勇者です。魔王と一緒に平和目指します。
ゆきさん
第1話 勇者と魔王
魔王城。魔の王が住まう城。
そこで私は城の主人、魔王ライベルトと対峙していた。
「お前が勇者シーナか」
「そういう貴方は魔王ライベルトね」
所謂玉座の間、玉座に座る男は、紛れもなく魔王だった。
黒髪の特徴的な角の生えた男性。それが私の聞いた魔王の姿。
目の前にいる男はそれと完全に一致している。
つまり魔王だ。私の討つべき敵なのだ。
「話が早いわね――覚悟!」
「待った」
「へ?」
「こちらに争う気はない」
毒気を抜かれてしまった。
「な、何を言って」
「だから、こちらに争う気はない。戦うつもりがないんだ」
こちらを惑わそうとしているのかと疑う。しかし魔王に敵意も殺意も感じられない。
流石に敵意の無い相手に剣を振りかざすことは出来ない。これは私のポリシーであり情ではない。
「……それで、争う気がないなら何なんだ」
「俺は平和を目指している」
「っ!ふざけるな!魔族を侵攻させてるのはお前だろう!?」
「だが侵攻を止めればお前らが侵略を始めるだろう?」
「それは…」
頑として否定できない。
人間と魔族の戦争は長きに渡り続いてきた。
今は攻められているだけで、昔、そのまた昔と、攻めて守ってを繰り返してきた。
片方が譲れば平和に丸く収まる、なんて段階はとうに過ぎてしまってるのだ。
だからこそ、私がこの戦争を終わらせるために来たのに。
「勇者、お前を見ていた」
「なっ」
「コイツを通して、お前の旅をずっと」
魔王の肩に乗っている
「……プライバシーの侵害だ」
「それは謝罪しよう」
「だが一体何のために」
長く旅をした。その一部始終を見られていたと思うと、少し恥ずかしい。だが目的は?私の弱点を見つけるため?それとも刺客を差し向けるつもりだったのだろうか。
「……貧困な村」
「――あったな」
「冷たくなった子を抱く、痩せ細った母親」
「食うに困り、お前から食料を盗もうとした子供。だがバレずに盗む頭も力もなかった」
「全部見てきた。勇者、お前を通して」
「だからっ!だからこそ!魔王、お前を倒して私達は……!」
「それはな、勇者。魔族も同じなんだよ。それは見てきたお前もわかるだろう?」
わかっていた。
知っていた。
敵である私を見て、怯えることすら出来ず地面に伏せていた魔族の子供。
挙げ句の果て、
それを見て何も思わなかったわけじゃない。
痛かった、苦しかった。
それでも、割り切らなきゃ私達が死ぬ。
「私は勇者、人間だ。どこまでいっても人間の味方なんだ」
「……じゃあ何故餓死寸前の魔族の子を助けた」
「……それは」
「何故苦しんでいる魔族を見て心を痛めた」
「違う!」
「あれは憐憫だ!哀れに思った……だから!」
「それでもいい。哀れに思おうが不憫に思おうが、お前は助けた、手を差し伸べてくれた。そこに何の違いがある?」
可愛そうだと思った。
そんな子や魔族を見るたび、自身の行いがまるで間違っていると言われているような気がした。
決して正しいなんて思ってはいない。ましてや正義なんてものとは程遠い。
だけど、間違っているなんて言われたら、足が
怖くて、見て見ぬ振りを――できなかった。
「戦争に人間が勝てば魔族は滅びるか良くて奴隷。それなのに私は冷酷になりきれなかった。中途半端に助けようとしたんだ。あまりに無責任な行動だ」
勇者なら、人間なら、見て見ぬ振りが正しかったのに。
「私は間違っ――」
「間違ってない」
「え……?」
「助けた子供は泣いていたか?苦しんでいたか?違うだろう」
「笑っていただろう!?」
「自分達を滅ぼしに来た
確かにそうだ。痩せ細って今にも倒れそうなのに、『ありがとう』と、笑顔を向けられた。
「それを見て俺は確信した」
「勇者となら目指せると」
「平和を実現できると」
「……本気か?」
「あぁ」
平和。綺麗事だ。
だが綺麗事と切って捨ててしまえば絵空事だ。
どの道私に魔王はもう討つことは出来ない。
「いっそ悪人なら、楽だったろうな」
この綺麗事に付き合ってみてもいいのかもしれない。
「やるからには、全力で」
「勿論」
最高の
第1話
勇者と魔王
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