第11話 背負うことは苦ではない

「お‪”‬ぉ‪”‬い‪”‬!!いい加減にしろ!!」


 男と別れた後、私達は早足に首都を目指した。

 その過程で魔王は計五回程、おぶっては歩きを繰り返した。

 五回も。大人しく背負われてりゃいいものを。


「どうせ疲れてまた私の背に張り付くことになるんだから、無理して歩こうとするな!」

「だか……申し訳ないし…」

「だと思うならずっとおぶられててくれ……」


 流石に疲れてくる。倒れた男性を起こし上げるのは大変なんだぞ。

 それなら最初から捕まっていてくれた方が幾分楽だ。


「そもそも前線にいた時は大丈夫だったろう!?」

「あの時は魔力で筋力補助していたからな……」

「ならまたすればいいだろう?何故しない?」

「もう人間の領土だ。もし魔力を放出して感知されたら厄介だから…だな」


 そうか、魔王なりに考えはあったのか。確かに言っていることは正論なんだが、そんな肩で息をしている状態で言われてもな……。


「……まあいい。ほら、おぶってやるから、来て」

「うっ……すまない……」

「謝るなら魔力に頼らず体力をつけてくれ〜」


 渋々といった形で魔王が私の背に掴まる。


「ソフィ?ソフィは大丈夫か?魔王ばかりで」

「……はい、大丈夫です」

「?そうか。無理はしないでくれ、私が悲しむ」

「っ……はい」


 少し歯切れが悪いのが気になったが、ソフィを信じて進むことにした。



「む……そろそろ歩くか……」

「いや、私も疲れてきた。少し休憩しないか?」

「そうだな……木陰で休むとしよう」


 少し道が整備された程度の平原。偶に木が生えている程度で、ここまで何も無いと、逆に気持ちがいい。

 整備された道には、馬車が通ったであろう轍があり、商人がよく通っていることが察せられる。


「ソフィ、体調は?」

「程々で。休憩は助かります」

「私の背中は何時でも空けるからな」

「俺は……?」

「天秤というものを知っているか?」

「ソフィ大なり俺ということか」


 良く解っているじゃないか。


「しかし、そうだな。飛ぶということを知ってしまうと歩くのに抵抗を感じてしまうな」

「これを機に覚えてみてはどうだ?勇者と魔力が無いってわけでもなかろう」


 無いわけではない。ある程度の魔術も使えるし、多分、魔王やソフィ程高くなくとも、低空飛行程度なら出来るだろうか?


「どうすればいいんだ?」

「こうしてああしてあとはこうだ」

「わかった。魔王が人に物を教えることが出来ないってことが」


 感覚派の奴はこれだから。


「そ〜ふぃ〜。どうすればいい?」

「そう、ですね。自身を摘み上げる様な、そのような感じで魔力込めます。部位を言うなら項から背中上部辺りですね」


 説明しながらお手本を見せるように飛んで見せてくれる。

 なるほど、項、項か……。


「ふぅ……んっぅぅぅぅぅ!!!」

「待て、待て勇者。流石の俺もそんな踏ん張り方をしては飛べないことくらいわかるぞ」

「勇者様、それは地に足を離すどころか、更に強く大地を踏み締めています」


 どうやら私に飛行の才能はないらしい。



「そろそろ行こう。私もおぶる準備は出来ている」

「な、俺は歩くぞ」

「違う、ソフィに言っている」

「え?」


 休憩中だというのに、魔王と私ばかりを優先し、周囲の警戒をしてくれていた。

 それに山の時から魔王ばかりでソフィが疲れているのはわかっていた。

 魔王よりかは体力あるのはわかっていたが、流石に限界だろう。


「いえ、私は……魔王様を」

「私はソフィが倒れたら悲しいぞ」

「ソフィ、倒れたら元も子もないぞ。それに勇者の背中は安定感がヤバい」


 ふふん。私の体幹を舐めるなよ。


「いいから、大人しく背負われてくれ。魔王より軽いから楽なんだ」

「……では」


 恐る恐るといった形で私の背に触れる。予想通り、ソフィは軽く、魔王より数段楽だった。


「申し訳ありません……」

「安全運転で行くぞ!」

「俺も頑張るぞ」


 首都まで残り、3km。


 第11話

 背負うことは苦ではない

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