第8話 秘められていたこと
20分後、俺は島の半分を占める山の麓にある大きな横穴に入っていた。
既に群れのゴブリンや、人間並みの大きさのゴーレムは何体も狩っていた。さっき一撃で中ボスのスライムっぽい奴をメイスの炎で溶かしたところだ。
「……良し、そろそろだな」
『うむ。恐らくその先に島の主はおるぞ』
俺は深呼吸をし、メイスと短剣を構え直し、木製の大きな門を通った。
門の先はだだっ広いドーム状の空間になっており、その中心には身長が十メートル程もあるゴーレムが長い腕をダラリと垂らして突っ立っていた。
だが、俺の存在に気付いたゴーレムは一瞬だけピクリと動くと、俺に向けて進み始めた。
「
肉体が、神経が、思考が、全てが研ぎ澄まされていく。加速した俺とは逆に停滞したように見える世界の中に、大きな土のゴーレムが石の散りばめられた拳を振り上げているのが見えた。だが、遅い。遅すぎる。
俺は拳を軽く回避すると、ガラ空きの胴体に燃え盛るメイスを叩きつけた。
胸元に嵌っていた大きな石版が砕け散り、大きな赤色のコアがチラリと露出した。あれを壊せばこのボスは死ぬ。
「バーニング・ストライクッ!」
少しだけ見えるコアに勢いを増した火炎のメイスを再度叩きつけた。
バキッ、音がしてコアはヒビ割れる。だが、まだ殺せていない。
「バーニング・エッジッ!」
さっきの一撃で更に露出部分が増えたコアにナイフを差し込み、ヒビ割れたコアをテコの原理で真っ二つにかち割った。
「Pi,PiPiPi…………」
謎の音を立て、ゴーレムは絶命した。
「……え、これで終わりなの?」
もう慣れたレベルアップの感覚でゴーレムの死を理解する。
『まぁ、順当な結果じゃの』
「いや、弱すぎでしょ……」
『……はぁ。普通だとあの石版を砕くのに苦労するのじゃ。そして石版を砕いても暴れ出すゴーレムに近付けずに再生を許してしまうのじゃ』
「暴れてたんだ、あのゴーレム。気付かなかった」
『……暴れ出す前に死んだからの、気付くも何も無いのじゃ』
なんか、ごめん。ゴーレム。良いとこ何も出せずに終わったみたい。五ターン以上戦闘が続くと小さいゴーレム達を呼び出すギミック、見れなくてごめん。
「……じゃ、帰るか」
何かガッカリしたような気分のまま、俺はトボトボと帰路についた。
♢
帰ると、涙目のティアが顔を真っ赤に染めて激怒した。
「本当に、本当に心配したんですからッ! 言ったじゃないですかッ! 外は危ないって、まだ早いって……本当に、本当に死んだかと思ったんですよッ!!」
「い、いや、ほら、島の主倒してきたから……」
そう言って懐から二つに別れた赤いコアを取り出す。
「ッ、そんなことをッ! そんなことを言ってるんじゃなくて……あぁもうッ! 良かった、良かったよぉ……生きてた、生きてた。あぁ……」
俺に縋り付くように倒れかかり、俺の服を濡らすティア。おかしいな。昨日まではガチガチに距離を置かれてたし、何なら嫌われてたかと思ってたんだけど。
「……すまん。心配させて」
「本当ですよ、本当ですッ、あぁ、もう、本当に……」
女っ気のない人生を過ごしてきた俺に、こういう時の対処法は分からなかった。ティアマトの野郎も黙って見てやがる。あぁ、もう、全く、どうしたものだろう。
数十分後、ティアは泣き止み、俺に頭を下げていた、
「本当にすみません、見苦しいところをお見せしまして……」
「いや、もう、ホント全部俺が悪いから。頭は下げないでくれ。頼む」
ティアの頭の位置まで屈み込んで俺は言った。
「……違うんです。本当は、本当は全部知ってたんです。ターミネート・アサシンが、この森に放たれていることも、それがこの国の貴族によるものだってことも」
ターミネート・アサシンが、放たれた?
