第6話 酷い有様

「これは酷いな……」

「はい……けほっけほっ……」

「大丈夫か?ソフィ」


 慣れていないのか、咳き込むソフィ。血の臭いは種族的に慣れているものだと思っていたが。


「ソフィは血の臭いに敏感なんだ。ほら、新鮮な肉と腐った肉じゃ臭いは違うだろう?」

「そうだな……布か何かを口に当てておけ、無理はしないでくれ」

「ありがとうございます……けほっ」


 さて、どう動くか。

 やはりまず指揮官に説明しに行くべきか。


「二手に別れよう。俺は魔族側の拠点に、勇者はソフィを連れて人間側の拠点に行ってくれ」

「何故ソフィを?」

「説明の時役に立つはずだ」


 魔王はそう説明すると、さっさと行ってしまった。

 残されたソフィと私は目立たないように拠点を目指すことにした。



(俺だ、聞こえるか?)

「うわっ」

「どうしましたか?……あぁ、魔王様ですか」


 しばらくした後、耳に着けていた魔道具から声がした。魔王だ。

 細かいことはこれで説明するとか言っていたな。


「なんだ、魔王」

(多分、こちらはどうにかなる)

「何故?」

(魔王だから)

「なるほど」


 地位を使ったゴリ押しというわけか。

 まあ上手く事が進むのならいいか。

 こちらも人間の領地に踏み入るところだ。ここからは私を知っている者が現れるかもしれない。バレたら面倒だ、慎重に進もう。


「さて、融通の聞く人間だと助かるんだが」

「突然斬り掛かられたりするかもしれませんよ?」

「嫌な冗談は止してくれ、殺してしまうかもしれない」


 突然そんなことされたら反射的に斬ってしまう。本当に困る。

 反逆罪に殺人、事実上の裏切りになってしまうじゃないか。


(いや、あながち冗談でもないかもしれないぞ)

「というと?」

(魔王の首を持たずノコノコやってきた上、魔王と和解したなんて言う勇者は人間から見たら敗走の言い訳にしか聞こえないだろうな)

「うへぇ……メンドクサ……」

「そのための私なんですが」


 確かに一人だったらそうなって斬り合い、皆殺しになっていたかもしれない。

 ソフィはそのための証明役か。


「まあ着いてみてからの判断になるな。どちらにしろ」

(そうだな、こちらはもうすぐ着く。一旦切るぞ)

「了解」


 武力行使はしたくないが、どうなる。



「勇者様、あれですか?」

「あれだな。にしても、今回の戦いは余程長引いているようだな」


 そこそこの大きさのテント。彼処が人間側の拠点だ。

 撤退のし易さを重視したそのテントは、薄汚れていて、今回の戦いの長さが図り知れる。

 本来、戦争中の一戦は片方が疲弊し、引いた場合、追うことはせずもう片方も休息も込め引く。だが先程の魔族の疲弊具合、この拠点の様子からして結構な日数、戦っているのがわかる。


「これ、面倒くさくなるかもしれない」

「え?」

「行けばわかる。さ、行こう」

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