最終話 そして世界は……

「――朝か」


 真夜中の出来事から数時間、すっかり日も昇った朝。

 今日は遂に終戦宣言の日。

 事前に国民には終戦することは伝えてある。

 既に号外として、世界に広がっている。

 それは魔族側も同じで、いずれは魔族の領土でも宣言を行うそうだ。


 一応私も勇者として、平和への功績の一端を担う者として、魔王……ライベルトと王と共に国民の前に立つ予定だ。


「こういうのは慣れていないんだが……う〜む」


 うだうだ言っても変わらない。とりあえずご飯を食べよう。



「おはよう。シーナ」

「!……私か」

「君以外に誰がいる」

「いやまあ、そうだな。おはよう、まお……ライベルト」


 ライベルトがいた。いつもと違う場所にも関わらず、テキパキと良く動く。

 流石は王城といったところか、キッチンの他に、調理室、というものもあるらしい。

 そこは王族お抱えの料理人しか立ち入ることができず、かの魔王ライベルトですら立ち入りを断られたそうだ。

 だから魔王はキッチンで料理を作っている。


「騎士長や王とも食事をしてみたかったが、朝からバタついているようでな、俺達だけで食べてしまおう」

「ん、ソフィを呼んでこよう」

「いや、その必要は無い」


「おはようございます」


 既にメイド服に着替えているソフィが立っていた。

 私よりも早く起きている……だと?


