第32話 精神性
重い話が終わり、ふっと部屋の雰囲気が軽くなる。
「今日は君の人となりがある程度分かって、私も安心出来た。王都までは私が責任をもって護送させよう。その後も、何かあれば私に相談してくれれば良い」
「何から何まで、ありがとうございます」
「いや、当然のことだ」
「感謝致します、ファルツ公爵」
揃って頭を下げると、ファルツは直ぐに顔を上げさせた。しかし、デカいな。想像以上の収穫だ。とは言え、世界を守ろうとする正義感から味方してくれるだけで、俺個人の味方になったという訳でも無いし、どこまで支援してくれる気でいるのかも不明だ。
ファルツも言っていたが、無敵になったような気でいるのは危険だ。依然警戒心を持って生きるべきだろう。
「早速なんですが……一つ、相談しても良いですか?」
「ほう、何だ?」
「その護送してもらうという件について何ですが……実は、王都まで同行する予定だった者が二人居るんです」
「君達と共に送って欲しいという話かな?」
ファルツの問いに、俺とティアは頷く。丁度良いタイミングだったからな、ここで頼ませて貰うことにした。
「構わないが、その二人についての話は聞かせて欲しい所だ」
「二人は……というか、その内の一人は俺が直接迷惑をかけた被害者なんです。ジーナっていう獣人の女の子なんですけど、お詫びも兼ねて王都の学園に通うお金を出してあげることになってて……もう一人はその子の兄です」
義理だとかは、言わなくても良いだろう。
「なるほどな。学園に通うと言っても、金だけあったところで難しいというのは分かっているな? グルタニア学園であれば、既に試験は終わっているが」
「勿論です。受かってはいるけど、入学費が払えてないって感じで……そこを俺が賄えたらなって」
ふむとファルツは頷いた。
「まぁ、良いだろう。その二人も同じ馬車に乗せると良い」
「すみません、ありがとうございます……!」
「感謝致します、ファルツ様」
二人で頭を下げると、ファルツは直ぐに頭を上げさせた。
「さて、元々は君がこの世界に来てからの話を聞こうとしていた筈だったな。君がこの世界に来て感じたことや、ブロス伯爵からの襲撃について詳しく聞かせてくれ」
「分かりました。俺がこの世界に来て感じたことは……」
ここからは、そこまで気を張る話も無いだろう。俺は漸く肩から力を抜いた。
♢
ファルツの下から去り、元の宿屋に戻った俺達は二人で別のベッドに腰かけたまま話していた。
「私は……アマトさんに人を殺して欲しいとは思っていません。確かに理想論かも知れませんけど、それでも自分たちが失敗する責任を押し付けるようなやり方は嫌です」
「俺だって殺したくは無いよ。でも、必要な時が来れば必ず覚悟は持てるようにしないとダメだなって思う。別に周りの人がどうこうじゃなくて、俺の中の話として」
周りが失敗したから俺も仕方ないなんてのは、親に起こしてもらえなかったなんていう子供の言い訳と変わらない。俺はもう龍者という立場を受け入れた。寧ろ、俺は感謝すらしている。死んだ筈だった俺が、まだ生きていられるのだから。
「まぁ、心配は要らないってことよ」
俺が言うと、ティアは怒ったように眉を顰めた。
「私は貴方の巫女です。心配しないという選択肢はありません。何時如何なる時も」
「それは……そっか」
確かに、それが役目だもんな。
「何にせよ、強くなれば解決だよな。誰が相手でも殺さずに倒せるくらい強かったら、そんなの要らない心配だしさ」
俺には、アマトにはそうなれるくらいのポテンシャルがある筈だ。
「……そうですね。応援してますよ?」
「頼んだ」
笑って言うと、ティアも微笑んで頷いた。
(ま、大丈夫だろ。ザリィがあの忍者達を殺した時も、吐きそうになることすら無かったし)
ここがゲームの世界だと知っているからか、敵が死ぬことにはそこまでショックを受けることはなかった。
(もし人を殺しても、俺の精神は耐えられるよな? ティアマト)
『うむ、大丈夫じゃろう……今のままのお主なら』
お墨付きも頂けたな。夕方には出発することは、既にジーナ達にも伝えてある。後はベッドで転がりながら待っておくだけだ。
「王都……楽しみだな」
暇だから、馬車で読む為に買っておいた本でも読んでおくとしよう。本って言っても、魔術の本だけど。
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