ゲーム世界の悪役に転生した俺は死なない為に強くなることにした。
暁月ライト
第1話 目覚め
休日、早起きをしてコーヒーを片手に優雅に映画を見ていた俺はテーブルの上にあるスマホの通知を確認し、カップを落とした。
『待ち合わせの時間から10分が経過。さっさと来いやコノヤロー』
友達からのメール。その要件は、催促だ。
「やべぇ、やらかした……何のために早起きしたんだよ俺はッ!」
友達と遊びに行く約束を思い出した俺は速やかに服を着替えて最低限の物だけをバッグに詰めて家を出た。幸い、歯磨き等は既に済ませていた。
通りがかったタクシーに乗り込み、五分ほど揺られていると、目標の場所が見えてきた。
『すまん、もう直ぐ着きます。今日の飯は奢るので許してください』
『おう、たらふく食ってやるから覚悟しとけよ』
速攻で帰ってきた恐ろしい返信に財布の中身を確認しながらタクシーを降り、待ち合わせ場所であるバス停の前に突っ立っている友人に手を振り、走った。
溜息を吐いて手を振り返した友人に安堵して速度を緩めると、今まで感じたこともないような衝撃が俺を襲った。
気がつくと、俺はバス停近くのコンビニのガラスにもたれ掛かっていた。
遅れてやって来た激痛に、声にならない悲鳴を上げながら、俯いた。視界に入ったのは骨がはみ出し、完全に変形した腰あたりと、噴出し続ける血だった。
直視できない現実に辺りを見渡すと、血がついて凹んだ車が何処かへ逃げて行くのが見えた。そういえば、聞こえた音はドゴッ、とかグチョ、とかそんな感じだった気がする。
「──丈夫か?! おい、おいッ!
俺に駆け寄った友人の声が乱れ、視界が歪み、思考がぼやけていくのを感じた。
「……なる、ほど……な。人は……こうやって、死ぬ訳だ」
最後にカッコいいセリフの一つでも言ってやりたかったが、涙を流しながら必死に叫ぶ友人と、押し寄せる眠気のようなものの所為で、言うことは出来なかった。
それどころか、もう目を開けることすらできず、俺は意識を失った。
♦︎
目を覚ますと、俺の目の前には絶世の美少女がいた。アニメやマンガにでも居そうな黒髪黒目の女の子で、はっきり言ってめっちゃ可愛い。
周りは木製の壁で囲まれており、一つだけある窓の向こうには綺麗な海と、木々が生い茂る山が見えた。美しい景色である。
しかし、二つだけ問題があった。それは、頭を打ったような激しい痛みがあるということと、その女の子の瞳はウルウルとしており、涙目になっているということである。
「すみませんッ! 本当にすみませんッ!」
更に問題が発生した。それは、目の前の美少女が全力で頭を下げ出したということと、その美少女に見覚えがあるということだ。
「ティア……?」
「は、はいッ! どうかお許し下さい……ッ!」
なぜ頭を下げているかは置いておき、現状を冷静に整理しよう。先ず、目の前で頭を下げている美少女はティア。俺の大好きだったゲーム、ドラゴンズサーガのヒロインの一人だ。
ドラゴンサーガと言うのは恋愛要素のあるRPGで、半分ギャルゲーのようなものだ。基本的なストーリーは魔王から世界を守るために地球から召喚された龍と契約できる八人、その中でも正義感の強い主人公が他の龍者(龍と契約した者)たちを導いて世界を救う、というものだ。
そして、召喚された龍者には主人公に限らず巫女というものが付き従う。巫女は異世界から来た龍者にこの世界のことを教えつつ、魔王を倒すように導き、龍者を支える役目を持つ。
そして、ティアの龍者は
……ティアは可愛いし、強い龍の力も使えるし、最高と思うだろ? 実は違う。違うんだよ、これが。この
八人いる龍者の中で、唯一人類を裏切って魔王側に付き、暴虐の限りを尽くす。それも、自分の欲望を満たす為にだ。勿論、巫女であるティアも散々酷い目に遭わせるし、主人公が何度改心を促しても効果は無く、最後は醜く無様に命乞いをして殺される。そんな男である。
