第7話 指揮官
「こういうのってテント前に人間がいるものじゃないんですか?」
「普通ならそうなんだが……入ればわかるか」
意を決して、テントに入る。
「失礼する」
「何者!!」
「わぁ」
中に入るなり剣を突き付けられる。
うむ、正しい。兵士じゃない者が侵入した際の動きはバッチリだ。
「敵意は無い。話に来た」
奥で座るその人――指揮官は私達を静かに見つめていた。
「何者かと聞いている!」
「勇者だ」
「は」
これには流石の指揮官も動揺。そして兵士は剣を下ろす。
「勇者は魔王討伐に行ったはずだが」
「あぁ、それなら」
「おぉまさか魔王の首を――」
「和解した」
「は」
これにはテント内の兵士は驚愕。しかしそこは兵士、直ぐに気を取り直す。
「いや貴様……本当に勇者か?」
「うむ、私こそ勇者シーナだ」
「ならば何故魔王の首を取っていない!?」
「だから和解したと言っているだろう」
「信じられるか!あんな野蛮な種族と和解など!」
再び私に剣を向ける。それを鞘に入った剣で弾く。流石に鬱陶しい。
「貴様ァ!」
これは興奮させてしまっただろうか。斬り掛かられると面倒なんだが。
「そもそもそこの女は誰だ!」
「魔王ライベルト様側近メイド、ソフィでございます」
「な」
対応が早いな、すぐさま剣をソフィに向けた。
だがダメだ。それは。
「ぐぅあっ!!」
「和解したと言っている。敵意の無い相手に剣を向けるとなると私は看過できない」
兵士を武装解除する。魔族と来たらすぐこれだ。
「ありがとうございます」
律儀に礼を言うソフィ。
全く、どちらが野蛮なんだか。
「ふざけるな!魔族に堕ちたか勇者!ここで斬り伏せてくれる!」
「待て」
「なっ指揮官!?ですが……!」
「待てと言っている。指揮官の命令が聞けないか?」
「は、はい……」
冷静さを取り戻したか、指揮官は兵士を止めると口を開いた。
「偽の勇者が来る理由もない。貴様、いや貴女は勇者なのだろうな」
「わかってくれるか」
「あぁ、ならば先程の無礼を謝罪しなければな」
頭を下げる指揮官。
自身の部下の無礼を謝れるのは良い上司の証拠だ。
「あー大丈夫だ。それで、和解の件、信じてもらえるだろうか」
「簡単には頷けない。すまない」
「だろうな」
「わかるか?」
「あぁ」
原因は二点ある。
まず一点、入ってきた時にも感じたがあの敵意。疲労も相まって相当なものになっているだろう。
だがこれは時間が解決してくれる。問題は無い。
問題は二点目、根強く残った敵対意識。
これは相当面倒臭いぞ。
何年何十年続いている戦争。もはや今の兵士達、それに私だって産まれた時から刻まれてる。
魔族は悪と。
これは兵士であればある程深く刻み込まれている。
何故なら魔族に家族、友人、果ては子供を殺されている場合があるからだ。
多分、この指揮官も――
「……私の妻は魔族に殺された」
「…」
「憎んだ、恨んだ、許せないと思った」
「あぁ」
「だから今、私はそこの魔族をすぐにでも殺してやりたいと思ってる」
させないが、しないだろうな。彼は弁えてる。
「この憎悪は消えることはないだろう」
「わかってる。だが」
「あぁ、これは私情だ。私一人のためにこの争いを続けさせるつもりは無い」
「……すまない」
「私と同じ者は数多くいる。もしも和解が本当ならば反発は避けられないだろうな」
そこはなんとか。いや、算段は無い。
魔王と乗り越えるしかないだろう。
「魔王……魔王はどうしている?」
「今、魔族の方を止めている。時期に兵が引いていくと思う」
「……こちらも、兵を引かせよう。理由は混乱を招く、一旦伏せておこう」
「あぁ、頼む」
とりあえずなんとかなったな。
後のことは魔王とソフィと考えよう。
そう考え、テントを離れる。
魔王と合流すべきか否か。
「勇者様、一つ」
「どした、ソフィ」
「先の指揮官様のお話」
「魔族に殺されたって?」
「はい。魔族に殺された、と仰いました」
酷いことする魔族もいたもんだ。
実際、いるのだろうか。
魔王の考えとは別に人間を憎み、恨む魔族が居てもおかしくは無いのか。
「魔王様は兵に人間を殺さないように命じています」
「なっ……じゃあ」
「はい。兵の中に魔王様の意向に従わない者がいるということです」
「兵ではない可能性は?」
「大いに有り得ます。どちらにせよ、女を狙った点からやむを得ない理由あっての殺害ではないと推測できます」
これは、一つ筋縄ではいかなそうだぞ、魔王。
第7話
指揮官
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