします」
笑美はくすくす笑うと、プリントを3枚置いて立ち上がる。
「夏休み明けのテストだよ」
何も見えない。俺には何も見えないぞ。
「50分でやってね」
スマホでタイマーを起動しつつ、ドアの前を陣取った。逃がさないつもりか。
なんとか全部埋めたが、この夏休みは色々あったので、正直勉強は出来ていない。自信はあまりない。それでも、埋めただけ褒めてほしい。笑美はプリントを鞄にしまう。
「そういえば、こうやって大の部屋で二人って久しぶりだね」
「そうだっけ。ずっと一緒だったから、そんな感覚ないな」
「うん、久しぶり」
笑美は懐かしむように言う。
「さ、そろそろ帰ろうかな。最近野犬も出るらしいし」
「そっか。ありがとな」
笑美は帰り支度をし、俺も玄関まで送ろうと立ち上がった瞬間、バタバタと階段を駆け上がる音が聞こえた。その直後。
「笑美、来るなら言いなさいよ」
若干息の上がった遙香だ。どうやら笑美の自転車があったので、ダッシュで俺の部屋に来たらしい。遠慮のない居候だ。
「もう帰るところだったんだよ。ごめんね、大に休み明けのテストやらせないといけなくて」
テストと聞いて逃げだそうとした遙香に、俺だけだから安心しろと告げる。我が校の名誉生徒のような扱いの遙香にテストは存在しないはず。やりたかったらやってもいいけど。
「ほら、女の子が帰るんだから送ってやるもんでしょうが」
俺は玄関まで送るつもりだったが、つっかけに足を入れると、外に出る。
「騒がしいだろ。いつもあの調子で俺のプライバシーが消えるんだよな」
「いつも……?」
「今朝はたまたま早起きしたから良かったけど、当たり前のように起こしに来ることもあるし」
「当たり前のように……起こしに……?」
一瞬、笑美の周りに黒いオーラが見えた気がした。
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