第10話 偏見無き者

「ゆ、勇者様!?なんでこんな所に!?」

「ん、君は……」


「誰だ?」



 山を登り始め数十分。早速魔王がバテたのでおぶりながら歩いていると、予想外なことに、人と出会った。


「俺ですよ俺!ほら、勇者様に助けてもらった!」

「すまん、誰だ?」

「うぇぇぇ!?」


 自分で言うのもなんだが、困ってる人は大体助けてるし、なるべる覚えるようにはしているんだが。


 ふむ、覚えがない。誰だこいつ。


「ほら、勇者。旅の途中、道端で倒れていた男」


 なんで見てただけの魔王の方が覚えているんだ。


「ん……あぁ!あの野盗に食料根こそぎ取られた可哀想な奴か!」

「言い草が酷い!その通りですけど!」


 そういえばこいつが倒れていたのも山の中だったな。

 しかしまいった、まさか人がいるとは。


「そもそもそこのお二人は誰なんですか!?人間には見えませんよ!?」

「あー、私の友人だ」

「そうなんですね!わかりました!」


 チョッロ、なんだこいつ。


「眠らせますか?」


 ソフィが小声で聞いてくる。そんな便利なことができるのか、めんどくさいしやってもらおうか。


「勇者様!ここで会ったのも何かの縁、恩返しさせて下さい!」

「いや結構」

「えぇ!?……えっと、この後どこに行こうとしているんですか?」

「はぁ……首都だが」


 私こういうタイプの人間は苦手なんだ。

 話をグイグイと進める男にめんどくさいなと思いつつ話を聞くことにした。


「それなら……!」


 持っていたリュックを漁り始め、何かを取り出す。


「これ、どうぞ!」


 渡してきたのは小さなコイン二枚だった。


「なんだこれ」

「通行証です!首都に行くならこれを見せなきゃ入れないんですよ!」

「え」

「勇者?聞いていないがそんなこと」


 だって知らないもんそんなの。

 私持ってないけど入れるもん。

 だからそんな呆れたような目で見ないでくれ。


「勇者様は顔パスですもんね」

「あ……私顔パスだったんだ」


 一応私そういう特別扱いされてたんだ。


「魔族のお二人にお渡しします!」

「やっぱり眠らせますか?」

「流石にダメだろう」


 魔族と知っていたのか。普通は魔族と分かれば即逃げるはずなんだが。肝が据わっているのかただのバカか。


「俺達は魔族だぞ?逃げなくていいのか?」

「でも勇者様のご友人でしょう?」

「……まぁ、そうだな」

「なら魔族とか人間とか関係ないですよ」


 良い奴だな、こいつ。

 魔族に偏見が無く、強がりで前に立ってる訳でもない。


「君のような人間が増えたらいいんだがな」

「そうですか?照れますね!」


 魔王とソフィはコインを受け取り礼を言う。男は満足したようで、


「では!自分もう行きますね!頑張って下さい!」


 颯爽と行ってしまった。


「では変装して、この通行証を見せれば見事侵入成功ってことですね」

「まぁ門番に見つかったらそもそも入れないか。そうしよう」


 男との別れを惜しむことは特に無く、首都に向けて足を進める。

 だが男に会っていなかったら首都に入れなかった。感謝しよう。


「うるさいけど良い人でしたね、彼」

「うむ、そうだな。彼」


「あ、名前聞きそびれた」


 第10話

 偏見無き者

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