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２４．夜の森

◆２４．夜（よる）の森（もり）

　北東（ほくとう）の森（もり）のエリアボスが討伐（とうばつ）されたメッセージは全（ぜん）ユーザーに告知（こくち）された。

　その反応（はんのう）は、掲示（けいじ）板（ばん）始（はじ）め、雑談（ざつだん）、夜（よる）の食事（しょくじ）の話（はなし）のネタとして、かなり話題（わだい）になった。

　戻（もど）ってきてから、また先（さき）に宿屋（やどや）へ行（い）ってもらい、トラニー君（くん）から料金（りょうきん）と薬草（やくそう）と空（あ）き瓶（びん）を回収（かいしゅう）する。

　私（わたし）たちは、今度（こんど）はフレンド登録（とうろく）をして、ボスの話（はなし）はしないことにして、宿屋（やどや）で今日（きょう）もステーキをご馳走（ちそう）になった。

　ヒカリちゃんも口（くち）をおっきく開（あ）けて、ステーキをほおばっていた。

　そしてツグミジュースがお気（き）に入（い）りみたいだ。

　その日（ひ）の宿屋（やどや）の夕食（ゆうしょく）のときに、周（まわ）りの席（せき）の人（ひと）たちは、ボスの話（はなし）をかなりしていた。

　どうやら、夜（よる）時間（じかん）は狩（か）りができず、連続（れんぞく）ログインができなくて、皆（みな）ストレスがたまっていたらしい。

　そこへ、このメッセージである。

　ユーザーたちはこぞって、パーティーで夜（よる）の森（もり）へ進（すす）んでいった。

　命知（いのちし）らずのソロ君（くん）も何人（なんにん）かいた。

　しかし「オオカミが群（む）れない」という表示（ひょうじ）だったので、依然（いぜん）としてオオカミ自体（じたい）は出没（しゅつぼつ）するということだ。

　だから多数（たすう）派（は）は、前衛（ぜんえい）どうしだろうと、臨時（りんじ）パーティーを組（く）んで、森（もり）へ出発（しゅっぱつ）していった。

　ありがたいことに「誰（だれ）が」ボスを討伐（とうばつ）したかは表示（ひょうじ）されなかった。

　メッセージからすると、二週間（しゅうかん）はリポップ(沸（わ）きなおし)しないようなので、時間（じかん）沸（わ）きモンスターの扱（あつか）いなんだろう。

　二週間（しゅうかん）というと長（なが）いように感（かん）じるかもしれないが、現実（げんじつ）時間（じかん）では二日（ふつか）とちょっとなので、すぐだ。

　薬草（やくそう）とタンポポ草（そう）、そして白（しろ）キノコ四十個（こ）は、全部（ぜんぶ）私（わたし）たちのものになり、代（か）わりにヒカリちゃんたちにはお金（かね）を支払（しはら）った。

