第33話 王都行きの馬車

 豪華な馬車に揺られ、ザリィを筆頭にした護衛と御者を含めた十二人で王都へと向かって行く。ここは軽く舗装されただけの荒れた道だが、体に負担がかかる程の大きな揺れは無い。


「凄いな、この馬車……すみません、御者さん! 後でこの馬車調べさせて貰っても良いですか?」


「すみませんが、こちらはファルツ様の所有物ですので……許可なくそう言ったことは出来ません」


 身を乗り出して聞いてみたが、駄目か。絶対魔術的な仕掛けがあるから、気になったんだけど。


「お前、気を付けろよ? 幾ら敬語でも、貴族相手だと断れねェ奴も居るからなァ」


「……確かに?」


「御者さんはファルツ公爵の名前を使って断れますから、まだ断りやすさはあったかと思いますけど、後ろ盾も無い平民の方だと絶対断れないですよ」


「……確かに」


 こっちは気楽でも、向こうからすれば貴族だもんな。気を付けるべきだな。


「トハ言ッテモ、ソウ簡単ニ身分ガバレルコトハ無イデショウ。流石ニ、学園内デアレバ身分ヲ隠シ通スヨウナコトハ出来ナイカトハ思イマスガ」


 膝の上に抱えていた布の袋から、灰色の球体が浮き上がった。既にゴーレムとしての登録は完了しているので、連れて歩いても問題は無い。


「確かに、身分さえバレなきゃ気軽にいけるな……変装系の魔術も使えるようになった方が良いか?」


「有リカト」


 開いた赤い目を点滅させるツヴェルに、二人で窓の外を眺めていたジーナとハリッツが振り向いた。


「な、何ですかそれ!?」


「丸っこいのが喋ってんな……?」


「丸っこいのじゃなくて、ツヴェルだ。ゴーレムだよ」


 言っとくけど、俺と同じくらい強いからな?


「ゴーレム……でも、なんだか、可愛いらしいですね」


「可愛いかァ? そりゃ、良くあるごつごつしたような奴じゃァねェがよォ」


「私も可愛いと思いますよ。丸いですし」


「照レマスネ」


 冗談で言ってるのか本気で言ってるのかは俺にも分からないが、どっちしろ感情コアが成長しているのは間違いないだろう。


「まぁ、沢山話してやってくれ。まだ生後一ヵ月も行ってないくらいだからな。話してやるだけでも色々吸収出来るものはある」


「オ願イシマス」


「マジ、ホムンクルスみてェなゴーレムだな」


 呆れたような目でザリィはツヴェルを見る。ツヴェルはジーナの下まで飛んでいき、その腕に収まった。浮気か?


「でも、とっても強いんですよ。ツヴェルさんは」


「可愛いのに強いなんて、凄いんですね……!」


 女子組が褒めると、ツヴェルはまるで胸を張ったように体を膨らませた。


「野盗ノ類イガ出マシタラオ任セ下サイ」


「いいや、俺が出る。妹を守るのは兄の役目だってんだ」


「……言っとくけど、テメェら全員外には出さないからなァ? 護衛は俺らで、テメェらの誰かに傷でも付いたら俺らが怒られんだよ!」


 ザリィが言うと、ツヴェルは赤い目を背け、ハリッツは熊の如き唸り声を上げた。


「……おいおい」


 その様子を見て呆れていたザリィは、突然目を細めて窓の外を見た。俺も外を見ると、遠くになにか集団のような物が見えた。


「お前らが言ってたせいだろ。来やがったぞ、マジで」


 冗談交じりに言いながらも、ザリィは緊迫した様子だ。


「つっても、余裕だろ?」


 ザリィは首を横に振ると、笛のような物を取り出して強く鳴らした。これが敵襲の合図なんだろう。


「そりゃ勝てはするだろうがァ……態々こんな馬車三台並んでるのを、しかもあからさまに貴族が乗ってるような馬車を狙う盗賊だぜェ? どう考えたって、相当な戦力を持ってんだろ。余裕ぶっこいちゃ居られねェ」


 ザリィはそう言うと、馬車から飛び出し、代わりに御者を中に入れた。


「あァ、そうだ! 巫女の力で馬車に防護でも掛けといてくれ! 頼んだぜェ!」


 外から響く声に、ティアは目を瞑ったまま小さく頷いた。


「既に……やっています……」


 馬車に、巫女の力が広がっていく。俺はその様子を確かめながら、ツヴェルと共に外に出た。


「なッ、アマト!? 待てッ、俺も行くッ!」


「お前はそこに居てくれ。妹を守るんだろ?」


 俺はそう言い残し、扉を閉めようとしたが、ティアがその手を掴んだ。


「行くのは止めません。でも、これだけ……受け取ってください」


 ティアは掴んでいた俺の右手を両手で覆い、さっきのように目を瞑った。


「『強く在れ』」


 俺の右手の紋章が一瞬だけ強く光り、ティアは手を離した。


「簡易的なものですが、無いよりはマシだと思います」


「いんや、ありがとう! 倍くらい強くなった!」


「ッ、そんな効力はありませんからね!?」


「ははッ、大丈夫大丈夫!」


 俺は今度こそ扉を閉め、既に刃を交えている数十と居る盗賊と数人の護衛達の方を見た。


「実際、百人力だからな」


 美少女の祈りには、そんくらい価値があっても良い。

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