第14話 人選ミス

 七日目、俺はティアに揺り動かされて目を覚ました。


「……ぁ、おはようさん」


「おはようございます、アマトさん。三時間くらいしたら出発しますので、準備をしておいてくださいね」


 そう言ってティアは朝食をテーブルに置くと、去っていった。まだ、少し眠い。


「……ま、取り敢えず食うか」


 今日の朝食はベーコンエッグと白いパン、それにホットミルクだった。ここでは定番のメニューだが、今日も美味そうな飯で何よりだ。


「あー、ティアマト。いるか?」


『おるぞ。何か用かの?』


「いや、今の内にこの世界でやっちゃいけないこととか聞いとこうと思ってな。こっちの常識を俺は知らないから」


『ふむ。それもそうじゃの。……先ず、お主の世界に確実に無いものは魔法、魔物、獣人とかかの? それと、奴隷も居らんのか』


「そうだな」


『ならば、先ずは魔法じゃ。これは、威力のある魔法は基本的に街中では使ってはならぬ。武器を抜いてはならんのと同様にな。勿論、水の魔法で水を出して飲む、くらいならば問題は無いがの』


 なるほど。


『次に、魔物じゃな。まぁ、当然街中に入れてはならぬ。テイマー、というのもあるが、それも予め申請をしておかなければならん。じゃが、まぁ、あのゴーレムは問題ないじゃろう。見た目ではバレんじゃろうし、魔道具と言い張れば良い。実際、本質的には魔物よりも魔道具の方が近いしの。勿論、気付かれれば一発で……あうと、じゃがな』


「アウト、な。イントネーションが違うぞ」


『うるさいぞ小僧め。細かいことなどどうでも良いのじゃ。それよりも獣人じゃが……先ず、獣の特徴を馬鹿にするような発言をしてはならぬ。その特徴に触るのもダメじゃ』


 触っちゃダメなのか……いや、確かにそんな描写あったな。


『最後に奴隷じゃ。これは三つに分かれる。命令に制限の無い重罪奴隷、死に直結する命令を禁じ、性的な命令を禁じることもあり、一定期間で解放されることもある軽罪奴隷。最後に特殊な事情があり、制限や解放条件を当事者達で決める契約奴隷。これは、単純に金に困っておるものがなったりもするの。一定期間、戦力として奴隷になる。というような奴じゃな。単に金だけで契約するよりも、奴隷契約の方が信頼性が高いからの』


「はぁ、なるほどな。罪を犯したものが奴隷になるってことは、牢獄とかは無いのか?」


『いや、ある。あるが、単に選べるだけじゃ。被害者がいる場合は被害者がな。余りに重い罪である場合は国が決めることことになるがの』


「なるほどな……良し、ご馳走さま。素振りするか」


 食った後は腹ごなししないとな。


『……素振りは妾が暇になるから嫌なんじゃがのぉ』




 ♢




 数時間後、魔法陣を通り抜けた俺たちは街の中を歩いていた。一応、俺もティアもフードで顔は隠している。


「凄いな、中世な感じの街並みって言うのか? 新鮮な感覚だ」


「綺麗な街並みですよね。ほら、あそこの門の先にある橋。この島から大陸に繋がっているんですが、立派なんですよ」


 ティアが指差した先を見ると、薄っすらと橋のようなものが見える。なるほど、あれを通って行く訳か。


「……ツヴェル、念のためにもう一回言っとくが、俺が良いって言うまで攻撃はしちゃダメだからな。防御はいいけど」


「分カッテイマス、マスター。心配ハ無用デス」


「そっか、それなら良いんだけど。頼むぞ」


 袋の中に入れているツヴェルに小声で言うと、袋の内側に僅かに赤い光が灯り、返事が返ってきた。最初と比べるとツヴェルも口数が多くなったな。


「……あの門の前に立ってるゴツい男、もしかしなくても監視?」


 俺が指差したのは門の前に仁王立ちしている鎧を着た黒い肌の男だ。両腰には一本ずつ剣を挿している。筋肉質で図体もデカく見るからに強そうな男だが、ゲームで登場した覚えは無い。


「ですね……恐らく、私が通り抜けるのを見られるだけで止められるでしょう」


 じゃあ、ある程度近づいたら全力で逃げるしかないか。


「俺が合図したらツヴェルはティアを抱えて全力で飛んでってくれ。俺は少し足止めしてから行く。逃げるだけなら得意だから心配は無い」


「了解しました、マスター」


 実際、加速アクセルのある俺に追いつける奴は中々いないだろう。


「……本当に大丈夫なんですか? あの人、かなり強そうですけど……」


「大丈夫。最悪ウガさんでも呼び出せば負けは無いし」


 とは言っても、ウガさん達は出来るだけ呼びたくない。魔力の消費がエグいからだ。一番魔力の消費が少ないウリディンムですら十分ちょっとしか保たないのだ。


「そうかも知れませんけど……分かりました」


 良かった。正直、ティアを人質に取られるのが一番キツイ。



 と、話している間に門は近付き、もう目の前まで来ていた。


「次の者、通れ……ん、これは……来ましたよッ! ウィルナーさんッ!」


「……来おったか、愚か者が」


 俺たちに気付いた門番の言葉を聞くと、壁に寄りかかり目を閉じていた黒い肌の男は片目だけを開けて俺たちを確認すると、もう一つの目も開き、二本の剣を抜いてそう言った。

 どうやら、名前はウィルナーと言うらしい。


「死ぬが良いッ!!」


 ウィルナーは双剣を構えると、俺に向かって真っ直ぐ突撃した。


「ッ!? おいッ! こんなところでおっぱじめるつもりかよッ!」


「無論ッ! 善は急げだ愚か者ッ!!」


 こいつ、脳筋かよッ! 監視を置くにしても人選ミスだろッ!?

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