第4話 義堂良治の独白
「それでも私は、息子達には普通に生きていてもらいたかったなあ」
景久も崇照も、普通とは言い難い生き方をしたことに対し、良治は自分の育て方のせいなのかと幾分と悩んだ。そのことを崇照について取材しに来た記者に話した時、やはり普通の生き方をしてほしかったという気持ちが強まった。お父様の影響というわけでもないのでしょうか、と尋ねる記者に、良治は頭を捻った。
「どうだかね。私は、ただ一生懸命だっただけだ。崇照が小さい頃から問題を起こしても──どちらかというと掘り起こしてるんだけど──私はそれを咎めなかったし、何なら一緒になって協力したよ。景久が警官になることを決めたのも、そんな崇照を見ていたからなのかもしれないけど、あの子は警官になってからというもの、ろくに会いにすら来なかったから、本当のところは私にも分からない。でも、私は景久も崇照と同じように、賢く優しい子だったと思う。景久の母親も、崇照の母親も、何の因果か、あの子達を産んで直ぐに死んでしまったのは、あの子達の好きなように生きて欲しいと私が願ったのと無関係ではないよ」
日本最大の人材派遣会社、株式会社YouGoの前進が、かつての半グレ組織、陽暁会であることは
「あの子は正義感が強かった。けれど、親より先に死ぬなんて正しさとは真逆のことをして。昔から、ずっと気が気じゃなかった。いつ死ぬか分からない生き方をする崇照のことを、止めようという気がなかったと言えば嘘になるが、私もまた、彼を尊敬していたんだ」
陽暁会が遂げた偉業は大きい。当然、犯罪組織なんてものは雨後の筍みたいに生えて来る。それでも陽暁会が、若者を引き寄せる既存の組織を根こそぎ滅ぼし、その上で国をも巻き込み、YouGoを含めた5社の人材派遣会社が、今や生活困窮者もチンピラも元
「やり遂げたんですよね、あの子は。あの子は誰よりも兄想いだったから。兄の遺した物を、悪い物にはしたくなかったんだと思う。だとしてもやり過ぎだけど」
良治は自嘲気味に笑う。その姿を見て、良治に話を聞きに来た記者もまた、同じように笑った
「そうですね、私もそう思います」
「そうだよなあ」
「でも、あの人はそういう人でした」
一時期、崇照と同じ屋根の下で過ごした彼女はそのことをよく知っている。過剰で、繊細で、頑固で。
「優しい人でした」
彼女は昔を思い出しながら、そう言う。彼の姿を見ていたから、彼女もまた途方もないことを考えた。陽暁会の軌跡、義堂崇照という男が如何に偉業を成し遂げたのか、そのことを事細かに後世に伝える。それが彼女──羽月友香の夢だ。
「今日はお話、ありがとうございました」
「こちらこそ。また、あの子の話をしよう」
「はい。是非!」
友香は良治に笑い掛ける。そして心から感謝する。かつては生きる希望すら失っていた自分に、大きな夢を与えてくれた男を、この世にうみ出してくれたことに。
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