第5話 へっ!? 絞殺ってなにそれ?
結局、由奈に話しかけられたアレはなんだったんだろう。その後も何度も試してみたが、成功したのはあれ一度きりで、その後何度やっても成功しなかった。
昨日、家では家族会議が開かれた。由奈が猫を飼うと聞かなかったため、大荒れに荒れ母親は勝手にしなさい、と怒り家族会議はお開きになった。
父親が必死になって二人の仲裁に入り、なだめてたよな。母親の味方をして由奈に怒られ、由奈の味方をして母親に怒られると言う繰り返だった。
絢辻先生って言っても、ただの父親なんだよな。憧れの先生に会えたため、ドキドキしたが、一日話してみると俺の父親と一緒だった。
ただ、娘の由奈を溺愛してることだけは間違いない。
「ほら、コウちゃん行くよ!」
行くって、ど?こへ!?
俺は由奈に抱っこされて、一階に降り、そのまま家を出た。ちなみに由奈と母親は昨日から一言も口を聞いていない。
九月に入ったばかりで、暑くもなく寒くなく心地よい。微風に吹かれて毛並みが少し揺れた。猫でも暑いんだよな。当たり前なことだが、俺は正直驚いた。
そのまま、由奈は俺を抱っこしたまま、どこかに向かって歩く。動物病院なのかな!?
でも、この道を俺は知っている。と言うか数ヶ月前まで俺は毎日ここを帰宅していた。
「大人しくしてるんだよ」
由奈はそう言って寂しそうに笑った。
あっ……。この道なら目を瞑っていても歩ける。ここを曲がると……。
庭に俺の母親が疲れ果てた表情で立っていた。
か、かあさん……。
「あっ、早坂さん、おはよう!」
「すみません。無理言ってしまって……」
「いえいえ、早坂さんが来てくださって、康二も喜ぶと思います」
そのまま玄関に通されて居間に座った。
「あら、可愛い猫ちゃんね」
「この前拾ったんですよ。ここに羽があって少し変なんですけどね」
「いえいえ、可愛いらしい猫よ。それにしても康二ったら本当に馬鹿だよね。自殺なんてしなくたって……」
母さん違うんだよ。自殺じゃ無いんだ。声にしようと思ったがニャーンと鳴いただけだった。
「本当にごめんなさい。馬鹿な駆け引きしたわたしが全て悪いんです」
由奈は思い切り頭を下げる。くぐもった嗚咽の声が聞こえてきた。俺は由奈の身体に登って涙を舐める。俺のために泣かなくたっていいんだ。
「えへへへっ、心配してくれてるの?」
俺はその言葉にニャーンと鳴き声で返す。この言葉だけでも簡単な意思疎通はできる。俺は優しい声で鳴いた。
「そんなことないわ。早坂さんにまで苦しませるなんて、本当に馬鹿息子よ」
つられて母親も泣いていた。自殺したわけじゃ無い!
そうじゃないが、俺が亡くなったことで多くの人を苦しめてしまった。
母さん、父さんそして由奈、みんな、ごめんなさい。
「それにしても、あの子が首吊り自殺なんてね……」
母親がボソリとキッチンに向かう時に呟いた。
きっと聞き間違いだろう。それを言うなら飛び降り自殺だ。
「ほら、ジュースでもお飲みなさい。秋といってもまだ暑いわよ」
「すみません、ありがとうございます」
それから何も話さない時間が流れる。ふたりをじっと見ると無言の中、母親と由奈は同じ悲しみを共有しているように見えた。
その姿を見て改めて、俺は心の底から詫びた。ごめん!! 本当に、本当にごめんなさい。どのくらい静止していただろうか。由奈の目の前に置かれたオレンジジュースの氷がカチャンと音を立てたのを見て、時間が動き出したように、俺の母親は由奈に声をかけた。
「よかったら、お仏壇にお参りしてくれる?」
「はい、そのつもりで来ました」
「ありがとう。康二もあの世で喜んでると思うわ」
いや、俺はここにいるが……。地縛霊という言葉が頭に浮かんだが、俺は猫として転生したのだから、地縛霊ではない。
「コウちゃんも行く?」
「コウちゃん!?」
「ごめんなさい。勝手に名前つけちゃって、なんかこの子康二君みたいに思えたのでコウちゃんって名付けたんです」
その言葉に母親は由奈をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、本当にありがとう。本当にいい娘ね」
そのまま、由奈の頭を撫でる。
「いえ、本当にすみません。もっと早く追いかけていたら、こんなことにならなかった」
「あの馬鹿息子、打たれ強さだけが特徴だったのにね。ほんとバカ……」
そう言って俺の母親は由奈を仏壇のある床間に案内した。そっか、この部屋に仏壇を入れたんだ。俺の仏壇は160センチ程度の黒塗りだった。
母親は線香に火をつけて、りんをチーンと鳴らした。由奈は仏壇の前に座り、手を合わせて何か言ってるようだった。最後にごめんなさい、と聞こえたが……。
本当に最悪だ。なんとか由奈に自殺じゃなかったことを伝えたいが、何か方法はないだろうか。文字は覚えているが書くことはできない。なら……。
俺は家に帰ったら実践してみようと思った。
「本日はありがとうございました」
由奈は大きくお辞儀をして、また俺を抱っこした。自分で歩けるのだけれども、大きな胸に抱かれていい匂いを感じてる方が俺にはいいので、特に嫌がらなかった。
「ちょっと電車を乗り継ぐことになると思うけどね。コウちゃん、大丈夫かな?」
由奈はそう言って寂しそうに俺を見た。俺は由奈にどこまでもついていく気でいるから、特に問題はない。
由奈は一度家に帰ってキャリーケースを出してきた。父親が独身の時に猫を飼っていたことがあるらしく、納屋にしまってあったのだ。
「パパのなんでも残す癖、わたしもママも嫌だったけど、変なところで役に立ったね」
流石に猫を抱っこして電車には乗れない。俺は由奈の持つキャリーケースの中に入った。
「ごめんね」
電車に乗るまでは抱っこしてもらうこともできるが、抱っこしながらキャリーケースを持つのは大変だろう。
そのまま由奈は電車に乗った。
「うわっ、数駅電車に乗っただけで、こんなに開けた土地があるんだね」
由奈は近くのスーパーで花を買うと、斜面を登る。男ならこのくらいの斜面は平気だが、女の子の由奈には大変だろう。俺がそう思ってると由奈がキャリーケースを地面に下ろした。
「やっと着いたよ」
俺が開けられたキャリーケースから外に出ると、そこには見渡す限りずっと遠くまで霊園墓地が整然と並んでいた。
――――――
一瞬、ゾッとする展開です。
なんのことだろう、と思った人読み返していただけたら幸いです。
少しミステリー要素も入れつつの、ラブコメものです。
今後ともよろしくお願いします。
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