第24話 悪行

 酒場を出た俺達は、買い物をする前に冒険者ギルドに向かっていた。


「おぉ、アレか」


 分かりやすい看板が掲げられた二階建ての建物。アレこそが冒険者ギルドだろう。頻繁に人が出入りしているのが見える。それも、装備を付けた人間が殆どだ。


「そうですそうです」


 ティアは躊躇った様子も無く冒険者ギルドへと進んでいく。途中で何度も冒険者らしき人とすれ違ったが、皆ちらりとこちらを……というか、ティアを見ていた。可愛いからだろう。


「良し……入るぞ」


 外からも中の様子が伺えるスイングドアの入口から、俺達は冒険者ギルドに足を踏み入れた。


「おぉ……凄いなコレ……」


 そこは、正にファンタジーだった。鎧で殆ど全身を包んでいるような男に、魔法使いらしき軽装の女。斥候のような者も居れば、槍を持っている者も居る。

 更に、この冒険者ギルドの中には獣人が多い。犬耳や尻尾が付いているだけの者も居れば、殆ど犬のような頭の者も居る。


「なぁ……の子、可愛……」


「隣の……誰なんだよ……」


 俺が彼らを見ているように、彼らも俺達のことを見ているようだった。気になるのはティアだろうが、俺に対する敵意のようなものも感じられる。


「カオスだ」


「かおすって、何です?」


 でも、それでこそだろう。俺は感動を覚えつつカウンターの方へと歩いて行く。


「えっと、どうやって登録すれば良いんだ?」


「ついて来て下さいね」


 ティアはなるべく人の空いているカウンターを見つけ、そこに並んだ。


「ここで普通に職員の方に申請すれば出来ると思いますよ」


「おっけーおっけー」


 ちょっと緊張するけど、登録するだけだからな。試験とかも無かった筈だ。


「……ん」


 開いたな。俺達は一歩前に出て、女性の職員と顔を合わせる。やっぱり、ギルドの顔なだけあって受付嬢は美人が多い。


「どうぞ。ご用件は何でしょうか?」


「冒険者登録をお願いします」


 職員は頷き、直ぐに紙とペンらしきものを取り出した。


「えっと、これなんです?」


 割と見慣れた感じのフォルムであるペンを握り、俺は思わず尋ねた。


「それは魔道具ですね。筆記に使える便利な物で、街の方ではかなり普及していますよ」


「……なるほど」


 魔道具なんだ……滅茶苦茶ボールペンっぽいけど、魔道具かぁ。


「では、こちらの紙に必要事項をお書きください。文字の読み書きが出来ないのであれば私が代行します」


「大丈夫です」


 紙には種族、職業、名前等を書く欄があり、仲間を探しているかや、得意なことについても書かされた。下の方にはつらつらと規約らしきものが小さい文字で書いてある。


「はいはいはい……」


 大雑把に言えば、冒険者ギルドのシステムと禁止行為と登録料についてだ。気を付けるべきことは、この後発行されるカードを紛失するなよってことくらいだろう。


「出来ました」


 慣れた手つきで書き終えた俺に少し面食らっていた職員だが、その内容を見て硬直する。


「……えぇと、あの」


 多分、彼女が突っ込みたいのは職業の部分についてだろう。どうせステータスを確認する魔道具があればバレるので、正直に龍者と書いた。だが、彼女からすればそれが真実かは疑わしいと言ったところか。


「これで大丈夫ですか?」


「ッ!」


 手の甲をサラリと見せ、そこに紋章を光らせる。それを見た職員は、こくこくと頷いた。


「で、ではあの……少々お待ち下さい! カードを、発行して参ります」


 職員はカウンターの裏側に引っ込んでいった。


「待つって、ここで良いのか?」


「大丈夫ですよ。多分、直ぐ出来ますから」


 先輩風を吹かせているティアだが、もしかしてもう冒険者なのか?


「ティアって、冒険者なの?」


「はい。登録はしてますよ?」


 なるほど……先輩だった。


「こちら、完成いたしました。規約に従ってFランクからとなりますが……」


「大丈夫、分かってます」


 恭しく両手で差し出されたカードを受け取る。それは金属っぽい板で、俺が記載した種族、職業、名前、性別、ランク等が記されている。


「では、登録料を……」


「どうぞ」


 横から手が伸び、ティアが登録料をカウンターに乗せた。これで、手続きは完了か。


「それでは、カードの方は無くさないようにお気を付けください」


「はい」


 俺は踵を返し、ティアと共にそのまま冒険者ギルドを去ろうとする。だが、俺の肩にゴツゴツとした手が伸びる。


「止まれや」


 そこに居たのは、二メートル近い巨体の男。頭には熊の耳が生えていてチャーミングだが、その表情はいかついの一言に過ぎる。


「お前……ティアマトの龍者だろ」


「……どうしてだ?」


「さっき、紋章を見せていたな。アレは間違いなく、ティアマトの紋章だった」


「良く知ってるな」


 しかし、俺がティアマトの龍者と分かっていてこの態度を取ると言うことは、単純に地位が高いのか、それとも俺に恨みのある人間か……だが、少なくとも海人はこいつのことを記憶してはいないな。


「ジーナのことを忘れちゃいないだろうな?」


「……ジーナ?」


 知らない。だが、この言い方から察するに……こいつは、俺に恨みがある人間だ。


「テメェが痛めつけた女の名前だよ。獣人ってだけで、気に食わなかったんだってなァ!? あァ!?」


「ま、待って下さいッ、アマトさんは……!」


 途端に激情を露わにした男は、更に一歩前に出る。男と俺の間に立とうとしたティアだが、俺は腕を掴んで引き戻した。


「決闘だ」


 きっと身分の差がある俺を、男は臆することなく睨み付けた。

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