第2話 問題提起
「ここは?」
魔王城から少し離れた森の中。そこにポツンと佇む家屋があった。
「俺の持ち家だ。俺と側近のメイド――」
「お呼びでしょうか」
「……メイドのソフィだ。俺とソフィ以外この家を知らない」
音もなく現れたのは魔王の側近メイド、ソフィだった。
一度、厭味ったらしい貴族の家に訪れた際、ソフィと同じような服装の人達が出迎えてくれた。基本の服装なのだろうか、それとも――
「待て、あの厭味ったらしい貴族に向けた目を俺にするな」
「ほぉ、よくわかったな」
「当たり前だ。いつも見ていたからな」
よくもまぁ平気でそんなことを言える。
ほれみろ、ソフィもため息を付いてる。
「それで?ここで何をするんだ?」
「作戦会議だ。この場合、問題提起と言った方が合っているか」
家屋の一室。リフェクトリーテーブルと四脚の椅子が設置してあるのみの、なんとも簡素な室内。魔王は椅子を引き座った。
魔王に習い私も座ると、ソフィがティーカップを持って現れた。
「粗茶ですが」
「ありがとう。だがこれはお湯と言うんだ」
「白湯でございます」
「揚げ足を取らんでよろしい……まぁいい」
お湯。ティーカップに入ったお湯。魔王は白湯と言ったか。
どれ一口――
「あちゅっ!」
「…」
「…」
「……やはり人間と魔族はわかりあえないのかもしれないな。魔王」
「何も言っていないだろう」
「言わずともわかる。もういい、早く本題に移ってくれ、死んでしまいそうだ」
舌がヒリヒリする。顔も熱い。
魔王は少し沈黙した後、話し始めた。
「先の通り、問題提起を行う。我々の目標に向けての課題を出したいと思う」
「課題?」
「要は平和のために何をするべきか、というお話ですよ。勇者様」
「ナルホド……あぁありがとう」
「冷水ですが」
冷水の入ったティーカップをありがたく受け取る。
しかし課題、課題か。
「ならばやはり戦争ではないか?戦争があるから死者が出続けるし、戦争があるから飢餓が収まらない。だろう?」
「そうだな」
「じゃあ」
「だが戦争を止めたら酷いことになるぞ」
「??」
ただでさえ戦争が酷いものなんだ、更に酷くなるなんて想像ができない。
「戦争が終わればすぐにとは言わないが平和に向かうものなんじゃないか?」
「それは喧嘩や揉め事での話だ。戦争は違う」
「戦争は、経済だ」
「経済?」
「そう、経済」
そう語る魔王に、困惑が隠せない。
経済とは金の回りのことだろう。戦争とは関係なさそうなものだが。
そんな私を察したのか、魔王が説明を始めた。
「戦争をするには物資が必須だ。だが自給自足では限界がある」
「だから近隣の人々から貰うんだ。勿論無償なわけではない」
「近隣の人々?」
「……そうか、今の人間の国は統一済みだったな」
「?」
魔王曰く、人間の国が一つに統一されているのは、歴史を見ても非常に稀有で奇跡と呼んでもいいらしい。
普通は国々に分かれそれぞれの文明があったそうだ。
伊達に長生きしてるわけではないらしい。
「まぁそうだな、統一されているといってもそこまで変わったことはない。戦場の前線とその反対では安全性が大きく変わるだろう?」
「確かに……首都などは比較的安全だが……」
「そうだ。それは前線で食い止めているおかげなわけなんだが……では何故食い止められていられるのか」
「それは安全圏からの支援によるものが大きい」
「支援……食料や武器、金属の類か」
「うむ、それらの物資を送ることによって支援をしている」
「だがそれでは無償じゃないか?」
物の取引は金や物々交換のはずだ。だが前線にそんな金も物資もあるとは思えない。
「別に取引するものは形あるものに限った話ではない」
「!」
「対価として保証されるのが、人々の安全だ」
「なるほど、そういうことか」
「勇者は察しが良くて助かる」
「どうも」
「前線が魔族侵攻を食い止めることにより支援している地域の安全が保証される。つまり、前線という壁が壊されないように、安全を享受している人々が壁を補強し、頑丈にすることで、壁は頑丈に、人々は安全に生活できるわけだ」
「この回りを経済と呼ぶ」
納得がいった。この回りは戦争が地盤となって動いている。つまり地盤を崩せばどうなるか。それはバカでもわかるだろう。
「――ん?いや、別に戦争を止めても問題なくないか?」
「そうだ、ここで活きてくるのが人間の国が統一されているということだ」
「国が分かれていると、国際間で金の回りが発生してしまう。金が回るということはそれで生計を立てる人がいるということ」
「そんな中戦争が終われば……」
「そう、金の回りが止まり、関係者諸々パニックが起こるわけだ」
しかし今の国は統一され国際間の問題は生じない。
つまり戦争が終わっても経済的な大打撃を食らう人が居ないということになる。
「戦争を止めても問題はない。戦後処理に追われるのがネックだが、許容範囲だろう」
「なら」
「そうだ」
「「戦争を、止める」」
第2話
問題提起
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