「どういう……それは、どういうことだ?」
「私はブロス伯爵達から圧力を受けました。今代の龍者はターミネート・アサシンに襲われて死ぬが、不幸な事故で死んだことにする。お前は真実を漏らさず、黙っていろ、と」
……そんなこと、ストーリーにあったか?
「ブロス伯爵って、ここら辺一帯の土地を支配してるって言ってた奴だよな」
「はい。私がこのことを漏らせば、お前も死ぬ、と」
ティアは目を伏せて言った。
「……じゃあ、俺が生きてるだけで結構問題だったりする?」
「かも、知れません。でも、私も元々殺す気はありませんでした。時期を見て、どうにか逃がそうと……」
だから、結界の外に行くのを引き留めてた訳か。
「……でも、俺を警戒してるよな? 恐らく、普通以上に」
「……私が今代の巫女を受け継ぐ時に言われました。龍者には、ティアマトには気を付けろ、と。海神は龍者を誑かし、お前を傷付けるだろう、と」
うん、殆ど正解じゃね。
「しかし、それと同時に言われました。かと言って突き放してはならない。警戒し、見極め、理解してから判断せよ、と」
「それで、今は見極めてる途中ってことか」
まぁ、だったら精々悪い奴では無い程度に思われるようにしておこう。
……いや、それだけじゃダメだな。良い奴だって思われるくらいじゃないと、悪役の俺は運命の流れに呑み込まれて死ぬかも知れない。普段からのアピールを心掛けよう。
「……はい。でも、これを話すのはある程度の信頼の証でもありますよ?」
「あー、なるほどね。ありがとう?」
首を傾げて言う俺にティアはクスリと笑った。
「はい、どういたしまして。それじゃ……一週間後、島を出ましょう」
「…………良いのか?」
島を出ればその伯爵に気付かれてしまう可能性は高い。
「ええ、ですが、考えがあります」
「……考え?」
「はい、貴方が居なければ実現しない作戦です」
俺が居なければ実現しない作戦……なんだ?
「……分からん。一体、どうするんだ?」
「簡単な話ですよ。単純明快な……正面突破です」
正面突破、ってやり合うってことか?
「……マジ?」
「まじです。詳細を説明しますね。先ず、人通りのあるところでは襲われる可能性は低いと思います。流石に、衆目の中で龍者と巫女を殺す訳にはいかないと思うので」
「じゃあ、襲われる可能性のある場所は……町の外か、路地裏とか?」
「そうですね。でも、路地裏は気を付けていれば問題ありませんし……取り敢えず、速度が勝負です。街で巫女と龍者が居ることが噂になれば、街の外は全て監視が付き、そこそこの戦力が配置されることでしょう。ですが、噂になる前に駆け抜けて外に出てしまえば、最低限の監視しか居ないはずですから、その程度なら倒して逃げられる筈です」
確かに、そうかも知れない、けど。
「でも、街の外に出て、監視を抜けたところで追手が来るんじゃないか? それも全部突破出来るとは思えないが」
しかも、ティアを守りながらだ。正直キツイだろう。
「それも、速度が勝負です。追手が来る前にブロス伯爵の手がかかっていない街まで逃げます。食料や旅に必要な物はこれから一週間の間に買い込みます」
なるほど、その為の一週間か。
「……分かった。不安だが、何もしないよりはマシか。……あ、俺は死んだことにして、一般人の振りをして街を出るっていうのは?」
「無理ですね。ステータスに龍者とある時点で直ぐにバレます」
……そうじゃん。
「じゃあ、これから一週間、全力で鍛錬するよ。もし追手に追いつかれても倒せるくらいにな?」
「ふふっ、そうですね。お願いします」
吹き出したように笑ったティアの笑顔は綺麗だった。
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