第2話 現代でもできる、未来のロボットの新装備

 私は何か悪いことをしたのだろうか。なぜタイムスリップなどというあり得ない事態の当事者になってしまったのだろう。当然AIが何がわかるわけもないし、まして400年前であるこの時代の人たちにわかるわけがない。時間を移動するなんてSFの物語でしか見たことがない。

 とにかく手がかりがないどころか、技術レベルの後退した時間軸でも生きていかないと。いつか何かが起きて帰れるかも知れないし、迎えが来てくれるかもしれない。あと、この状況に少ワクワクしてる自分もいる。そうだ、せっかく私と、このAA(演習用でごめん)を町おこしに使おうと提案してくれたんだ。生きるためにお金を得ることも出来るかも知れない。乗るしかない、このビッグウェーブに。

 町の大人たちとあれこれ話してたけど、なんか大と笑美は輪の外にいるというか……なんなの? 逃げようとしてないかな。少なくとも大は私からの被害者一家で居候先の家族なんだから、少しは参加しなさいよ。

「大、ちょっと」

 私は二人の方へ移動する。

「あんた、なんで参加しないのよ」

「なんの権力もない小僧が参加してもなあ。しかも遙香もAAも国やその他調査機関がこれから何度もくるんだろ? 俺はそっちのが心配だな」

 ちょっと何よ、出会ってそんなに経ってないのに、心配してくれるの?

「大はあのロボットをわかってない人にいじられたりするのが許せないんですよ。町おこしとか言って外の人がたくさん来ると、いたずらされそうだし。調査目的でも、バラして戻せませんって言われたら困りますよね?」

 笑美と言ったか。大の幼なじみは代弁する。

「やっぱり専門家がいない以上、消耗させるようなことはしたくないもんな」

「あれ? 私の心配はしてくれないの?」

「人はほっといても治るけど、機械は直さないと直らないぞ」

 なるほど、こいつは一本取られたね。後で殴っておこう。でも大の心配はもっともだ。

「私もそれは気になってた。この時代とは色々違うのは明らかだし、壊れたらどうにもならないのよね」

 考えてもどうにか出来るわけでもないので、町おこしのあれこれは最低限の動きのみにしたいと提案した。役場のおじさんたちは仕方ないとわかってくれたが、一番心配していた大が一番残念そうだ。

 特に変わったことをやれる場合でもないし、急な話ですぐに物販も出来ないので、とりあえず展示からということで話がまとまった。私の仕事はたまにデモンストレーションで動かすくらいだ。


 翌朝、大は眠そうな顔で学校へ行った。自転車でほぼ下るだけだが、1時間ほどかかるらしい。私は大のおじいさんに呼ばれて納屋へ行く。そうだ、壊した納屋をなんとかしなきゃ。どうしたらいいのか……。

 そう思っていたが、気づけばAAの指先に柄が外れてひん曲がってしまった鍬の先端がくくりつけられた。

「ガク、わかる?」

 AIに聞いてみると無感情で返事が返ってくる。

「つまり、我々が駄目にした畑を耕して畝を作り直せということですね」

 だよね。まあこれは仕方ない。でもあんまりじゃない? このAAってこういうことのためにあるんじゃないの。違うのよ……。演習用でも軍用なのよ……。私はそういうパイロットを目指してないの……。

 コクピットの中でブツブツ言いながらAAに畑仕事をさせる。傍目には巨人が指先で砂遊びしているように見えるのだろうか。

 不可抗力とはいえ伴一家の畑は私がやらかしたから、少しでも手伝う義務がある。それはやらなければならないことだからいい。しかし、その姿をマスコミや町役場の人たちがカメラに収めていくのは恥ずかしい。コクピットから降りたところも撮られるんだろうなぁ。仕方ないんだけど恥ずかしいなぁ……。

