第2話 龍との契約
正直、こいつ以外の龍者なら誰でも嬉しかったんだけど……何で、何でよりによってこいつなんだ。
もっと他に居ただろッ!! 主人公とか、他の龍者とかさぁ!!!
「……私はティアです。ティア・タラッサ。龍と人が友と成りし時より続く、由緒正しき巫女の血統。私はその、今代の巫女です」
全て知っている。俺は頷いた。彼女は俺、もとい海人に色々と酷いことをされ、最後には主人公のヒロインとなる、人気キャラの一人だ。海人の一番の被害者であるとも言えるだろう。
ただ、一つだけ俺の知ってる彼女と違うことがあった。それは、彼女はここまで他人行儀ではないということだ。もう少し緩くて、ちょっと抜けてるようなキャラだ。だけど、それを俺に見せないってことは……警戒心を持たれてるってところだろうか。
今後、心を開いてくれるか? 正直、不安だ。
「そういえば、ティアマトの声が聞こえなくなってるんだけど」
海人だった頃、ティアマトの声を心の中で聞くことができていた記憶がある。
「……もしかしたら、魂が入れ替わった影響かも知れませんね。分かりました。もう一度契約の儀式を執り行いましょう」
「おっけー、頼む」
ティアは頷くと、説明を始めた。
「先ず、魔力の動かし方をおさらいします。ゆっくり深呼吸をして下さい」
言われた通りに、吸って吐いてを繰り返してみる。
「そうすると、なんだか暖かいものが体に満ちていくのを感じませんか?」
「あー、分かるかも」
これが魔力ってことか?
「……それで、その暖かいものをゆっくりと手に集めて下さい。ゆっくりです。ゆっくり、循環する血液を逆流させるようなイメージです」
結構恐ろしい例えだな。逆流って。
「……出来た、出来たよ」
魔力が手に集まって行くのを感じる。
「はい、それは一旦解放して下さい。次に、体全体に循環させるように魔力を回してください」
「あー、多分出来た。こうかな」
恐らく、これで出来てる筈だ。
「はい、そしたら、魔力を循環させながらも手と胸に集めて下さい。手は合わせた状態の方がやりやすいと思います」
手を合わせ、循環させながらも少しずつ魔力を切り取っていった。
「……出来た」
「えっと、できたらこれの通りに唱えて下さい」
見せられた紙には見たことも無い言語が載っていたが、不思議と読めることが出来たし、今俺が当然のように聞いて話している言葉も俺の知らないものだった。
恐らく、この世界に来たと同時に言語を習得したのだろう。
そして、紙に書いてあった内容がこれだ。
「『原初の導き、混沌の導き、偉大なる海神よ。我が呼びかけに応え、龍者たる我の友として目覚めたまえ』」
魔力が詠唱に伴って動くのを感じながらなんとか終わらせると、体の底から力が溢れ出てくるのを感じた。それと同時に、俺自身の内側から声が響いていた。
『契約者よ、龍者アマトよ。我が名はティアマト。偉大なる海の神よ』
響いたのは威厳があり、腹の底まで響くような女の声だった。
「あー、どうも。よろしくお願いします?」
付き合い方が分からなかった俺は適当に返事をした。
『…………ふむ。まぁ良い。ところでアマトよ』
「へぇ、なんでしょうか」
少しの沈黙の後、尋ねるティアマト。俺は取りあえず下手に出ておいた。
『契約が切れておったのもそうじゃが……いつからそんな真人間になった?』
……やっぱ、バレるよな。
「いや、ちょっと、色々あって改心したと言うか、ね?」
『ククク、誤魔化しはいらぬ。見れば分かるぞ、お主の魂が妾の注文通りのモノでは無くなっておるとな』
「……注文通り?」
『それは気にするでない。それより、お主……大層弱くなったのぉ』
弱くなっただと?
『恐らく、魂が入れ替わった影響でレベルが元に戻ったんじゃろうな。レベル1だぞ。お主』
……マジで言ってんのか、それ。
「なぁ、ティア。入学っていつだった?」
「え? 確か……二ヶ月後ですね」
二ヶ月後入学。グルタニア学園の推奨レベルは難易度によって変わるが18〜27。現在のレベルは1。マズイ、マズイぞ。ゲームならいざ知らず、リアルだとどのくらい時間がかかるか分からない。
『レベルなぞ、また上げればいいだけじゃ。問題はお主の中身が変わったことじゃが……まぁ、良いじゃろう。これからゆっくりと育てていけばいいだけじゃからの』
「……そうか」
めちゃくちゃ不穏なことを言ってくるティアマト。だが、そうか。分かったぞ。こいつ碌な奴じゃないな。
先代と先先代も裏切ったって話からして、召喚者を唆すか洗脳するか、はたまた最初から悪人の魂を呼びつけているのか……恐らく、ティアの話と俺の予想が正しければ、
だけど、所詮ティアマトは話せるだけだ。ティアマトには俺に力を貸すことと、話しかけることしか出来ない。直接魂を食われるなんてことは無いのだ。
心を強く持っておく……までも無く、一般的な倫理観さえ携えておけば問題はない筈だ。
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