第12話 バシュム

 海神ティアマトの力の使い方を見せた訳だが、それに伴って毒の使い方も思い浮かんだ。


「それと、一つ技を思いついたんだけど……」


 俺は爪から毒液を僅かに分泌させ、海神ティアマトの権能で水を出し、それを希釈した。こうしてできた1/100バシュム毒を海神ティアマトの権能で操作し、目に見えないくらいまで薄く散らした。こうして空気中に漂わせた毒液を……、


「プ、プギィ! プギイィィ!! プギッ! プ、プギィ……」


 通りすがりのブラックボアの口内で再集合させる。すると、1/100バシュム毒がブラックボアの体内を蹂躙し、破壊する。


「1/100に希釈してもこの威力って、やべえな」


『当然じゃ、バシュムの毒はその威力だけで言うなら最強格じゃからな』


 ティアマトは自慢げに言った。


「それで、この戦法、結構強いんじゃないか?」


『そうじゃの。誤って仲間の口に入れんように気をつける必要はあるが』


 そうなったら、マジでシャレにならんな。


「まぁ、当然気をつけるとして……後は、単純にこう言うのもありだよな」


 そう言って俺は召喚した短剣に希釈した毒液を垂らした。


「これを……ほらよっとッ!」


 俺が全力で短剣を投げると、猛スピードで飛んでいき、瞬きもしないうちに遠くのゴブリンに突き刺さった。

 ドロリと溶けていく仲間の姿を見て、近くにいた二匹のゴブリンは慌てふためいている。チョロチョロと動いているので短剣は投げても当たりそうにない。

 というわけで俺は希釈した毒を薄く広げ、空気中に漂わせ、50m程離れた所にいる二匹のゴブリンに近づけた。

 余りの混乱に動き回り、息を荒げているゴブリンはゼエゼエと物凄い勢いで空気中の毒液を吸っていった。

 十秒後、地面には新たに二つの死体が横たわっていた。


「態々液体に戻して口に入れなくても、あのくらい広げとけば勝手に吸って死んでくれるな。これは大勢を相手する時には便利そうだな」


『便利そうじゃが、味方がおる時には使えんの』


 確かにそうだな。ある程度は指向性を持たせないと味方が吸う危険性もある。


「まぁ、こんなところかな。かなり強い権能なんじゃないか?」


『ククク……アマトよ、我が眷属の権能に強くないものなど無いぞ』


「ああ、うん。知ってる知ってる」


『……お主、適当に流しておるな?』


 実際、知っている。ティアマトの権能で弱いものなど無い。これは紛れも無い事実だ。ゲーム内で何度も苦しめられて来た俺は知っている。




 六日目、鍛錬を一通り済ませて晩飯を食った後、本当にやることが無くなった俺はティアマトの眷属達と顔合わせを済ませておくことにした。そして現在。取り敢えず全員呼び出したところである。


「最近はこの姿が多いな。しょうえね、とか言う奴だったか? 人の子よ」


 燃え盛る獅子の頭に人の体。轟々と燃える炎の光を銀色の短剣とメイスが反射する。

 二・五メートルもある筋肉隆々の巨体に彫りの深い獅子の顔。そんな威圧感のある外見から全く似合わない単語を吐き出したのは、ウガルルムだ。


「……ふむ。私は初めての顔合わせと言うことでありますな。私はウリディンムであります。私の力がアマト殿の中に生まれてからはずっと中から見ておりました。それでは、自己紹介をさせて頂きます。長所は素早さ。短所は感情の制御が得意でないこと。得物は、余程特殊なもので無ければ何でも。今後ともよろしくお願いするであります」


「よ、よろしく」


 上半身は人間、下半身は馬ほどもある大きな犬。まるでケンタウロスの馬を犬に差し替えたような異形だが、人間の部分である顔は整っている。因みに、人間の顔であると言ったが、耳や歯などは一部犬の特徴もある。彼女はウリディンム。加速アクセルの権能の人だ。ティアマトの11体の眷属の中では貴重な女性枠である。


「我はバシュム。知っての通り、毒を持っている。以上だ」


 簡潔すぎる説明のバシュムだが、現在の見た目はこの三体の中で最も人に近い。濃い緑色の髪と目、それと頭に角が生えており、背中には翼があるだけである。それと、一応爪を伸ばすこともできるらしい。だが、翼はあるだけで飛べないそうだ。


「えっと、魔力の余裕がないからウリディンムとウガさんは還すけど、バシュムの真の姿を見せてもらってもいいかな?」


「是非も無し」


 短く告げられた言葉と同時にバシュムの体は光となって消え、代わりに化け物が現れた。

 それは十メートル程の長さの太い蛇で、立派な角と二本の前足に凶悪な爪、それに二つ合わせると四メートルにも届きそうな巨大な翼。口からヒョロリと伸びた舌は毒液を垂らしながらチロチロと蠢いていた。

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