第4話 鍛錬

 数分後、のぼせた俺は湯を上がった。


「あ、上がりましたか。夕飯の準備は整ってます」


「風呂、最高だったよ。いただきます」


 いやー、本当に風呂は良かったなぁ。筋トレの疲れが汗ごと全部流された気がする。


「あ、美味い。この赤いの何?」


 俺が指差したのは赤い楕円形の何かだった。味としてはうずらの卵に似ている。


「これはクォリア鳥の卵です」


 ……クォリア鳥。聞いたことあるような、無いような。


「これも美味いな。何の肉?」


 味も見た目も豚肉のような肉があった。かかっているタレと合わせて中々美味しい。昔、鹿児島で食べた黒豚といい勝負だ。


「これは豚肉です」


「豚肉はそのまま豚肉なんだ……こっちの世界だと違う生き物なのかなって思ったけど、世界が別でも同じ生き物は居るんだな」


 そういえば、アイテムで牛乳があった記憶がある。となると、牛も居るのか。


「違う世界なのに同じ生き物……不思議ですね。ただ、豚は完全に家畜用なので野生には居ませんよ」


 完全家畜用か……まぁ、そうだよな。豚ってそうか。俺は若干気になりながらも、聞くべきことを今のうちに聞いておくことにした。


「食事中に悪いけど、二つ質問してもいい?」


「はい、構いません」


 取り敢えず聞きたいことは二つだ。一つ目は……、


「先ず、この島はいつ出ることになる?」


「……大体一ヶ月と半月くらい後になるんじゃないでしょうか。この島の主を倒したら、この島から出ても良いということになっています。それと、入学が二ヶ月後と言うこともありますので」


 ここはゲームと同じか。主人公や、他の龍者のいる島とボスが同じかは分からないが、確か推奨レベルが18くらいだった気がする。


「次に、この島の食糧ってどこから仕入れてる?」


「えっと、近くに此処よりも大きな島があるんですけど、そこから買ってます。記憶に残っているか分かりませんが、何度かアマトさんも行ったことはあります。その島は大陸側との交易も盛んなので、色んなものが売ってるんですよ」


 ……言われてみれば、思い出してきた。やばい。碌なことしてないな、海人


「ごめん、質問が一つ増えた。買い出しの時に結界の外に出ても大丈夫?」


「あ、結界の外に出るわけではないですよ。神殿の地下に転移魔法陣があるのでそこから島まで飛んでます」


 なるほどね。転移魔法陣。あったなそんなの。


「最後だけど、今って八人全員が島に居るの?」


「えっと、今から二ヶ月後にグルタニア学園に行ってもらいますので、今はその為の修行期間として全員が島に居るはずです」


 オッケー、これもゲームと変わってないね。


「ご馳走さま。それと、答えてくれてありがとう。俺はもう寝るよ」


 正直、飯と風呂で休まったとはいえ、疲労は完全に取れておらず、かなり眠い。さっさと寝て明日からまた頑張るべきだ。


「はい。龍者様の家はこちらです」


 家、と紹介されたそれは、窓から月の光が差し込む大きめの小屋だった。中は落ち着く造りで、穏やかに眠れそうな場所だった。


「ありがとう。じゃあ、明日もよろしく」


「はい、よろしくお願いします。それと、何度も言いますが……許可なく結界の外には出ないように、お願いします」


 念を押すように言ったティアに違和感を覚えたが、俺は考える間も無く眠りについた。




 ♢




 一ヶ月後、俺はベーコンエッグのようなものとパンを食った後に、素振りを始めていた。訓練用の木の剣はいくつか種類があり、少しづつ重さを上げていくことにしていた。俺が能力で出せる武器もあるが、あれは俺に合わせられているのか、見た目の割に軽くて振りやすく、素振りには向いていなかった。


「……299、300」


 そこまで数えたところで木の剣を放り投げ、木の床に寝転がった。この小屋は鍛錬用の場所で、武器や防具に筋トレ用の道具のようなものがいくつか置いてある。

 水分も摂り、十分に休憩した俺は腕立てや腹筋を何セットか済ませ、再度素振りに戻った。これを三回繰り返せば小屋での筋トレは終わりだ。




「はっ、はっ、はっ、はっ……」


 現在は結界の内側をグルリと回るように走り続けている。現在、漸く四週目が終わったところだ。と言っても、一週で一キロくらいだ。

 ランニングは取り敢えず30分を4セットにしている。詳細な時間は時計がないので分からないが、ティアに聞けば大体の時間は分かる。かくいう俺も、ある程度なら分かるようになってきたが。




 次に戦闘訓練だ。現在、俺の目の前には木で出来た高さ二・五メートル程のゴーレムが立っていた。だが、所々に金属で補強された跡があり、拳はもはや完全な鉄塊になっている。巨大な見た目通りの足の遅さではあるが、腕が長いのでリーチは長く、拳を振るう速度はかなり速い。この鉄拳で俺は何度も青痣を作ってきたが、最近では当たることも無くなってきた。


『……のぅ、アマトよ』


「なんだ、今は戦闘中だって、のッ!」


 急に話しかけてきたティアマトを鬱陶しく思いながらもゴーレムを斬りつけ、露出したコアに剣を突き立てた。すると木製のゴーレムは急に力を失い、地面に倒れ伏せた。


『ほら、もう終わったではないか。いい加減おかしいとは思わんのか!』


「おかしいも何も、順当な鍛錬の成果だろ。何がおかしいんだよ」


 最近、ティアマトが鬱陶しい。やれレベルを上げろだの、現状に疑問を持てだの、おかしなことしか言わないのだ。


『もう十分基礎は鍛えたじゃろうが! わらわが折角戦い方まで教えてやったと言うのに、いつまでこの結界の中で燻っておるのだ!』


 こんな風にな。

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