　ウサギの毛皮（けがわ）(白（しろ）)とオオカミの毛皮（けがわ）(灰色（はいいろ）)は、ヒカリちゃんが引（ひ）き取（と）って行（い）った。

　ウサギ帽子（ぼうし）を私（わたし）たちの分（ぶん）も作（つく）ってくれるらしい。

　警（けい）ら隊（たい）は、武器（ぶき）屋（や）と魔法（まほう）の情報（じょうほう）料（りょう）だと言（い）って、お金（かね）は受（う）け取（と）らなかった。

　支払（しはらい）額（がく）は６，７００セシルになった。残金（ざんきん）は１０７，６０５セシルだ。

　チームは解散（かいさん）して、それぞれの道（みち）に分（わ）かれた。

　私（わたし）たちは、夜間（やかん）訓練（くんれん）の名目（めいもく）で、夜（よる）の森（もり）を行（い）くことにする。

　明（あ）かりは、宿屋（やどや）のおばさんに借（か）りた。室（しつ）内外（ないがい）両用（りょうよう）カンテラだった。

　手（て）が空（あ）いてるのは私（わたし）だけなので、私（わたし）が左手（ひだりて）でカンテラを持（も）つ係（かかり）だ。

「はー。夜（よる）の森（もり）はなんかいやだね～」

「ワタクシも、夜（よる）は苦手（にがて）ですわ」

「大（だい）丈夫（じょうぶ）、怖（こわ）いのはオオカミだけだよ」

「全然（ぜんぜん）大（だい）丈夫（じょうぶ）じゃありませんわ」

　前衛（ぜんえい）の二人（ふたり）は、あまり夜（よる）のお散歩（さんぽ）は好（す）きではないらしい。

　虫（むし）の鳴（な）き声（ごえ）とか聞（き）こえてくるし、葉（は）っぱが風（かぜ）でこすれる音（おと）もする。

　上（うえ）を見上（みあ）げれば、木々（きぎ）の間（あいだ）に、無数（むすう）の星（ほし）が散（ち）らばっていた。

「ちょっと上（うえ）見（み）てよ。星（ほし）がきれいだよ」

　後（うし）ろ側（がわ）の空（そら）には、月（つき）も出（で）ている。

　というかこの世界（せかい）、夜間（やかん）行動（こうどう）しやすいようにか、ずっと夜（よる）は月（つき）が出（で）ている。

　まあ、ファンタジーだしね。それくらいはいいよね。

　たまに草（くさ）をかき分（わ）けて、オオカミが出（で）てくる。

　群（む）れないので、倒（たお）すのは、もう簡単（かんたん）だ。

　クルミの動（うご）きもよくなっているし、アイスブリーズでの足止（あしど）めもできる。

　森（もり）の奥（おく）の方（ほう）までくると、森（もり）の白（しろ）キノコが、月光（げっこう）に照（て）らされて、蛍光（けいこう）色（しょく）に発光（はっこう）していた。

「わー。キノコちゃん光（ひか）ってるぅ～」

「あらあら、まあまあ。幻想（げんそう）的（てき）ですわね」

　草（くさ）をかき分（わ）けてくる音（おと）がするな。

　オオカミかな。

　色白（いろじろ）で水色（みずいろ）の髪（かみ）の男性（だんせい）エルフ。あー、あれは、リング・ウッドこと、丸木（まるき）先生（せんせい）だ。

「先生（せんせい）なにやってるんですか？」

「いやね。森（もり）のボスが初（はじ）めて討伐（とうばつ）された。しかも『君（きみ）の女（おんな）の子（こ）たち』だと運営（うんえい）から聞（き）かされて、様子（ようす）を見（み）に来（き）た」

　先生（せんせい）は、私（わたし）たちの映像（えいぞう）こそ見（み）れないが、居（い）場所（ばしょ）は分（わ）かるように、取（と）り計（はか）らってもらっているそうだ。

「君（きみ）たちは、ログイン時間（じかん）が長（なが）い分（ぶん）、強（つよ）くなりやすい。どうしても目立（めだ）つけど、もうしょうがないとして、諦（あきら）めるよ」

「じゃあ、掲示（けいじ）板（ばん）とかで騒（さわ）いでもいいですか」

「それはやめてくれ！　噂（うわさ）が立（た）つぐらいならいいって意味（いみ）だよ」

「わはー。わっかりました～」

　先生（せんせい）は何故（なぜ）か私（わたし）たちに付（つ）いてくる。

　そして、攻撃（こうげき）手段（しゅだん）がちょっと変（か）わっている。

　ポーションの瓶（びん）のようなものを、オオカミに投（な）げつけて、爆発（ばくはつ）させて攻撃（こうげき）している。

「俺（おれ）は医者（いしゃ）だから、科学（かがく）者（しゃ）だ。科学（かがく）者（しゃ）といえば錬金（れんきん）術師（じゅつし）と相場（そうば）は決（き）まっているんだ」

　良（よ）く分（わ）からない理論（りろん）だが、まあいいや。

「ゲームには、なじんできたみたいだね。よかったよ。では、また検診（けんしん）で。そうそうレポートは頻繁（ひんぱん）に出（だ）してくれていいよ。冒険（ぼうけん）談（だん）も教（おし）えてくれ」

　そういうと、森（もり）の中（なか）なのに、先生（せんせい）は去（さ）って行（い）った。