第4話 作戦概要

「んーっ」


 早朝、久しぶりにふかふかのベッドで寝たお陰で気持ち良く起きれた。これで明るい陽の光を浴びることができればもっと良かったんだが。

 身体を伸ばし、ベットから出る。覚醒しきっていない頭を目覚めさせるために洗面所へと向かった。



「ふぁ〜あ……」


 冷水で顔を洗う。両手で水を掬い口内へ。

 冷水で口が満たされ気持ちが良い。


「がらがらがら……ぺっ」


 残った眠気も吹っ飛びサヨウナラ。


「ん、腹が減ったな」


 タイミングが良いものだ、私の腹は。実に健康的。

 食料を求めキッチンへと赴くのだった。



「勇者、起きたか。おはよう」

「んおはよう魔王。いい匂いがするな…これはバターの匂い?」

「惜しいな、マーガリンだ。朝食はベーコンエッグとトーストにしようと思ってな」

「シンプルイズベストというやつだな」


 昨日も見たぞエプロン魔王。片手間に食パンを焼きながら器用に片手で卵を割っている。

 だが何かが足りない。というか誰かが足りない。


「そういえばソフィは?」

「まだ寝ている。よかったら起こしてやってくれ。『ソフィの部屋』と書かれた部屋にいるから」

「主人より寝ているメイドとは……まぁいい、行ってこよう」


 寝坊助メイドの寝顔を拝みに行ってやろう。



「あった。ここか」


 客室。私が泊まった部屋。その隣。そこの扉には大きいネームプレート――ソフィの部屋とデカデカ書かれていた。

 音を立てないように慎重に扉を開ける。


「おはようございま〜す……うわ暗」


 部屋に入ってみれば辺りは真っ暗。扉が閉まるといよいよ何も見えなくなる。

 だが過酷な一人旅で鍛え上げられた私の目は完全に暗闇に慣れている。位置を把握など造作無い。


「お部屋点検といきたいところだが……ふむ、流石にマズいか。プライバシーは守らなければ」


 余所見はせずにベッドに向かう。

 抜き足差し足忍び足、ついでにすり足で歩く。勇者であって暗殺者では無いのだが。

 そんなことを考えベッド付近に到着。様子を伺う。


 綺麗に寝ているものだと思っていたがこれは予想外、掛け布団で頭まで覆って寝ている、寝ているのか?


「……捲って、みるか」


 そ~っとそ~っと布団を捲る。


「わお」


 捲り切ると、そこには猫のように丸まって寝ているソフィがいた。


「んぅ……むにゃむにゃ……」

「……可愛らしいな」


 すやすやと眠るその姿は愛らしさの塊。高い身長と豊満な身体の成熟したザ・大人のようなソフィからは想像できない愛らしさ。可愛い。


「んんっ……起こすのが躊躇われる……」


「まぁ起こすんだが」


「おはよー!ございます!!!!」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」


 とんでもない奇声が響き渡った。



「……起こしに来てくださったのはわかりました」

「……はい」


 寝間着姿のままベッドの上でただならぬオーラを放つソフィ。そんなオーラに気圧され正座する私。勇者の姿か?これが。


「ただもう少し声量を控えていただけると助かります」

「はい……すいませんでした……」

「わかってくださればいいです。魔王様に頼まれたのでしょう?」


「着替えてきますので廊下でお待ち下さい」


 廊下に出されてしまった。


「奇声聞こえ来てみればなんだ、大丈夫そうだな」

「魔王か」

「ソフィは?」

「今着替えてる」

「だから廊下にいるのか」


 エプロンを着たままやってきた魔王。なんだこのお母さん感は。

 だが丁度良い、聞きたいことがあったんだ。


「なぁ、ソフィは何故魔王より後に起きるんだ?さっきの反応を見たところ今日偶々寝坊したってわけでもなさそうだが」

「あぁ言ってなかったか」


「彼女は吸血種なんだ」


 吸血種。魔族の中の種族の一つ。

 名の通り血を吸う者をそう呼称するが生気を吸う者、精気を吸う者もまとめて吸血種とされる。

 特徴として夜行性という点が挙げられる。


「夜行性……」

「多様性は大切だ。我が屋敷はフレックスタイム制を採用している」

「たよう……ふれっ……なんて?」

「好きな時間で働いていいよってことだ」

「なるほど」


 時代の最先端ということか。進んでいるな。


「ところで魔王。具体的にはソフィは吸血種の何なんだ?私の見込みではサキュ――」


「ヴァンパイアですが、何か」

「なんでもないです」


 生気……いや血を吸われたくないので黙ることにした。賢さも勇者には必要だ。



「ご馳走様でした」

「お粗末様」

「片付けてきますね」


 朝食を終えると魔王は今後について話し始めた。


「食べて早々だが、今日から行動を始めたいと考えている」

「早いな。計画とか無いのか?」

「ある。だが単純明快バカでもわかるような計画だからな、あってないようなものだ」


 昨日作戦会議した部屋、会議室に移った。



「でだ、善は急げと言うだろう。早速概要を話そう」


 魔王が言うにはこうらしい。

 始めに戦場の最前線に向かい魔王魔族勇者人間が和解したことを伝える。これにより一旦の停戦に持ち込む。

 そして人間の代表、つまり国王と謁見するために首都を目指す。個人的に王は理解ある人だからここは大丈夫だと、信じたい。

 最後に魔王と国王で終戦宣言をする。


 なんとも大雑把なことだろうか。


「大丈夫なのか、これ」

「大丈夫だ。細かいことはこれを使ってリアルタイムで指揮しよう」


 そう言って手渡してきたのは魔力の籠もった石ころ?だった。


「なんだこれは」

「遠距離でも会話が可能な万能魔道具だ。耳に着けて使用する。ちなみにお手製だからプレミア物だぞ」

「耳……こうか?」


(勇者様、聞こえますか?)


「うわっ」


 耳に着けた魔道具から声が、ソフィの声が聞こえてきた。


(キッチンにいるソフィでございます)

「あぁ……聞こえてるが……」

(それは良好。不具合は無いようですね)


 耳の奥がゾワゾワして擽ったい。だがこれは便利だな。


「大丈夫そうです。魔王様」

「なら良し」


「うむ……それじゃあ、動くか」


「不安だ……」


 第4話

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