第9話 ゴーレムの作製
一日目、空いた準備期間の特訓として、俺は自分で作った木刀を振り続けていた。
というのも、ジャイアント・アースゴーレムを倒した俺はレベルが19まで上がっており、今ある鍛錬用の木の剣ではどれも軽すぎて鍛錬にならないのだ。一番重い物ですら指で摘んで遠くまで投げ飛ばせてしまう程である。
『……アマトよ。そろそろ良いんではないかの?』
「ん? そうだな。今何回くらいだっけ?」
『789、790、791……満足かの?』
「いや、1000までやるよ。まだ数えといてくれ」
そうすると、ティアマトは何か言いたげな溜息を吐いた後、カウントを再開した。最初の印象は最悪だったが、意外と言うことを聞いてくれる。割と便利。
四日目、素材をありったけ掻き集めていた俺は、鍛錬後の休憩時間を利用してゴーレムを作っていた。そして、今それが形としては完成したところである。
「遂に出来たな、ツヴェル」
『……うむ。出来てしまったの』
台座の上に置かれているそれは、灰色の球体だ。バスケットボールくらいの大きさがあり、細い線が無数に走っている。
これは、俺の作ったゴーレムだ。ティアマトの手を借り、知識を借り、漸く完成させることが出来た。
まぁ、大体分かるかも知れないが、ターミネート・アサシンとジャイアント・アースゴーレムの素材を使用している。真っ二つに割れたゴーレムのコアを融合させ、ついでに色々と混ぜているコアは、性能としては元の状態よりも上だ。
そして、ターミネート・アサシンの素材は殆どが燃え尽きていたが、触手の先端に付いていた十二の赤い刃だけは無事だった。これらは遠隔操作で動かすことも可能だが、灰色の金属に接続させて元の触手のように振るうのが効果的だろう。
最後に、灰色の金属の正体だが、これは『島の主の洞窟』のボス部屋にある、少しだけ色の違う土壁を壊すと現れる隠しダンジョン、『真・島の主の洞窟』のボスであるマギメタル・ウォーリアーから採れる希少な金属のマギメタルを、山の頂上にいるアシッド・スライムとメルト・スライムが合体して現れるディゾルブ・スライムの粘液に混ぜると出来る流動するマギメタルに、『真・島の主の洞窟』のボス部屋に置かれた宝箱に入っているミスリルの大剣をウガルルムの炎で(普通の火でも良い)溶かしたものに、山の頂上に埋められていた地龍の遺灰を混ぜ(龍の種類は関係ない)、もう一度固めると出来る。
これがゲーム内で序盤に最強武器を作る為の金属、魂鋼(たまはがね)だ。名前の由来は、まるで魂を持っているかのように動く金属であること。本来は、この金属を氷龍の素材で出来たハンマーで叩くと固まり、それを素材に武器を作るのだ。
主人公が最初に辿り着く街には氷龍の槌を持った鍛冶師が居るので、魂鋼を打つことができる。だが、俺の近くにある島ではどうせそんな代物を持っている鍛冶師は居ないだろうから早々に見切りをつけ、迷いなくゴーレムの素材にしたのだった。
そんな高性能な素材を山ほど積んだ体に、ティアマトから教わった術式を刻み込んで出来たのがこの球状のゴーレム、ツヴェルだ。
「『魂の炉よ、起動せよ』……えっと、こう言えばいいんだよな、ティアマト?」
『うむ。それともう一つ、忘れておらんよな?』
「ああ、勿論だ。『目を覚まし、主たる我に従え』」
数秒間の沈黙の後、ツヴェルの体が一度震え、ゆっくりと宙に浮き上がる。
「…………起動。マスターヲ、確認シマス。……魔力認証、一致。ワタシハ、ツヴェル。マスターノ名前ヲ登録シマス」
中性的な声が響き、灰色の球体に細かく入った線から赤い光が漏れる。
「時見、天音。トキミが姓で、アマトが名」
「マスター名、トキミ、アマト。登録シマシタ」
そこまで言って、ツヴェルは動きを止めた。恐らく今は命令待ち状態なのだろう。
「なぁ、ティアマト。何かこう、カタコト過ぎないか?」
『しょうがないじゃろう。声帯に代わるものが無いのじゃからな。それに、本物の魂も籠っておらん』
成る程、確かにそうだ。今は魔力で振動を出しているだけの状態である。
「じゃあ、なんかいい感じの声帯は無いのか? それと、ゴーレムに魂を籠めるにはどうすれば良い?」
『……ふむ。まぁ、無いことはないの。あと、魂が籠められたものはゴーレムではなくホムンクルスじゃ』
ホムンクルス。聞いたことあるな。
「それで、どういう条件で篭るんだ? その、魂ってのは」
『先ず、魂が篭るには相応の器が必要じゃ。尤も、それは既に出来ておるがの』
既に出来てるのか。少し、気になるな。
「相応の器ってのはどういう条件でそうなるんだ?」
『魂が宿るに足る素材で体が出来ていること、それが生物の素材を含んでいること、体を動かす役割を持つ部位があること、十分な魔力が篭っていること……後は、作者の気持ちが篭っていることじゃの。簡単に言うならば、体と魔力と感情、全てが高水準で備わっていることじゃ』
……ほー、感情か。
「肝心の魂を作る方法は?」
『一番簡単なのは、使い魔を作ることじゃの。実体の無い使い魔をホムンクルスにぶち込むのが一番楽じゃろうな。とはいえ、使い魔の魂は飽くまで似て非なるものじゃ。完全な魂には成り得ん』
「完全な魂を作るのは無理なのか?」
『霊を利用するか、邪法を使うか。他にもあるが、何にしても重要なのは確立した意思を作り出すことじゃが……まぁ、何にしても今のお主じゃ無理じゃろうな』
意思、か。今の俺じゃ難しそうだが……というか、だ。
「なるほどな……それで、ホムンクルスって禁忌とかじゃなかったか?」
『らしいの』
らしいって何だよ。
「流石にナシだな。学園編を投獄編にするつもりは無い」
『ホムンクルスの方が基本的に性能は良いんじゃがなぁ』
こいつ、俺を陥れようとしてるのか、ただ能天気なのか分からないな。
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