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３６．釣りと畑

◆３６．釣（つ）りと畑（はたけ）

　十四（じゅうよっ）日（か）目（め）。

　おじいさんはヒューマンで名前（なまえ）は「ニコライド」。

　おじいさんの子供（こども）たち三人（にん）は独立（どくりつ）して首都（しゅと）のファインティアに出（で）て行（い）ったそうだ。

　おじいさんは息子（むすこ）たちから仕送（しおく）りを少（すこ）しずつもらっていて、畑（はた）仕事（しごと）とそれで生活（せいかつ）しているらしい。

　私（わたし）たちは、しばらく滞在（たいざい）するなら、今日（きょう）の晩（ばん）から料理（りょうり）と宿泊（しゅくはく）料（りょう）を支払（しはら）うことにした。

　宿泊（しゅくはく）料（りょう）はともかくとしても、料理（りょうり）の材料（ざいりょう）代（だい）はかかっている。

　今日（きょう）は釣（つ）り堀（ぼり）に行（い）ってみようと思（おも）うと話（はな）したら、川（かわ）の方（ほう）がいいと教（おし）えてくれた。

　確（たし）かに釣（つ）り堀（ぼり）なら、釣（つ）り竿（ざお）も餌（えさ）もコミコミですぐに釣（つ）れる。

　けれど、釣（つ）れる魚（さかな）の種類（しゅるい）はいわゆる「フナ」で泥（どろ）抜（ぬ）きなどをしないと、食（た）べられないそうだ。

　川（かわ）は、すぐには釣（つ）れないので、中級（ちゅうきゅう）者（しゃ）以上（いじょう）向（む）けだけれど、美味（おい）しい魚（さかな）が釣（つ）れるという。

　おじいさんと連（つ）れ立（だ）って、町（まち）の門（もん）の外側（そとがわ）に流（なが）れる川（かわ）まで向（む）かう。

　釣（つ）り竿（ざお）、そして疑似（ぎじ）餌（え）いわゆるフライと呼（よ）ばれる虫（むし）みたいな毛（け）で魚（さかな）を釣（つ）る。

　全部（ぜんぶ）、おじいさんが貸（か）してくれた。

「それは昔（むかし）、息子（むすこ）たちが使（つか）ってたやつだ。今（いま）はもういないし、何本（なんぼん）か余（あま）ってる」

　おじいさんがやり方（かた）を教（おし）えてくれる。

　フライを水面（すいめん）に落（お）として、あとはちょっと動（うご）かしたり、水（みず）に流（なが）れるままに動（うご）かしていく。

　それを何回（なんかい）もやる。

　上流（じょうりゅう）側（がわ）に落（お）として、流（なが）れてってを繰（く）り返（かえ）していく。

　下（した）から魚（さかな）が浮（う）かんできて、パクッと食（た）べた。

　ぐいぐい引（ひ）っ張（ぱ）られるのを、力（ちから）を込（こ）めて固定（こてい）して、ゆっくり引（ひ）き上（あ）げる。

　釣（つ）れたのは１０センチぐらいの普通（ふつう）の魚（さかな）だった。

「イロエマスの小（ちい）さいのだな。小（ちい）さいのは油（あぶら）で良（よ）く焼（や）くと、骨（ほね）まで食（た）べられる」

　クルミもサクラちゃんも、忘（わす）れたころに同（おな）じような魚（さかな）が釣（つ）れた。

「みてー。わたしの魚（さかな）ちゃんが一番（いちばん）大（おお）きい！」

　クルミの釣（つ）った魚（さかな）は私（わたし）たちのより１センチぐらい大（おお）きかった。

　午前（ごぜん）中（ちゅう）いっぱいで、全員（ぜんいん）で全部（ぜんぶ）で十二匹（ひき）釣（つ）れたよ。

　どれもイロエマスの小（ちい）さいのでした。

「他（ほか）にも魚（さかな）は居（い）るんだが、今日（きょう）は釣（つ）れないみたいだ」

　魚（さかな）はストレージにしまってある。

　お昼（ひる）を持（も）ってきていないので、家（いえ）に帰（かえ）った。

　お昼（ひる）ご飯（はん）は今日（きょう）も、ブドウジャムのサンドイッチだった。

　午後（ごご）は畑（はたけ）のお手伝（てつだ）いをすることにした。

　ブドウ畑（ばたけ）の横（よこ）にある、家庭（かてい）用（よう）菜園（さいえん）にはたくさんの種類（しゅるい）の野菜（やさい）が少（すこ）しずつ植（う）えてあった。

