第20話 身分差
一時間と数十分後、俺は土魔術で即席の椅子を作り出し、ザリィとツヴェルの戦いを眺めていた。それこそが、俺の頼み事だったからだ。それと、俺の稽古の結果だがかなり有益なものになった。ガサツな喋り方とは裏腹に、ザリィの教えは丁寧で分かりやすい。問題点とその解決策を具体的に教えてくれる。
そして、現在の戦況だが……十二本の触手とそれに繋がれた刃を駆使して戦うツヴェルは、ザリィに追い詰められていた。
「……なァ。なんか変だと思ったんだがよォ」
ザリィは三方向から同時に飛来した刃を全て弾き飛ばし、俺に視線を向けた。
「こいつ、ただの魔道具なんかじゃねえよな?」
「……何を言ってるのか分かんないな?」
「惚けはいらねェ。こいつは何だ? それだけ答えろ。こいつは信頼関係だぜ? 嘘を言えば碌なことにはならねえと思え」
「…………ツヴェルはゴーレムだ」
言いながらも、俺はツヴェルをサッと自分の後ろに隠した。
「やっぱりか……んじゃ、稽古の続きだ。今度はもっと本気出せよ? 気を遣う必要はねェ」
「……何も言わないのか?」
「あー、別にここは町の外だしなァ。ゴーレムを持ってようが使ってようが好きにすりゃァ良い。ホムンクルスって訳でもねェし。だがよォ、街に入る時は申請が要るからな。俺が口添えはしてやるし、龍者が相手で断られるようなこともねェだろうがな」
「そんな簡単な話なのか?」
俺が尋ねると、ザリィはあっさりと頷いた。
「そりゃァ、今は馬のゴーレムに荷物を運ばせたり、鳥のゴーレムに手紙を遅らせたりなんてする時代だぜ? 登録さえしておけば無問題だ」
(ティアマト……お前に聞いた時はもっと厳しそうな感じだったんだが?)
『時代が変わったんじゃろ。少なくとも、昔はゴーレムの取り扱いは注視されておった』
なるほどな。まぁ、そういうこともあるか。
「……じゃあ、ツヴェルを頼む」
そろそろ眠気の限界が来ていた俺は、この後十分程で眠りに就いた。
♦︎
あれから一週間と少しの間、俺とツヴェルは寝る前の時間にザリィから稽古を付けてもらっていた。お陰で体術と剣の腕、戦い方が相当上達した。道中の魔物狩りでレベルもちょっとだけ上がったし、かなり成長できたと言って良いだろう。
と、思い返していると前方に何かが見えてきた。
「あ。あれ、町じゃないですか?」
「そうみたいだな。しかも、結構大きい」
「おうよ。ここがファルツ公爵領でも一番でけぇ町、パラティウムだ」
自慢げに言うザリィ。確かに、その言葉通り目の前に広がる街は大きかった。ブロス伯爵の治めていた領地も陰鬱とはしていなかったが、この街は明らかに……活気がある。
「ここは交通量も多いからな。人も多いし、商売も活発だ」
「みたいだな」
言われてみると、門の向こう側では色んな服装の奴らが歩いている。中には、みすぼらしい格好の見るからに奴隷のような人も居る。
「……やっぱり、慣れないな」
人生の勝ち組と負け組が、目に見えて分かる。日本でも服装である程度の差は見えていたが……ここまで、明確に分かれてはいなかった。
「アマトさん、どうされました?」
「いや……文化の違いって奴に驚いてる」
首輪をつけて歩く人間を、誰も目に留めない。気にもしていない。それが、当たり前の世界なんだろう。
「奴隷、ですか?」
「察しが良いな」
俺の思考を言い当てたティアに俺は苦笑を漏らし、頷いた。
「目線を見れば分かりますよ」
「良く見てるなぁ」
戦闘に置いてはまだ戦力とはならないティアだが、その観察眼は目を見張るものがある。
「奴隷、お前んとこには居なかったのか?」
「居なかったな。そもそも、身分の差って言うのを忌避するような文化っていうか……王様も自分達で指名して決めるみたいな、そういう国だった」
「なんつーか、平和そうだなァ」
「実際、平和だったよ」
少なくとも、この世界とは違って一般人には戦闘なんてコマンドは発生しないくらいに平和だった。
「ほら、そろそろ俺らの番だぜ」
ザリィが言うと列が進み、門番達が俺達を見る。
「では、次……ッ、ザリィ様! ザリィ様であれば、列に並ばなくともお通し致しますが」
「良いんだよ。そういう特別扱いは好みじゃねェ」
「そうは言いましても……あ、そちらの方々はお連れでしょうか?」
俺達は頷き、ティアが一歩前に出る。
「こちらの方はティアマトの龍者様で、私がその巫女です」
「これで伝わるかな?」
俺は手の甲を見せ、魔力を通してそこに紋章を浮かび上がらせた。強く力を使うと勝手に浮かび上がるが、特に用途は無い。龍者の証明くらいだ。
「ッ、ご、ご確認いたしました……! あ、あの、こちらに署名だけをしましたらもうお通り下さい!」
「どんくらい滞在するとか、聞かなくて良いのか?」
俺が聞くと、門番の男はふるふると首を振った。
「問題ありませんので、どうぞ……」
「あと、このゴーレムも登録したいんだけど……どうすれば良いかな?」
「ハッ、手配しておきますのでお通り頂いて構いません」
俺は微妙な気持ちになりながらも、ティアに袖を引かれて門の下を通り抜けた。
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