Monologue

ひま☆やん

睡眠

 部屋の灯りを消してベッドに横たわる。真っ暗な部屋の中、エアコンと空気清浄機のパネルにあるLEDの光だけが、煌々と輝いていた。

 無駄な光だな。部屋の主が眠りについても、機械が運転中である事を示し続けている。お前は一体、誰にアピールしているのか。

 無駄な思考を巡らすのは寝付きを悪くする。何も考えないようにしても、既に思考は捉われている状態だ。この時点で駄目だ。貴重な睡眠時間を削ってまで無駄な思考を巡らす。無駄でしかない。

 貴重な睡眠時間、それは決して無駄じゃない。決して惰眠ではない。睡眠こそが肉体と精神の疲労を癒す最良の手段。他に代替え手段は無い。

 不眠のギネス世界記録は十九日間らしい。この記録を更新する者はいないだろう。何故なら、過度の不眠による肉体と精神への悪影響を懸念して、ギネスブック出版元が危険行為を助長すると判断したからだ。故に、新記録は生まれないだろう。

 つくづく思う、くだらないと。眠らない事を何故他人に誇るのか、どこに誇る要素があるのかと。

 仕事が忙しくて睡眠時間を削った、徹夜した、若い頃は夜通し飲み会をした。眠らない事を武勇伝のごとく誇らしげに語る阿呆がいる。そんな事は自慢になりはしない。

 若い頃は多少の無理も苦にならないだろう。だが、誰もが歳を取るにつれて体力も気力も落ちる。当然の事だ。それが自然の摂理である。

 努力で抗うにも限度がある。どれだけ健康に気を遣ったとしても、肉体を鍛練しようとも、必ず老いは顕れる。私自身、それを実感している。

 駄目だな。無駄な思考が止まらない。何か一つ気にかかる事があると、そこから止めどなく思索に耽ってしまう。私の悪い癖だ。子供の頃からそうだった。

 寝付きが悪いのは昔からだ。何も考えないという事が出来ない。どうしても、四六時中何かを考えてしまう。

 野生動物はシンプルだ。生きるか死ぬか、それ以外は考える必要が無い。それに引き換え、人間というのはつくづく難儀な生き物である。一々余計な事を考えなくてはいけない。考え無しでは生きていけない。無為無策の先に待っているのは破滅だ。

 そう考えている間にも、刻々と時間は過ぎ去って行く。明日に備えて早く眠らなければならないのは分かっている。眠れないだけだ。つくづく嫌になるが、私にはどうする事も出来ない。

 こんな無駄な思考も、朝まで続かないのは分かっている。自分がいつ眠りに落ちるのかは分からないが、完全な不眠症という訳でもない。数時間眠っているのは確かだ。

 今はただ、その時が訪れるのを待つより他に無い……。

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