　日々（ひび）のご飯（はん）で使（つか）うため、手入（てい）れもそこそこできていて、問題（もんだい）ないように見（み）える。

「ああ。問題（もんだい）なのはこの畑（はたけ）じゃなくて、城壁（じょうへき）の外（そと）にあるんだ」

　おじいさんの案内（あんない）で、城壁（じょうへき）の外（そと）の畑（はたけ）までやってきた。

　そこは荒（あ）れ放題（ほうだい）で、ダイコンやブロッコリーは花（はな）が咲（さ）いていた。

　ジャガイモ畑（ばたけ）は葉（は）っぱが全部（ぜんぶ）枯（か）れていた。

　トマトも枯（か）れかかっていて、真（ま）っ赤（か）な実（み）がたくさんなっている。

　畑（はたけ）の半分（はんぶん）はすでに未（み）使用（しよう）で雑草（ざっそう）などだろう伸（の）び放題（ほうだい）になっていた。

「ちょっと放（ほ）っておき過（す）ぎたみたいだ。でもまだ大（だい）丈夫（じょうぶ）」

　とりあえず、収穫（しゅうかく）などのお手伝（てつだ）いをする。

　今日（きょう）収穫（しゅうかく）したのは、ジャガイモ、トマトだ。

　ダイコンとブロッコリーは手遅（ておく）れなので、種（たね）採取（さいしゅ）用（よう）にそのままにしておくことになった。

　トマトをもらったので食（た）べてみる。

「何（なに）このトマト。すごく甘（あま）いです」

　あのトマトジュースと比（くら）べると、雲泥（うんでい）の差（さ）だった。

　枯（か）れてると思（おも）っていたけど、これぐらいが丁度（ちょうど）いいのかもしれない。

　収穫（しゅうかく）したトマトとジャガイモはストレージに収納（しゅうのう）しておく。

「ちなみに、この雑草（ざっそう）に見（み）える草（くさ）。実（じつ）は太陽（たいよう）草（そう）だ。乾燥（かんそう）させて練（ね）って玉（たま）にすると、５級（きゅう）復活（ふっかつ）薬（やく）になる」

　おじいさんは薬師（くすし）も入門（にゅうもん）程度（ていど）の経験（けいけん）があるそうだ。

　知（し）ってるレシピは少（すく）ないけど、ベテランなので品質（ひんしつ）のいいものを作（つく）るらしい。

　他（ほか）にも錬金（れんきん）術（じゅつ）に革（かわ）加工（かこう）に木工（もっこう）にと、なんでも挑戦（ちょうせん）してきたという。

　ちなみにこの世界（せかい）では、ＮＰＣは病気（びょうき）や寿命（じゅみょう）で死亡（しぼう）すると復活（ふっかつ）しない。

　一方（いっぽう）、敵（てき）に倒（たお）された場合（ばあい）は、プレイヤーと同（おな）じで復活（ふっかつ）ポイントに出現（しゅつげん）する。

　デスペナも適用（てきよう）されるという。

　プレイヤーとＮＰＣを見分（みわ）ける方法（ほうほう）は、ユーザー情報（じょうほう）ホログラムを見（み）せてもらう位（くらい）しかなく、外（そと）からでは全（まった）く区別（くべつ）が付（つ）かない。

　ＮＰＣともフレンド登録（とうろく）やパーティー編成（へんせい）が可能（かのう）で、ますます区別（くべつ）が難（むずか）しかった。

　公式（こうしき）掲示（けいじ）板（ばん）には、ずっとユーザーのロールプレイだと思（おも）っていたキャラが実（じつ）はＮＰＣだったという、笑（わら）い話（ばなし）が載（の）っていた。

　その体験（たいけん）者（しゃ）の彼（かれ）は、いつログインしても意中（いちゅう）の彼女（かのじょ）がゲーム内（ない）にいるのは単（たん）に時間（じかん）が合（あ）う程度（ていど）だと思（おも）って特（とく）に気（き）にしていなかった。

　先日（せんじつ）、ついに告白（こくはく）した彼（かれ）は、彼女（かのじょ）にこういわれた。

「私（わたし）はこの世界（せかい）の住人（じゅうにん）なので、外（そと）の世界（せかい）の人（ひと）とは無理（むり）だわ。ごめんなさい」

　そうして彼（かれ）はＮＰＣであることに気（き）が付（つ）いたという。

　まだ始（はじ）まって十四（じゅうよっ）日（か）で告白（こくはく）する彼（かれ）は、ちょっと気（き）が早（はや）かったけれど、傷（きず）が浅（あさ）いうちに気（き）が付（つ）いて良（よ）かったとも言（い）える。