第5話 前線到着
「魔王様って結構抜けてますよね」
「う……まぁそうだな、すまん」
「全く……魔王」
「人間は基本飛ぶことは出来ないんだぞ」
現在空中。ソフィに横抱き、俗に言うお姫様抱っこをされ運ばれている。
何故こんなことになっているのか、それは出発前に遡る。
「さて、忘れ物はないか?トイレは済ませたか?心の準備はいいか?」
「遠足か?」
「遠出するときはいつもこうなんです。お気になさらず」
「しかし、ここから歩くとなると相当な時間を要するな」
「え?」
「ん?」
一般的に魔族とは、翼を持つ者やそうでなくとも魔力を使い飛行することができるらしい。
人間と魔族の違い、その一。
認識の違いが齎した一例。
「……魔王様、飛んで前線まで?」
「そのつもりだが……」
「私飛べないぞ?」
「え?」
「ん?」
ん?
と、言うわけで。
飛んでいくことが前提の計画だったこともあり、
「すまないソフィ、重いだろう?」
「いいえ、勇者様。羽のように軽いですよ」
「イケメンというのだろうな、こういう者を」
しかしまあ、空中に浮くというのは何とも不思議な感覚。
人間でも一部の魔術師とかが魔術を応用して飛行が可能だと聞いた。便利なものだ、私も使えるようになりたい。
「というか、私のこと見ていたんだろう?何故知らないんだ」
「完全に抜け落ちていた……」
「抜けてるな」
「可愛いですよね」
呑気なことだ。これから戦争を止めに行くっていうのに。
ほら、ちらほら戦闘の後が見受けられる。魔族側であろう兵士も。
「ま、まあとにかくだ。もうすぐ前線に到着するぞ」
「おぉ、飛んで行くと流石に早いな」
「付近に着地しますか?」
「そうしよう」
着地した後、徒歩で向かうことになった。
「勇者、気を付けてくれ」
「?」
「この辺りの兵士は血の気が多い。人間とわかれば問答無用で襲い掛かってくるぞ」
「?」
「俺もなるべくフォローするが……」
魔王は一体何を言っているのだろう。
「――私が、私が一般兵ごときに遅れを取ると思っているのか?だとしたら心外だな」
「いいや、これは個人的な心配だ」
「心、配」
そういえば、誰かに心配されたのなんていつぶりだろうか。
勇者に選ばれてから、国の存亡が掛かっているという重圧に耐えながら、それを打ち明けるわけにもいかず。
「やめてくれ魔王……泣いてしまいそうだ」
「え、あ、勇者?すまない……」
「謝らなくていい、嬉し泣きというやつだ」
「女泣かせですね、魔王様は」
「言い方!」
改めて受けた魔王の優しさに、少し当てられた。
「もう大丈夫だ。さあ、動こう」
といっても戦場のど真ん中で和解宣言するだけなんだが。
「なら…行くぞ!」
「ふぅっ!」
「勇者速!」
「魔力を込めて。追いますよ魔王様」
なんだか魔王達の声が遠く聞こえるが、まあ大丈夫だろう。多分。
所々に兵士がいるが、皆疲れている様子。中には怪我をしているものまで。
うーむ、指揮が悪いのか、はたまたここまでしないといけないほど、人間が圧しているのか。
「いや、人間が圧しているとは思えないな」
「やっと追い付いた……速すぎるぞ勇者」
「魔王か。遅かったな」
「ぜぇ……はぁ……勇者様が……速すぎるだけ……です」
「ほら、ソフィが死にかけている」
「ソフィ!?」
そんなに速かったか?
ソフィが死にかけているってことはうん、速かったんだろうな。
魔族と人間の違い、その二。
「勇者が特別なだけだと思うぞ」
「そうか?」
「そうだ」
訂正。魔族と勇者の違い、その一。
「前線まで目と鼻の先だ。急ごう」
「速度は?」
「俺達が置いてかれないくらい」
「了解」
林を抜ける。
そこは荒れ地だった。
爆発によるクレーター。
木々があったであろう焼け跡。
そして何より
「血腥い」
あまりにも酷い、惨状だった。
第5話
前線到着
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます