第17話 悪忍
ブロス伯爵の思惑については分からないが、今はこの目の前の男だ。
「まぁ、だからよ。お前さんたちの身は守るが、ある程度の警戒はさせてもらう」
「ああ、構わない。俺も正直、ちょっと警戒してるしな」
にしても、ザリィかぁ……強いよなぁ。強いだろうなぁ。序盤のイベントとはいえ、そこそこ強い敵を簡単に殺しまくってたからなぁ。
「……と、早速来たみてえだなァ?」
「そうみたいだな。三人か?」
ザリィと話している間に雑木林から誰かが迫っていた。気配を隠して近づいているところから敵だと推測できる。
「うんにゃ……四人だぜ。一人は上手く隠れてるみてェだ」
「マジか。当たったと思ったんだけど」
しかし、雑木林から出てきたのは三人だけだった。
黒い衣を纏い、顔を薄い布で隠した怪しげな装いの者たちであった。だが、ザリィはもう一人の居場所も特定していたようで、誰もいない茂みに刀を向けていた。
「……出て来る気が無いなら、いいぜ。死ぬだけだからなァ!!」
「……
茂みから突如現れた白髪の男が手を翳すと、石の壁が地面から迫り上がり、風の刃を受け止めた。男は他と同じ黒衣を纏っているが、頭は何も覆っていない。細く開かれた真紅の目が俺たちを睨みつけている。
「やっぱりテメェらかよ。
「その呼び名は好かんと言っているだろう、二ノ宮の者よ。我らは
「はッ、テメェらが嫌いだから呼んでやってんだよ。嫌がらせだ、嫌がらせッ! 分かるか? 悪忍さんよォ」
「……下らん。しかし、龍者にお前か。これは面白いな。やはりあの者の言葉は戯言だったか。下らん。が、面白い」
何言ってんだこいつ。取り敢えず、夜者って言うのは悪い忍……忍者だ。元々は一つだった忍のグループが色々あって分裂して、組織内でも柄が悪い連中が再集合したのがこの夜者だったはずだ。仕事は選ばないが、
そして、その中でもプライドが高く、実力もあるのがこの白髪……
「さて、我らがここに来た理由だが……簡単な話だ。勧誘である」
「あァ? 勧誘だと?」
勧誘? 俺か? ザリィか?
「うむ、勧誘よ。そこの龍者を勧誘しに来た。これが我らがここに来た理由である」
「……夜者への勧誘ということなら当然拒否させてもらうけど?」
「いや、違う。夜者は余所者が入れるような組織では無いからな」
「だったら、何の勧誘なんだ?」
善哉はニヤリと笑い、少し間を置いてから言った。
「……魔王軍だ」
「おいおい、魔王軍だとテメェ? 何考えてやがる? 悪忍はそこまで落ちたってのかァ?」
ザリィは眉間に皺を寄せたが、俺は正直予想していた。というか、知っていた。
夜者という組織は魔王軍と協力関係にあるのだ。それを知るのは本来もっと先なのだが、予期せぬ勧誘が来てしまった。
「……俺の勧誘ってのは、ティアマトの龍者が人類を裏切ってるからか?」
「それもあるな。だが、他にも理由はある。お前の素行の悪さと、それに加えてもう一つ。これに関しては口に出せんがな」
「まぁ、普通に拒否で。魔王軍とか入らないから、普通」
「ふむ……本当に、入らなくていいのか? 魔王軍に入れば更なる力を手にすることが出来る。その他にも欲する物の全てを手に入れられるぞ? ザリィを恐れているならば問題は無い。我らに加えてお前とそこのおかしな機械が居ればあの男は流石に倒せる」
いや、そういう問題じゃねえんだけど。
「まぁ……あの、拒否で」
「……そうか。お前は屑の類いの人間だと思っていたのだが、どうやらそうでも無いらしい」
ちょっと前まではそうでしたね。
「まぁ、それならそれで良い。殺すだけだ……と、言いたいところだがな。流石にこの戦力差では勝てん。逃げることにしよう」
「おい、テメェ。俺が逃がすと思ってるのか? ここでお前は死ねッ!」
刀を構えて突撃するザリィだが、それを阻むように三人の忍が立ち塞がる。それぞれ小刀のような武器を取り出し、盾のように構えた。
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