酒というのは面白いものだ。美味いものではなく面白い。酔いが回ると思考や体の感覚に変化が顕れる。それが面白い。

 普段何気なくやっている動作も、酒に酔った状態では覚束なくなってしまうものだ。アルコールを摂取した際に起こる特有の変化である。

 動きが緩慢になったり大雑把になったり、かと思えば予想外の行動に出る者もいる。俊敏な動作が出来なくなる訳では無い。大抵は精緻な動作が出来なくなるのだ。

 酒に酔った状態でも正確無比な動作を取られるのは、相応にアルコール耐性が高い者だ。常人とは明確に違う。大勢で呑み会をやると、各人の振る舞いが普段と違うのを目の当たりにするだろう。その違いを眺めるのも面白い。

 酒が進むと、或る者は呂律が回らない喋り方をするし、また或る者は顔を真っ赤にして眠たそうにしていたりもする。そんな中でも平時と変わらず明瞭な会話、食事の作法もキチンと守って行儀良く、一切自分のペースを乱さない者がいる。酒を呑む大人は皆そうあるべきだ。

 己のアルコール許容量を把握もせず呑み過ぎてしまい、トイレに籠もって吐くなぞもってのほかだ。恥だと思え。若い頃なら笑い話で済む事だが、遅くとも二十代半ば迄には、そのような愚行を卒業するべきだ。

 飲酒の影響には心理的変化が伴う。個人差はあるだろうが、私は割りと陽気になるタイプらしい。やたら難しい話をすると言われた事もある。

 泣き上戸や絡み酒、粗暴になる者もいるだろう。だが、酒が入ったから仕方が無いなぞと、苦しい言い訳をするような酔い方は迷惑千万。周囲に迷惑をかけるぐらいなら、お前は呑むなと言いたい。家で大人しく一人で呑んでいろ。

 飲酒で人の本性が顕れるとも言う。普段は温厚で礼儀正しい人物が、酒の席では羽目を外して大いに乱れる事も起こりうる。その乱れ具合が周囲を楽しませる程度であれば問題無い。酒は楽しく呑むべきだ。

 酒に酔って犯した愚行を、翌日には「全て忘れた記憶に無い」などと言う者がいる。記憶が残らぬような酔い方とは、一体どれ程のものなのか。私は常々、そういう輩は酒を言い訳にしているだけだろうと思っている。

 酒の影響で肉体や精神に変化が顕れたとしても、自律行動しているのであれば必ず本人の意識があるはずだ。無意識かつ無自覚に行動しているという、夢遊病者のような状態が起こりうるのだろうか。

 酒を言い訳にするな。お前の意思で呑んだはずだ。いい大人が呑むかどうか、酔った後にどう行動するか、そのぐらいは自制出来るはずだ。

 酒は百薬の長とも言う。人によるだろうが、私は酒に酔うと頭の回転が良くなる気がする。書き物を進めるのに都合が良いので、晩酌後に軽く酔ったまま仕事に取り掛かる事も多い。

 百薬の長と言いながらも、医者からは飲酒量を控えるよう注意されるのが悩みどころではある。私も若い頃に比べて無茶な呑み方は止めるよう心掛けているので、多少は大目に見て頂きたい次第だ。

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