第35話 王都到着
その後、何事も無く馬車は王都に到着した。
「アマトさん見て下さい。王都ですよ」
俺達は馬車から出る必要も無く、ザリィ達が外に出て話しただけで王都の門を潜ることが出来た。それだけ、ファルツ公爵の影響力は大きいということかも知れない。
「おぉ……凄いな」
ファルツ公爵の領地と比べても、全く別物だ。これが王都か。
「正しく都会だな……!」
立ち並ぶ建造物は殆どが二階建て以上で、普通に五階以上はありそうな建造物もちらほらと見える。科学力としては中世レベルの筈だが、明らかに文明レベルはそこを超えている。流石に俺の生きていた現代には遠く及ばないが、これはこれで中々の物だ。
「凄いでしょう? 王都にはグルタニア王国の最先端技術が集まってますからね」
「うん、凄い。魔術が発展してるからかな」
部分的には現代レベルの文明を有している感じだろう。あの塔なんかも、中世の技術じゃ建てられない程に高いだろう。王城だって、ここから見える程に大きい。
「パラティウムだって、活気じゃ負けてねェけどなァ?」
ザリィがこちらを睨みながら言うので、俺は笑いながら頷いた。
「そうだね。実際、あそこも活気は凄かった」
「だよなァ」
満足したのか首を引っ込めたザリィに、俺は思わずティアへ視線を送ると、ティアもくすりと笑った。
「それで、あの……私達はどうしたら良いんでしょうか?」
「俺は取り敢えず、宿でも取ったら良いのか?」
困り顔のジーナとハリッツ。ジーナは可愛いが、ハリッツは怖いだけだ。
「ジーナさんは私達と学園まで来て下さい。ハリッツさんも同行しても構わないですが……」
「妹の行く末が決まるんだ。行かない訳がねぇ」
「ですよね」
ティアは息を吐きながら頷く。多分、出来るなら着いて来て欲しくなかったんだろう。面倒事を起こしそうだからな。
「言っとくが、俺達は学園までだからな。そこまでお前を送り届ければ、役目は終わりだ」
「そうか……もっと、組手とかしたかったな」
馬車での移動中は全くそういう時間は無かったしな。
「まぁ、今度会った時を楽しみにしてんぜェ? そん時ゃ、もっと強くなってんだろ」
「勿論」
笑いながら返すと、ザリィも笑って頷いた。
♢
グルタニア学園。この広い王都で、王城に並んで大きいのがこの学園だ。
「入って構わん」
そして、案内された学園長室の前で待っていると、中から声が聞こえてきた。
「失礼します」
ティアが先陣を切って部屋の中に入り、俺達がそれに続く。そこに居たのは、ゲームに出て来た通りの見た目をした爺だった。60近い程には年老いているがその目は鋭く、対峙しただけで強いプレッシャーを感じる。これは、意図的なものだろう。
「良く来たな。君が海神ティアマトの龍者か……ふむ」
意外そうな表情をすると、学園長は僅かに威圧を緩めた。
「先ずは、用件を話すと良い」
「私から話します。私達の願いは、彼女を……ジーナを入学させることです」
「良かろう」
余りにも簡単に承諾した学園長に、俺は思わず間抜けな表情を晒してしまう。
「え、えっと……良いんですか?」
「試験合格者の答案は全てチェックしておるし、試験も見ておる。不正を監視するという意味も無い訳では無いが、それぞれの得意や不得意を予め見ておく為にな」
凄いな。流石は学園長だ。そこまでやるのは、純粋に尊敬できる。
「そして、ジーナという少女の答案は……特に、記憶に残っている。魔術理論に関する自由作文について」
「ッ! よ、読んでくれましたか!」
喜びを口にするジーナに、学園長はにやりと笑って頷いた。
「知っての通り、この学園の入学試験は加点式だ。例え優れていない部分があっても、極めて優れている部分があれば入学出来る仕組みだ。その点、君は魔術が突出していた」
確かに、病弱なジーナは体力面が劣っている筈だ。それでも合格点に達していたということは、他の部分で……つまり、魔術でそれを丸ごと補えたということを意味している。
「魔術士であれば、工夫や己の考えなく大成することは有り得ん。故に、あの作文があった訳だが……君の書いた内容は、儂が見ても中々に興味深いと思えるほどの内容だった。そんな生徒が我が学園に通えぬなど、言語道断」
なるほどな。元から目を付けていた生徒だったからこそ、即答だった訳か。
「特待生のようなものだ。入学金の心配は要らん……と思ったが、龍者とその巫女が付いて来たともなれば、用意は出来ているということだな?」
「えっと、はい。用意してます」
「それならそれに越したことは無い。少なくとも、儂が怒られることは無くなる」
やっぱり、タダで学園に入れたら怒られはするんだな。当たり前すぎる話だが。
「という訳で、安心せい。君は今日からグルタニア学園の生徒だ」
「ッ! あ、ありがとうございます……!」
「爺さんッ、本当に助かった!」
ハリッツが一緒になって頭を下げると、学園長は眉を顰めた。
「ところで、誰じゃお前は」
「ジーナの兄のハリッツだ!」
「敬語を使わんか、敬語を」
若干青筋を浮かべている学園長だったが、感激に満ち溢れているハリッツには届いていないようだった。
ゲーム世界の悪役に転生した俺は死なない為に強くなることにした。 暁月ライト @AkatsukiWrite
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