第9話 夏の終わり
夏休み最終日。なんとか前日に課題を全て終え、AA操縦のコソ練をしていた。コソ練と言ってもこんなものを動かしたらすぐにバレるので、全然コソコソしていない。遙香と交替で乗っている。最初はなんだかんだと言っていた遙香だが、俺たち二人の間でサボれる、乗りたいと利害が一致した。
基本動作はほとんど普通にこなせるようになった。これは遙香からもお墨付きをもらった。遙香とガクに教わりながらもっと他の動作も覚えていきたいが、これ以上役場や自宅の畑でするわけにもいかない。本当は跳んだりしてみたい。
俺が練習している時にでも観光客は見ていくので、なんだか恥ずかしい。しかし、たまに手を振ったりポーズを決めて一緒に写真を撮ったりと、これも良い練習になる。
そんなことを半日続け、後は遙香に任せて家に帰る。そう、明日から2学期が始まるので準備が必要なのだ。まあ、準備と言っても制服や提出課題の話だけで、あとは漫画を読むなりゲームをするなり、好きにダラダラと過ごすのみだけど。
いざ時間ができると、思いの外やることがない。というよりも、何をする気にもなれなくて本当に無駄に時間だけが過ぎていく。
いつの間にか眠ってしまったようだ。目が覚めたら夕方の6時半を過ぎたあたり。母親が用意しているであろう夕食のつまみ食いをしようと思ったら、ドアが勝手に開いた。否、向こうから開かれた。
「あ……」
俺は言葉を失った。俺が通う高校の見慣れた地味な制服に身を包んだ遙香が立っていた。見慣れた顔に見慣れた制服ではあるのだが、一瞬見とれてしまう。
「どう? この制服可愛いわよね!」
くるりと回転し、変なところはないかと聞いてくるが、「あ、あぁ、大丈夫」と間抜けな受け答えしか出来なかった。
「脅かそうと思って黙ってたのよ。局の人も学校に話をつけてくれて、暇なときだけ行っていいって」
なるほど、そういうことか。確かに遙香と比べて小柄な笑美の制服を借りたのならちゃんと着れないだろうし、仕立ててもらったのか。
「んー、まさか私の美しさに見とれたのかしら?」
俺の反応から見抜かれたのか。
「馬子にも衣装ってな。お前でもちゃんと女子高生らしく見えるもんだな」
図星だったのでとっさに軽口を叩くと、いつもの調子になる。
「なによ、少しは何かあるでしょ!?」
「あー、かわいいかわいい。不意を突かれただけだし、制服に見慣れててその感覚がなかったんだよ」
「ん、よろしい。ねえ、写真撮ってよ。笑美に送るから」
遙香が支給されているスマホを受け取ると、数枚写真を撮ってやる。ご満悦といった感じで操作し、笑美に送っているようだ。そして俺にも。
『可愛く撮ってくれたご褒美』
スマホに届いたメッセージを見て、俺は苦笑した。いつも無邪気に振る舞っている彼女だが、こうして写真で見るとやはり美人だ。俺だけでなく、学校でもかなりの騒ぎになるだろう。ましてや彼女は時の人だ。
「遙香、学校に行くって言っても、そんなに暇があるのか?」
俺は思わず尋ねてしまった。未来技術保護局の仕事もあるはずだし、学校に行けるほど余裕があるとは思えない。
「まあね。でも、局の人たちも言ってたのよ。『学生らしく過ごすのもお前の任務だ』って。だから、私が行ける日は学校に行くことにしたの」
遙香はどこか誇らしげに言ったが、やはり暇なときにまで相手したくないという気持ちがあるのだろう。長谷川さんなんか、特に遙香みたいな奔放なタイプが苦手っぽいもんな。
「ふーん…まぁ、そっちがそう決めたなら仕方ないな。でも、授業とかちゃんとついていけるのか? この前、夏休みの宿題手伝ったとき、結構苦戦してたけど」
「うっ…それは、まあ、今から頑張るわよ!」
遙香の顔が一瞬曇り、そしてすぐに気合を入れるように声を上げた。どうせ俺と笑美が面倒を見ることになるのはわかっている。もう諦めた。
「じゃあ、明日から学校だな。寝坊するなよ」
「分かってるわよ。でも、大が言うとなんかムカつく」
遙香はふくれっ面をして俺に突っかかってきたが、その表情もどこか楽しげだ。俺たちの間にはいつも通りの軽口が交わされる。
「そうそう、笑美から返信は?」
「うん、『明日から一緒に学校だね』って」
俺の生活もこれまで以上に騒がしくなりそうだ。それでも、どこか期待してしまうのは仕方ないのかもしれない。
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