第3話 晩御飯
「「戦争を、止める」」
気がつけば日が暮れていた。といっても魔族の領土は常に薄暗いためそこまで変わらないのだが。
「食事にしよう。何か食べれないものはあるか?」
「ん、キノコ類がダメだ」
「ふむ、了解した」
そう言って席を立つ魔王。
じっとしているのも落ち着かず、着いていくことにした。
「……意外だ」
「そうか?自分の食事くらい自分で作れなくてどうする」
エプロン姿の魔王が居た。
魔王の姿としては実に家庭的で微笑ましい。
「メイド……ソフィがいるだろう」
「とても助かっております」
「勇者は楽にしてくれて構わない。一応客人だからな」
「お前の首を狙っていた奴を客人とは」
それにしてもテキパキと動くものだ。見ていて楽しい。
ソフィとの息も合っていて、これが阿吽の呼吸と言うのだろうか。
そうしてあらよあらよという間にチーズのいい香りが広がってきた。
「ほら勇者、もうすぐできるから食堂で待っていてくれ」
「早いな……手伝うぞ」
「ならスプーンを持っていってくれ」
「あぁ」
木製のスプーン三本、席に並べる。
ソフィのお気に入りだそうだ。
先に席に着いて待っていると、ソフィがスープボウルを持ってやって来た。
「どうぞ、残りは魔王様が」
「おぉ、コーンスープか。うん、いい香りだ」
黄色の海に緑色のパセリが良く映える。
クルトンも浮いていて、まるで黄色の海に浮かぶ小さな島のよう。
「勇者様」
「ん?どうしたんだソフィ」
ソフィに話しかけられる。魔王を抜いて二人きりというのは初めてだ。気を利かせてくれたのだろうか。
「魔王様のこと、お願いします」
「お願いって……そんな婿入りじゃあるまいし…」
「意外とそうでもないかもしれないですよ」
「……え?」
「すまない、少し遅れた」
タイミング悪く、会話を遮るように魔王が来た。
「勇者様と楽しくお話していたので大丈夫です」
「それはよかった」
魔王はトレーをテーブルに置く。オーブンミトンを着けて私とソフィ、そして自身の前に皿を並べた。
「熱いから気を付けてくれ」
このほかほかとしているものの正体はグラタンだった。
チーズがところどころカリカリと濃い色をしていてとても美味しそうだ。
「マカロニグラタンだ。口に合えばいいが」
「では、」
「「「いただきます」」」
どうやら食前の挨拶は人間魔族共通なようだ。
スプーンを入れると、熱気が中から溢れてくる。
マカロニは勿論のこと、ゴロゴロとしたじゃが芋や肉、玉葱なども沢山入っていて、ホワイトソースとよく絡んでいる。
よく冷まして、一口。
「あちゅっ!」
「…」
「…」
「殺せ」
ふーっふーっと冷ましたはずなのに。
「気を付けろと言っただろう……」
「お水、ご用意しますね」
冷水の入ったピッチャーをコップに注いでもらう。ぐびっと飲むとヒリヒリとした舌がスッキリする。
「ありがとうソフィ……」
「お気になさらず。私も飲みたかったもので」
「すまないソフィ、俺も」
「かしこまりました」
改めて、よく冷まして一口。
「はむっ……ん!」
よく咀嚼し、飲み込む。その後味をじっくりと楽しむ。
「んっく……魔王」
「どうした?口に合わなかったか?」
「……これなら平和の実現は確実だぞ!!」
「いきなりどうした」
美味い。本当に美味しいものを口にした時、脳のあらゆる言語機能をフルに活用し言語化しようとするが結局、美味いの三文字に収束してしまうのだと実感した。
「将来人間と魔族の協和が実現した時、親睦会の献立に入れよう。勿論魔王手ずから」
「なんだ、むず痒いな」
「こんな風に褒められることは初めてですものね、魔王様」
口ではそう言いながら口角が上がっているぞ、魔王。
「……平和の実現か。なぁ勇者」
「ん、はふっ、なんだ、はふっはふ」
「飲み込んでから返事しなさい」
「すまん……それで、なんだ」
「改めて、ありがとう。勇者」
呆気に取られた。こう正面堂々と言われるとなんだか照れくさい。
感謝といえば私だって思うところがある。
「……いいや、感謝するのは私もだ。ありがとう魔王。間違ってないって言ってくれて、私を、肯定してくれて」
支えのいない一人旅。何度挫けそうになったか。
そんな中まさか敵の親玉である魔王に支えられるとは思わなかった。
「あぁ、俺も……俺のこんな
「よしてくれ、それは実現したときに聞きたい」
「そうか……そうだな。この言葉は取っておこう」
「さっ、早く食べないと冷めてしまいますよ」
魔王が内に秘めた言葉が何かはわからない。
だが聞ける日が来る。必ず。
その日はきっと、晴れた空の上で魔族と人間が手を取り合う素晴らしい日になることだろう。
その日を信じて、待つことにしよう。
第3話
晩御飯
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