一年の中で夏の四日しか会えない特別な人。永遠に歳をとることのない夏のまぼろし。
この手の物語は学生時代の三年間という時限で展開されやすいのですが、本作はその領域を超えた約十年に亘る主人公の成長と心の変化を巧みに描いています。
大人へと成長していく彼【隆介】と、時が止まり中学二年生のままの彼女【夏実】。
精神年齢を積み重ねる一方、万年変わらないその対比は、次第に埋め難い乖離として如実に現れ、やがて永遠の瞬間が訪れてしまいます。
変化に流れゆく人生の中で、時の止まった彼女を相手にし続ける――歪さを増していく関係性に煩わしさや諦観といったネガティブが生まれやすい反面、それらを上回る展開が期待される無意識の欲求に対し、淀みなく応えているストーリーが素晴らしいと感じます。
夏虫の鳴き声の移り変わりが、言葉を超えた切なさを呼ぶ――夏におすすめの一作です。