第26話 毒を以て毒を制す
口から血を吐き出し、痛ましい咳をするジーナ。
「ッ、ジーナ!」
「ジーナさん!?」
「私も容態を確認しますッ!」
俺はティアと共にジーナの胸に手を当て、内側の様子を確かめた。確かにそこには、少量だが俺のバシュム毒が巣食っていた。だが、それは俺が普段使用しているような、全てを溶かしてしまう毒というよりも……細胞に溶け込み、内部から構造を破壊していくような、陰湿な毒だった。
しかも、見たところジーナは元から体が弱かったようで、もう既に死は間近に迫っていた。
「……想像以上に、不味いな」
「直ぐに治療に当たります。毒は、任せて良いんですね?」
「じ、ジーナはッ、ジーナは大丈夫なんだろうな!?」
俺は頷き、目を閉じて集中する。苦しそうにするジーナの内側、肺へとその魔の手を伸ばしていた毒は、間違いなく俺のモノだ。だが、それを発動したのは海人だ。レベルが戻ったように、俺と海人は別の魂、別の存在。簡単に毒を操作することは、俺には出来なかった。
「ッ、どうすれば……」
全く以って操作を受け付けない感じでは無い。だが、このままじゃどうあっても毒を取り除くことは出来ない。ティアも、今のレベルじゃバシュム毒を消し去るのは難しい。
(……ティアマト、力を貸せ)
『力を貸せと言われてもな? この状況で妾に出来ることなど……どころか、お主に出来ることも無かろうよ』
(ある。バシュム毒を追加で送り込むんだ)
『は? お主、何を言っておる』
(だから、俺のバシュム毒で海人のバシュム毒を呑み込むんだ。同じ性質の毒なら、簡単に混ざる。混ざってしまいさえすれば、纏めて毒を操作して回収することが出来る)
『……発想は良いが、リスクもあろう』
だからだよ。だから、俺はお前に頼ってるんだ。弱り切っているジーナの体に更に毒を浸透させるようなことをすれば、先ず間違いなく耐え切れない。それを避ける為には、毒を浸透させる段階でジーナの体に影響が出ないようにする必要がある訳だ。
(ジーナの体に負担を掛けないように毒を浸透させる必要がある。その操作を、お前も手伝ってくれ)
『妾の権能で、ということか』
まだ顕現させることは出来ないティアマトだが、その存在は確かに俺の魂と隣接し、干渉することが可能な筈だ。
『くくっ、分かってて言っておるんじゃな?』
(分かってて言ってる。今の俺じゃ、どうやってもリスクが発生する)
だから、俺はティアマトに……一瞬とは言え、干渉を許す。つまり、今はただ隣接しているだけの俺の魂に踏み入らせる。
『面白い』
ティアマトは、愉快そうに言った。
『手伝ってやる。早くせよ』
「
ジーナの胸に当てられた手から毒液が生まれた。俺が普段使っているような酸の毒では無く、ジーナの体に巣食うものと同じ性質のものだ。
「ッ」
瞬間、俺の体を……いや、魂に直接触れられ、あまつさえその内側をまさぐられているかのような不快な感覚が襲った。
『くく、お主が望んだことじゃぞ?』
「分かってる」
俺の手から生じた液状の毒。本来なら彼女を苦しませる筈のその毒は、ティアマトの権能によって操作され、まるで擦り抜けていくかのように進んでいき……直ぐに、肺の辺りを巣食う毒と集合した。
『ほれ、妾の役目は果たしたぞ』
「あぁ、期待通りだよ」
俺は混ざり合った毒全体を掌握し、そのまま支配した。
「出てこい……出て来やがれ」
これなら、もうティアマトの権能で操作できる。
「
濁った緑色の毒が、ジーナの体を飛び出して外に出た。
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