「今日は特別な日になりそうですので……二つの意味で」

「え?なんて言ったんだ?」

「なんでもございません」


 よく聞こえなかったが、特に気にしない。何故なら美味しそうな匂いが漂ってきたからだ。


「これは……米か?」

「正解だ。シーナの鼻はよく効く鼻だな。うちでは米は中々無いからな、挑戦したくなった」


 うむ、楽しみだ。おかずはなんだろうか。気になりつつも、まずは身嗜みを整えなくては。



「おお……」

「お手軽で作りやすい。これはいいな」


 白米にホウレン草のおひたし、お味噌汁に湯気立つお茶。

 そして鮭。

 所謂‪”‬‪和”というものだろうか。

 どれにしろ、この香り、見た目、その全てにおいて不味いはずが無いと確信できる。


「じゃあ早速」‬


「「「いただきます」」」


 箸で鮭を崩す。

 崩した鮭を白米に乗せ、共に一口。


「んぅ……!美味ひ……!」


 モチモチの白米に味のよく付いた鮭。合わないはずがない。


「これは……美味しいです。お味噌汁が眠気を覚ましてくれますね」


 白米と鮭に限らず、ホウレン草のおひたしはシャキシャキとしていて、和えられた胡麻も良い味を出している。

 お味噌汁は、単体は言わずもがな、白米とも合う優等生。

 トーストやグラタンとまた違ったライベルトの料理の才に、すっかり舌が手懐けられてしまった。


「毎日作って欲しいくらいだな」


 本心から出た、言葉なのだった。



「「「ご馳走様でした」」」

「お粗末様でしたと」


 朝食も終え、王と合流しなければ。

 ソフィは特に着いて行く必要も無く、離れて眺めているそうだ。


 三人でパパっと片付けを済ませ、準備をする。

 ライベルトは威厳ある正装に。

 私は特にこれといった服装指定も無く、いつも通りの格好で。


「うむ、やはりシーナはその格好が馴染み深いな。だが正装もみたいが」

「私が主役というわけじゃないんだ。別にいいだろう。……そういえば、初めて会った時もこの格好だったか」


 動きやすさを重視した軽装。ガチガチの鎧だと動けないのだ。


「さ、行くぞ、シーナ」


 王の元に向かうのだった。


「頑張ってください。魔王様」



「おお、準備は出来たか」

「勿論。特別な日になるんだ、怠るわけにはいかないだろう?」


 既に準備を終え、王らしい正装を身につけた王が迎えた。

 煌びやかな装飾の付いた赤と金の服装。マントを着ているイメージがあったが、すらっとしていてコンパクト。


 それと対になるように藍色と黒を基調とし、フサッフサのマントを羽織ったイメージ通りの魔王。かっこいいぞ、ライベルト。


「いいじゃないか」

「ふむ……」

「これでは勇者が見劣りしてしまうな」


 あくまでも主役は王と魔王だ。私はただ立っているだけでいいだろう。


「私は気にするな。主役は二人だろう?」

「俺が気にするんだ」

「いや、別に……」


「勇者に正装を」


「「かしこまりました」」


 どこからともなく現れたメイド二人に更衣室に連れてかれてしまった。



「はい、勇者様。良くお似合いですよ」

「お姫様みたいです!」


 鏡で自分の姿を見る。

 全体的に白く、まるでウエディングドレスのようで、というよりウエディングドレスじゃないか、これ。


「私には似合わないだろう……」

「そんなことないですよっ」


「はい。魔王様も喜ぶと思います」


「そうそう……ってえっ!貴女……魔王様に付いていたメイドの!」

「ソフィか。来てたのなら言ってくれればよかったのに」


 いつの間にやらソフィが来ていた。知人にこの姿を見られるのは少し恥ずかしいが、まあ褒められて悪い気はしない。


「さ、早く見せに行きましょう。御二方がお待ちです」

「あ、ああ、行こう」



「お、おお!似合っているではないか!」

「良く似合っている、シーナ」

「そ、そうか……?」


 私の姿を見るなり手放しで褒めてくる二人。普段感謝はされど褒められることは無いからか、慣れない。

 それにウエディングドレスのようで、何だかドキドキと――


「シーナ、行くぞ」


「!わかった」

「勇者、魔王。準備はいいな?」


 遂に始まる、終戦宣言。号外をひたすらに振り撒く子供が走り回っている。

 ――そして私達は、一斉に国民の前に姿を現した。


「……凄いな」


 沢山の歓声。一斉にこちらを見上げる国民。そのどれもが、これから発表されることに期待と興奮に胸を膨らませている。


『皆の者。まずは感謝を』


 王が喋り始めると、皆揃って静かになる。私は魔王の隣で同じように静かに聞く。


『我が国の為に戦ってくれてありがとう!!』


『先祖代々続けてきたこの戦争!遂に終止符を打つ時が来たのだ!!』


『我!国王ラッガードと!』


『我!魔王ライベルトは!』


『『今ここに!戦争の終結を宣言する!!』』


「「うぉおおおっ!!!!」」


 大歓声。遂に戦争が終わったんだ。こうなるのも当たり前か。


『そしてもう一つ!』

「へ?」


 発表はこれだけのはずじゃ?


『俺!魔王ライベルトは!』

「ひゃあ!」


 ライベルトに抱き寄せられ、そのままお姫様抱っこされる。


「ライベルト……?一体何を――」


『勇者シーナと!婚約を誓う!』

「なっ――」


「「うぉおおおっ!!!!」」


 何を言っているんだ!!

 終戦宣言をした時みたいな歓声が上がっている!


「ライベルト!?」

「いいだろう?シーナ」


 ……正直、悪くないと思っている私がいる。別に悪い奴じゃないし、ご飯を美味しいし……。


「……料理はライベルトが担当だからな」

「……!任せろ!」



 この日。戦争は終わった。魔王の綺麗事世界平和は果たされたのだ。

 人間と魔族。この二つの蟠りは、いずれ緩やかに解消される。

 魔王と勇者。二人がその架け橋となることだろう。

 歴史上初の、人間と魔族の夫婦によって。


 そして、長い、長い歴史の一つの章は今、幕を閉じた。


「末永くよろしくな、魔王ライベルト」

「こちらこそ、勇者シーナ」



 最終話

 そして世界は……平和になった!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者です。魔王と一緒に平和目指します。 ゆきさん @azuazu1101

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画