第10話 編入生青島遙香

 今日から2学期。昨日遙香から写真が送られてきた。予定のないときだけは学校に行くことになったらしい。たまにだけど一緒に学校に行くことが出来るのは嬉しい。この夏休み、突然現れた遙香と仲良くなった。そして、遙香が行くということは、長谷川さんが送迎してくれる。バスより楽だし、何より大も一緒に通学できる。本当に長谷川さんには感謝しかない。ところで、例の写真はどう見ても大の部屋のようだけど、どういうことかな……?

 大の家に着くと、玄関先に自転車を置かせてもらう。勝手知ったる伴家の玄関先だ。私が自転車に鍵をかけていると、力なく大が出てきて、元気な遙香が続く。二人とも外で長谷川さんを待つ。私も車に乗せてもらうので一緒に待つわけだけど、話を聞くと予想通りというか、長谷川さんは時間にルーズなのを許さないらしく、キッチリしていないとすごく不機嫌になるらしい。その前提があるからこそ、早めに家の外で待っているらしい。家の中にいてもスマホかインターホンで呼んでくれると思うけど。

 そして時間ピッタリに長谷川さんが来る。この人はそういう人と聞いていたけど、前回といい、本当に時間の誤差が少ない。

 まだ頭の働いていない大に、楽しみで仕方のないと言った様子の遙香、そして私を乗せて長谷川さんは学校へと車を走らせる。今日はほぼ始業式とホームルームだけなので、長谷川さんは役場に戻らずにどこかで時間を潰して迎えに来るそうだ。それが仕事なのはわかるけど、ついでに乗せてもらう身としては本当に申し訳ないやら、ありがたいやら。


 学校に着くと、私と大は教室へ。遙香は職員室へと向かった。校門からの少しの距離だけど、制服姿の遙香を見て数人の男子が喜んでいた。歩くだけでも姿勢が良いし、すらっと背が高くて顔もいいからね、見とれるのは私もわかる。でもね、今私の横にいる男はどうなんだろう。美人は三日で慣れるというやつなのか、本当にただのオタクなのだけなのか。最近はAAにご執心のようだしね。

 あまり遙香を見てほしくないけど、その辺の感性は気になるなぁ。付き合いは長いけど、つかみ所が難しい。


 始業式のあと、ホームルームで課題の提出をして2学期の行事の話など担任から聞いていると、隣の教室のドアが開く音がして、すぐに歓声が上がった。遙香が正式にクラスメイトとして紹介されたようだ。この流れは登校日にもあったし、予想していた。

 あとは頼むよ、田宮君。遙香が来てるときの大をしっかり見張っててね。私はそう願った。


 ホームルームのあと、長谷川さんが迎えに来るまで少し時間があるので隣の教室を覗く。やはり前回と同じく、遙香の周りに人だかりが出来ている。

 入り口の私に気がついた遙香に呼ばれ、私も人だかりの一員に。と思ったけど、すぐに女子たちに引き剥がされ、教室の隅へ。

「ねぇ、あんたこのままでいいの? 伴と青島さんめちゃくちゃ距離が近いじゃない!」

「伴の家に居候してるらしいし、私が男子ならもうたまらないよアレは! あの美貌とあのスタイルの良さよ!」

「でも見てよ、大はアレだから平気だよ。それに居候といっても住んでる建物が違うから」

 私の指さす先、大は遙香と少し離れた席で男子たちと固まり、スマホで遊んでいる。田宮君の監視を願うまでもないかも知れない。

「いやー、男子はわからんよ。うかうかしてるとかっさらわれちゃうよ? 早くなんとかしないと」

 うん、早くなんとかしないといけないとは思うけど、なんとかしたいのは、今かけられているこの圧かなぁ。みんなぐいぐい来るけど、この圧は明らかに私が小柄なせいだけではないと思う。

「大体、笑美は幼なじみってところにあぐらをかいてアピールが足らないんだよねぇ。私服も地味だし、化粧っ気もないし。ベースとしては可愛いと思うんだけど」

「いや、でも絶妙なイモっぽさが笑美らしくて良いというか……一周回って可愛いというか」

 話が脱線してしまった。

「ねえ、もしかしてだけど、みんな私で楽しんでない?」

「「「もちろん!」」」

 あぁ、みんないい顔だなぁ……。


「そろそろ長谷川さんが来るぞ」

 大の声だ。図らずも話のネタになってる大が来た。これ幸いと私は逃げ出す。

「みんなごめん、お迎えの人が来るからこのくらいで。少しでも遅れると怖いんだ」

 ごめんなさい、長谷川さん。長谷川さんが時間に厳しいのをダシにしてしまいました。

 なんとかギリギリに校門を出ると、局の車が到着する。本当に長谷川さんはすごい。この人こそ高性能AIを積んだそロボットじゃないのかな。

 道中、看板が目に入ったらしい遙香がぽつりとつぶやく。

「あ、ラーメンいいな」

「学校帰りの寄り道は駄目よ。生徒手帳にも書いてあるでしょう」

 しかし長谷川さんはピシャリと否定する。この人、人の通う高校の生徒手帳も読むんだ。ちょっと怖い。

「なによ。帰ったら店なんてスーパーしかないじゃない。学校帰りに遊ぶことも許されないなんて、私まだ高校生よ!?」

「学生の本分は勉強。遙香ちゃんはただでさえ勉強が苦手なようだから、ちゃんとやらないとだめよ」

 大人の意見というか、遙香の残念な学力を引き合いに出されると、私も大もぐうの音も出ない。無論、遙香は文句を垂れる。しかし運転手が長谷川さんである以上、車は無情にも帰宅ルートを進む。

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