[総ルビ]留学生は同棲JKエルフちゃん

第48話 エルフちゃんと桜祭りと文芸部

■第（だい）４８話（わ）　エルフちゃんと桜祭（さくらまつ）りと文芸（ぶんげい）部（ぶ）

　アキラに朝（あさ）から場所（ばしょ）取（と）りをしてもらって日曜日（にちようび）の昼（ひる）に集合（しゅうごう）した。

　場所（ばしょ）はなかよし公園（こうえん）こと中吉田（なかよしだ）公園（こうえん）だ。

　規模（きぼ）は県内（けんない）の中（なか）では小（ちい）さめなのだけど桜（さくら）の名所（めいしょ）として穴場（あなば）スポットだった。

　運動（うんどう）広場（ひろば）の周（まわ）りにぐるっとソメイヨシノが植（う）えられている。

　遊具（ゆうぐ）広場（ひろば）との通路（つうろ）にも同様（どうよう）にこちらは白（しろ）い桜（さくら）が植（う）わっていた。

　桜祭（さくらまつ）り中（ちゅう）は中吉田（なかよしだ）公園（こうえん）を起点（きてん）にずっと東川（ひがしかわ）沿（ぞ）いに提灯（ちょうちん）とスポットライトが設置（せっち）される。

　東川（ひがしかわ）沿（ぞ）いにも桜（さくら）が植（う）わっているからだ。

　戦後（せんご）復興（ふっこう）のシンボルとしてこういうサクラ並木（なみき）は全国（ぜんこく）にあるそうな。

　中吉田（なかよしだ）公園（こうえん）には出店（でみせ）が何軒（なんけん）かあって賑（にぎ）わいを見（み）せている。

「おーいこっちこっち」

「おお、アキラ、さんきゅ」

「いいっていいて、どうせ俺（おれ）はこれくらいしかできん」

「ありがとう」

「照（て）れるぜ」

　俺（おれ）、アキラ、ララちゃん、ハルカ、エリカが全員（ぜんいん）揃（そろ）う。

「それでは乾杯（かんぱい）」

「「「乾杯（かんぱい）」」」

　もちろんお酒（さけ）ではなくララちゃんのお気（き）に入（い）りのソーダ水（すい）だ。

「シュワシュワしますぅ」

「あはは、ララちゃんも好（す）きだねぇ」

「えへへ、この世界（せかい）には美味（おい）しいものがいっぱいですぅ」

　確（たし）かにその通（とお）りだ。

　おにぎり、サンドイッチ、唐揚（からあ）げ、卵焼（たまごや）き、春巻（はるま）きなどのオカズがタッパーいっぱいに詰（つ）められている。

　今回（こんかい）は俺（おれ）ではなくハルカが全部（ぜんぶ）用意（ようい）してくれた。

　ハルカは普通（ふつう）に料理（りょうり）ができるので是非（ぜひ）お嫁（よめ）さんに欲（ほ）しい。

「このシュワシュワ、黒（くろ）いですぅ」

　カラオケボックスにもあったはずだけどノーマークだったらしい。

「これがコーラ」

「コーラ」

「うん」

「わわ独特（どくとく）の風味（ふうみ）でなんだか美味（おい）しいですぅ」

「だろ」

　コーラでよろこんでくれるくらいならお茶（ちゃ）の子（こ）さいさいだ。

「たこ焼（や）き買（か）ってきたぞ」

「なんですかこれぇ」

「タコが入（はい）ってるからたこ焼（や）き」

「へぇ」

　ララちゃんはそういえばたこ焼（や）き初（はじ）めてか。

　あれ以前（いぜん）どこかで食（た）べないっけ。忘（わす）れてしまった。

　何個（なんこ）もこうやってイベントをこなしていくと細（こま）かいことまで記憶（きおく）できなくて困（こま）る。

「これが桜祭（さくらまつ）り」

「桜祭（さくらまつ）り」

「お花見（はなみ）だね」

「お花見（はなみ）ですぅ」

　反芻（はんすう）するように繰（く）り返（かえ）してくれる。

　こうしてララちゃんの語彙（ごい）がどんどん増（ふ）えていく。

　もともと基本（きほん）語彙（ごい）はほとんど覚（おぼ）えているみたいだったけど、固有（こゆう）名詞（めいし）には少（すこ）し弱（よわ）いようだ。

「愛（あい）してる～」

「愛（あい）してる～」

　スマホを使（つか）ってなんちゃってカラオケもした。

　野外（やがい）なので丸（まる）聞（き）こえで少（すこ）し恥（は）ずかしい。

　迷惑（めいわく）にならない範囲（はんい）でほどほどに楽（たの）しんだ。

　夕方（ゆうがた）。だいぶ薄暗（うすぐら）くなってきた。

「綺麗（きれい）ですぅ」

「ああ、幻想的（げんそうてき）だよな」

　桜（さくら）の木（き）が提灯（ちょうちん）とライトアップで照（て）らされていた。