 夕方になり、学校から帰ってきた大はAAを見るなり違うと叫んだ。そう、違うのよ。農作業ならそういう道具を使うべきなのよ。しかし大は私とは違った。

「いいか、作業にはそれぞれ専用のアタッチメントが必要なんだ。鍬を雑に指先にくくりつけるだけなんて、巨大ロボットをわかってないやつがやることだ」

 このオタク、めんどくさい。

「えー、でもいいじゃんこれ。ネイルやってるみたいで可愛いよ」

 笑美には可愛く見えているのか、笑いながらそう言う。見え方は人それぞれだ。

 その後町役場の人が即席で作ったSNSアカウントに、私が乗り込む写真と、AAが農作業するシュールな写真がアップされ、反響を呼んだ。昔の人はネット上で反応が多いだけで大喜びするのね。ふーん、悪くない感情よ。


 相も変わらず調査だ町のPRだと生活をして、金曜の午後。早い時間に大が帰ってきた。早いなと思ったら、1学期終業式ということで半日らしい。同じ学校に通う笑美ももう帰ってきているということで、大のお母さんに連れて行ってもらい、笑美と買い物だ。最初は警戒されていたが、何かにつけて大のところに来る笑美とはいつの間にか仲良くなっていた。

 これしかないからこの1週間ずっと我慢してたけど、笑美の服はちょっとキツくて、私には多少大きい大のジャージをメインで使っていた。軍資金は……まぁ、あるわけないんだけど、大のお母さんが買ってくれるというので楽しく休暇を過ごさせてもらうことにする。そう、服や日用品を買うのが今日の目的。畑に被害を出した上に居候の身で、生活に必要な物を買いそろえてもらえるなんて、本当にありがたいやら申し訳ないやら。

「ねえ遙香、AAはほっておいていいの?」

「いいのよ、役場の人たちも許可くれたし、明日は週末で人もたくさん来るだろうから、今遊ばないと。AAはガクに任せておけばなんとかなるから」

 そう、コードネームそのままに大がガクと名付けたAIに自律運転させておけば、それだけで未来の技術で動くロボットとして話題に……あれ、私いらなくない?


 車で1時間ちょっと、田舎から郊外へと移動すると大きめのショッピングモールに入る。店というのはこんなに密集する物なのか。合理化の進んだ私の時代とは違い、自分の目で現物を見て選択できる幅の広さにびっくりする。当然私の時代にも店はたくさんあるが、ある程度現物を展示してあるだけで、あとはネット通販でそのお店から買うのが主流だ。どうしても今必要ならその場で買うが、店頭在庫は最低限で基本は流通倉庫に集まっている。しかしこれはネット通販より絶対楽しい。

 衣料品店を見て回り、いくつかの買い物をした後におやつを食べに喫茶店へ入る。本当に、色々お世話になっていて伴一家には頭が上がらない。

「お母さん、私嫁に来た方がいいですか? 老後のお世話もしますよ」

 お世話になったお礼とともに軽く冗談を言うと、いつもおどおどしているか、ニコニコと笑っている笑美の視線が鋭く私を貫く。

「こんな綺麗な子が来てくれるのは大歓迎だけど、笑美ちゃんが来てくれるから」

 朗らかに笑い、綺麗に流される。なるほど、親公認で本人非公認の関係か。笑美が怖いのでこの話には今後触れないようにしようと誓った。しかし笑美は大のお母さんの言葉にご満悦のようだ。かわいいなこいつ。

「でも、遙香が来て寂しいんだよね。あの趣味でAAが来たわけじゃない? そんなの大にとっては最高じゃない」

 ストローでコーヒーをかき混ぜながらつぶやく。そこに意中のお相手の母親がいるというのに、なかなかの胆力だ。

「そうよねえ、親子揃ってロボットアニメとか大好きだからね。私の時もお父さんはアニメを優先してて……」

 血は争えないのだ。そもそも、あの父親に育てられたから大はこの趣味なので、血の問題でもない気がするが。

「私もそこそこオタクだったから、あまり強く言えないけど」

 類は友を呼んだか。好きな物のジャンルが違うのは、近い趣味で派閥が別れるよりは良いのかも知れない。


 その後も晩ご飯の買い物に付き合ったりと楽しい時間を過ごし、満足感に包まれて私は眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る