第15話 vs 兵士

 黒い双剣を持つ男、ウィルナー。人目のある場所じゃ襲ってこないと思ってたんだが、普通に襲ってきやがった。


「じゃあ、作戦開始だ!!」


 瞬間、袋から飛び出したツヴェルは触手でティアを抱えて浮き上がると、凄まじい速度で空を平行移動していく。


「ぬッ! 貴様、逃げるなァ!!」


「駄目だね。お前らの相手は俺だ。海神ティアマト


 ティア達を追いかけようと後ろを向いたウィルナーの背中を水流が襲い、押し倒した。


「ぐッ、貴様ァ……いや、良い。受けた命令はもし龍者が居れば殺すこと。目印は巫女。つまり、あの巫女は放っておいても問題は無い……そうだな? 門番」


「は、はいッ!! 命令はその通りです!!」


 槍を持った兵士の男が答えた。これは、俺に攻撃を集中するという流れだろうか。悪くない流れだ。ティアの方に流れて行く敵を気にする必要が無いからな。


「ならば良し……貴様から始末してくれるわッ!! 破剣奏千ハケンソウセンッ!」


 ウィルナーが双剣を振るうと、無数の赤い衝撃波が発生し俺を襲った。


加速アクセルッ! バーニング・ストライクッ!!」


 俺はウガさんの武器を創り出し、高速で衝撃波を回避した後にウィルナーの胴体に燃え盛るメイスを叩き込んだ。ウィルナーの鎧は凹み、若干溶けると、十メートルほど吹っ飛ばされた。

 直後、凄まじい音が後ろから聞こえたので振り向くと、避けた衝撃波が街を囲う防壁に直撃し爆発している光景があった。


「うわ、結構威力高いんだな。あの赤いやつ」


 と、若干敵の技の威力に引いていると、俺の周囲を兵士達が囲んでいることに気付いた。


「範囲攻撃……ま、これでいいか」


 俺はティアマトの能力で少量の水を作り出すと、そこに超微量のバシュムの毒を入れ、空気中に拡散させると、兵士たちの口元まで運んだ。


「行くぞ……かかれッ?! ぐッ、なんだ、これは……」


「お、俺も苦しい、クソッ……」


 俺に襲い掛かろうとした瞬間、次々と膝を突く兵士達。


「毒だ。まぁ、死にはしないから安心してくれ」


 これは本当だ。相当体が弱くない限りは死なないくらいの量しか盛っていない。死ぬことはないだろう。……まぁ、何らかのダメージが残る可能性はあるが、そこまでは実験していないので不明だ。


「き、さまァ……ッ! よくも、よくも、よくもこの我を……双黒のウィルナーをッ!! 死ねィ! 爆刃双斬バクジンソウザンッ!!」


「お前、二つ名とかあるのか……ッ!」


 意外な事実に驚きながらも、スキルの効果か何かで赤く染まった双剣を回避する。


(ティアマト、あの剣なんだッ! 赤くなってるけどッ!)


(うむ。恐らく斬られるとその箇所が爆発するの。さっきの赤い衝撃波の様にな)


「恐ろしいなッ?! その剣ッ! 海神ティアマトッ!」


 出来るだけ深い傷は付けない様に戦っていたのだが、もう余裕は無い。相手は強くて、こちらを殺す気なのだ。


「無駄だッ! 大跳躍ハイジャンプッ!!」


「お前それ使えんのかよッ?!」


 発射された水の刃をウィルナーは大きく跳躍して回避した。そのまま剣をクロスし、俺に向かって落ちてくる。


「危ねッ! 久々の魔術、火槍ファイヤー・ランスッ!」


 実は覚えていた魔術、名前の通りのファイヤー・ランスが発射された。ウィルナーはそれを刃で受け止めると、大きな爆発が発生し、ウィルナーと俺は衝撃で吹き飛んだ。


「小賢しいなァ、小僧ッ!!」


「クソッ! やっぱり自分の爆発でダメージは無い系かッ!」


 仕切り直しになった場で俺は超微量のバシュムの毒を拡散させた。さっきまでは忙しくてできなかったが、今が隙だ。


「ぐッ、苦しいな……貴様、何かしたな? 殺すッ!!」


 猛スピードで迫り、赤い剣を俺に振るうが、俺はギリギリで避け続ける。その中でバシュムの毒を回らせるが……効かない?


(アマトよ。恐らくあの耳飾りだ。あの男、金色の耳飾りを着けておるじゃろ? あれが解毒の効果を持っておると見える。殺すならば今より多くの毒を一気に食らわせれば良いだけだが……)


(弱らせる目的だと、バシュムの毒も効かない、か)


 ティアマトの権能で水の刃を発射し、距離を離させ、落ち着いて周りを見た。周囲には更に多くの兵士が集まっているが、俺たちの戦いには中々入れないようだった。


「……死なないように祈った方がいいぞ。デカイの」


「何を言っている、小僧。まさか怖気付いたのか? ……残念だが、逃がさんぞ」


 これは、重症になるからできれば使いたくなかったんだが、しょうがない。


海神ティアマト


 俺が指先をウィルナーに向けると、ウォータージェットと言われるような水の線が発射された。水の刃とは比較にならない速度で迫るそれは、容易にウィルナーの胴体を貫いた。更に、回避しようと動いたせいでそのまま脇まで水線は斬り裂いた。


「ぐッ、なんだ、この斬撃は……」


「斬撃じゃなくて、ウォータージェットだ。刃の形にするよりもこっちの方が効率が良い。あの形にしていたのは、単に殺傷力を下げるためだ」


 膝を突いたウィルナーだが、剣を杖にして立ち上がると、俺に剣を向けた。だが、胴の真ん中から脇の方までスッパリと斬り裂かれた傷跡からは血が噴き出し続け、足もぷるぷると震えている。


「……もういい、寝てろ」


 反応の鈍くなったウィルナーの頭を高速で殴り付け、卒倒させた。


「……ッ! ウィルナーさんがやられたぞッ! 全員槍を構えろーッ!」


「最低でも毒無効を持ってこい。じゃないと、土台にすら立てない」


 槍を持って突撃する兵士達に超微量のバシュム毒を飲みこませていくと、前列から順番にバタバタと倒れていった。


 門の向こう側から更に兵士が来るのが見えるが、もう戦う必要も無いだろう。


「じゃ、逃げるか」


 血気迫る顔で走る兵士を尻目に俺はティア達の行った方に駆け出した。

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