　それが住宅街（じゅうたくがい）の中（なか）を流（なが）れる東川（ひがしかわ）沿（ぞ）いでずっと続（つづ）いている。

　俺（おれ）たちはお腹（なか）もいっぱいだったのでお散歩（さんぽ）がてら花見（はなみ）をした。

「カップルさんとかもたくさんいていいですぅ」

「あはは、人間（にんげん）観察（かんさつ）か」

「お花（はな）ももちろん綺麗（きれい）ですよぉ」

「うんそうだね」

　なるほど、これなら彼女（かのじょ）とか連（つ）れてきたくなるわけだ。

　近年（きんねん）ライトアップが人気（にんき）だとは知（し）っていたが一人（ひとり）で来（き）てもな、と思（おも）っていたのだ。

　中学（ちゅうがく）時代（じだい）はハルカとも疎遠（そえん）だったし。カップルが多（おお）い中（なか）、男（おとこ）のアキラを誘（さそ）いたいとは思（おも）わない。

「お兄（にい）ちゃん、素敵（すてき）だね」

「ああ、これはいいね」

「綿（わた）あめ美味（おい）しいですぅ」

「あはは、ララちゃんは甘味（あまみ）に夢中（むちゅう）か」

「はいですぅ」

　ところどころの空（あ）き地（ち）に屋台（やたい）が出（で）ていた。

　夏祭（なつまつ）りほどではないがかなり賑（にぎ）わっている。

　こうして夜（よる）の幻想的（げんそうてき）な明（あ）かりに照（て）らされた桜（さくら）を楽（たの）しんだ。

　さて文芸（ぶんげい）部（ぶ）のほうなんだけど。うん。

　去年（きょねん）の三年（さんねん）生（せい）が卒業（そつぎょう）して開店（かいてん）休業（きゅうぎょう）になっていた。

　新入（しんにゅう）生（せい）として入（はい）ってきたエリカを含（ふく）めて俺（おれ）たち五人（ごにん）だけしかいなかった。

「ということで俺（おれ）たちのお遊（あそ）び倶楽部（くらぶ）と同等（どうとう）です」

「まあそうなるね」

「えへへ、みんなで楽（たの）しくやりましょうですぅ」

「そうだね、ララちゃん」

「はぁまあいいか、どうせこんなもんだろ」

　アキラまで呆（あき）れている。

　顧問（こもん）の先生（せんせい）は文芸（ぶんげい）好（ず）きらしく五人（ごにん）も入（はい）ってくれるなら願（ねが）ったり叶（かな）ったりと泣（な）いてよろこんでいた。

　それでまずは形（かたち）だけでも活動（かつどう）してみようということになった。

　部室（ぶしつ）があるのでそこに集（あつ）まってみる。

「ここが部室（ぶしつ）ですぅ」

「うん。本棚（ほんだな）にラノベがびっしりある」

「それから専用（せんよう）パソコンがありますぅ」

「おおう、それも人数（にんずう）分（ぶん）あるな」

　ラノベは何年（なんねん）前（まえ）のものか分（わ）からないが有名（ゆうめい）で俺（おれ）でさえ知（し）ってるタイトルのシリーズものが全巻（ぜんかん）揃（そろ）っていたりして意外（いがい）とラインナップは豊富（ほうふ）だ。

　そのかわり最新（さいしん）の新（しん）文芸（ぶんげい）と言（い）われるタイプの大（おお）きめのサイズの本（ほん）は少（すく）なかった。

「みんなそれぞれ短編（たんぺん）三千（さんぜん）文字（もじ）を作（つく）ってみるですぅ」

「おっし、まかせとけ」

「俺（おれ）もそれくらいならできそうだ」

「お兄（にい）ちゃん私（わたし）も頑張（がんば）るね」

「そういうなら私（わたし）も」

　そういって三千（さんぜん）文字（もじ）の短編（たんぺん）に取（と）り掛（か）かる。

　ジャンルはファンタジーだ。

　ファンタジーっぽければなんでもいい。ただしフィクションに限定（げんてい）しておいた。

　リアルな話（はなし）を書（か）かれてもちょっとだけ困（こま）るのとララちゃんが有利（ゆうり）すぎる。

　こうして四月（しがつ）下旬（げじゅん）、文芸（ぶんげい）部（ぶ）初（はつ）の一万（いちまん）五千（ごせん）文字（もじ）の文集（ぶんしゅう）であるコピー本（ぼん）が完成（かんせい）した。

　顧問（こもん）の先生（せんせい）はまた泣（な）いてよろこんでいたので、これでいいのだろう。

　なんでも文芸（ぶんげい）部（ぶ）ってまともに活動（かつどう）しないことがあるとかで、締（し）め切（き）り過（す）ぎても提出（ていしゅつ）せずに崩壊（ほうかい）したりする年度（ねんど）もあるんだと。

　なるほど俺（おれ）たちはみんなお仲間（なかま）なので、そういうことを考（かんが）えたこともなかった。