そして、そんなクズ野郎の目の前で遂に泣き始めた美少女。
「あー、何で謝ってるか聞いてもいいか?」
「ぇ……そ、それは、アマト様が転び、頭をお打ちになられて、それを防げなかった私の……ひぐっ、私の失態で……」
なるほど、なるほどな。分かった。あぁ、思い出してきた。完全に理解した。
全てを理解した俺が取った行動は速やかで、一切の迷いは無かった。
「――――本当にすまんかったッッッ!!!!!!」
下げられたティアの頭の更に下、俺は地べたに這い蹲っていた。
♢
数分後、混乱の極みに達していたティアが漸く正気を取り戻し、俺も元の姿勢に戻ることが出来た頃。
「えっと、あの、つまり……か、改心なされた、と言うことでよろしいでしょうか?」
「まぁ、うん。正確に言えば魂が入れ替わったみたいな感じだと思うけど、概ねはそれでオッケー。というか、周りにはそれで通すつもり」
つまり、俺もとい海人が迷惑をかけた相手に片っ端から土下座していくってことだね。人生ハードモードだ。
「あの……魂が入れ替わったのでしたら、謝る必要は無かったのでは? 貴方がしたことでは、無いのですから」
「んー、なんて言うんだろ。俺にはこの体の元の宿主の記憶が引き継がれてるから、今までやってきた悪行もまるで自分がやったくらいの感覚があるんだよね。簡単に言うと、罪悪感がやべえ」
記録じゃなくて、記憶。だから、まるで自分のことのように思い出せる。
「それでは、あの、一応現在の状況についてお話ししましょうか? 貴方の記憶とも照らし合わせる為にも」
「是非、頼みます。それと、偶然か必然かは分からないけど、俺の名前も
記憶は混濁としていて、正直抜けている部分があるようにも感じる。ここで情報を補完しておけるのは有難い。
「分かりました、アマトさん。頑張ってみます。……じゃあ、話しますね。先ず、ここは貴方のいた世界ではありません。貴方は異世界から来た、異世界人と言うことになります。その中でも、貴方たちは
うん。
「貴方は世界を征服しようとする魔王からこの世界を救うために召喚されました。そんなことはできないと思うかも知れませんが、大丈夫です。凶悪な魔王と、その配下たちに対抗する為、貴方は今、強大な龍の力を得ています」
この世界の名前はノーガルド。俺の元いた世界、地球の日本で流行したゲーム……『ドラゴンズ・サーガ』の世界だ。
「それから……」
そこから彼女が話した内容は殆ど俺の知っていることだった。
1、魔王を倒すために異世界から呼ばれ、龍の力を得た者は貴方の他に七人居ますよ。
2、貴方の力はその八人の中でも強力な『海神ティアマト』の力ですよ。
3、でも、ティアマトの龍者は前回と前々回の召喚で人類の敵に寝返ったからあまり信用されて居ませんよ。(これに関しては良く知らない)
4、現在召喚されてから三ヶ月が経っていますよ。
5、ここはそこまで大きく無い島で、私と貴方以外は居ませんよ。
6、この島にはモンスターが住んでいるので力の使い方を習得するまでは許可なく結界の外に出てはいけませんよ。絶対に絶対に。何があっても、絶対に。
「なるほどね。大体俺の認識と同じか。……そういえば、自己紹介してなかったな。俺は、
そして、ドラゴンズ・サーガにおいて、俺の立ち位置に居た筈の男は
簡単に言えば敵キャラで、ラスボスのちょっと前くらいに出てくるボスである。
そして、そのキャラに成り代わっている俺は最悪の危機を迎えている、と言うことになる。ゲームの内容通りなら、俺は悪役として殺されるだけだからだ。
正直に言って、俺は叫びたかった。
なんで、何で……よりによって、こいつなんだよッッッッ!!!
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