●５ミルルの実（み）だよ

　お金（かね）はあまりない。でも宿屋（やどや）とご飯（はん）を節約（せつやく）しているから、昨日（きのう）くらいの売（う）り上（あ）げでも、なんとか黒字（くろじ）で最低限（さいていげん）の生活（せいかつ）ならできる。

　ただ、せっかく王都（おうと）に来（き）たんだから、綺麗（きれい）で可愛（かわい）いふりふりの服（ふく）、ワン（{one）ピース（piece}）やスカート（skirt）とかも欲（ほ）しい。

　これからの時期（じき）、夏（なつ）だけど、それを超（こ）えたら秋（あき）、そして冬（ふゆ）にもなる。

　一応（いちおう）、冬服（ふゆふく）も一式（いっしき）持（も）っているものの、田舎（いなか）臭（くさ）いダサいのしか持（も）っていなかった。

　田舎（いなか）村（むら）では若（わか）い子（こ）向（む）けの服（ふく）なんて仕入（しい）れていなくて、ご婦人（ふじん）方（がた）と同（おな）じセンス（sense）の服（ふく）ばかりしかも色（いろ）もデザイン（design）も少（すく）なくて、という感（かん）じでとても残念（ざんねん）だったから、王都（おうと）では張（は）り切（き）りたい。

　女（おんな）の子（こ）である以上（いじょう）は服装（ふくそう）くらいは拘（こだわ）りたいもの。

　そして服（ふく）はそれなりに値段（ねだん）が高（たか）いので、お金（かね）欲（ほ）しい。

　ということで、朝（あさ）からフリー（flea）マーケット（market）の露店（ろてん）を見（み）て歩（ある）く。

　昨日（きのう）と同（おな）じ人（ひと）が同（おな）じ場所（ばしょ）のところもある。でもその隣（となり）は昨日（きのう）と違（ちが）ったりしていて、入（い）れ替（か）わりがあるみたい。

　昨日（きのう）は午後（ごご）に到着（とうちゃく）してその後（あと）に露店（ろてん）を出（だ）したけど、あまり売（う）る時間（じかん）もなかったから、売（う）り上（あ）げも少（すく）なかった。

「あ、この薬草（やくそう）いいですか、えっとこれとこれとこれ、ください」

「はいよ、毎度（まいど）あり」

　見（み）ていたらちょっと品質（ひんしつ）高（たか）めの薬草（やくそう）を見（み）つけたので、買（か）っていく。

　なんというか、シャキシャキしていて、シナシナしていないのが新鮮（しんせん）でいい薬草（やくそう）だと思（おも）う。

　品質（ひんしつ）は落（お）ちちゃうけど、ちゃんと乾燥（かんそう）させた、乾燥（かんそう）薬草（やくそう）も種類（しゅうるい）としてはある。生（なま）ポーション（potion）は十日（とうか）しか持（も）たないから、乾燥（かんそう）薬草（やくそう）を持（も）ち歩（ある）いたり、民間（みんかん）療法（りょうほう）としてポーション（potion）にしないでそのまま粉（こな）にして飲（の）んだりと、使（つか）い方（かた）もさまざまだ。

「ああ、これ、　（▼）ミルル草（そう）の実（み）ですよね」

「そうだよ」

「あるだけください」

「え、全部（ぜんぶ）かい？　買（か）ってくれるならうれしいけど、そんなに何（なに）に使（つか）うんだい？」

「えへへ、　（▼）モリス草（そう）のポーション（potion）に少量（しょうりょう）加（くわ）えると薬効（やっこう）が高（たか）まるんです」

「へぇ」

　薬瓶（やくびん）も買（か）って、ミルル草（そう）の実（み）を買（か）ったらもう持（も）ち金（がね）はほぼ空（から）っぽになった。

　でもミルルの実（み）は昨日（きのう）は売（う）ってなかったし、他（ほか）でも見（み）なかったから、たぶんこの辺（へん）ではちょっと珍（めずら）しいのかもしれない。

　錬金術（れんきんじゅつ）の材料（ざいりょう）を教（おし）えてしまうのはよくないと思（おも）うかもしれない。でもミルルの実（み）を入（い）れて錬金（れんきん）するのは、それなりの魔力（まりょく）の入（い）れ方（かた）が難（むずか）しくなってしまうため、材料（ざいりょう）だけ知（し）っていても意味（いみ）がないので、大丈夫（だいじょうぶ）。

　簡単（かんたん）にまねされてしまうくらいなら、むしろもっとポーション（potion）を安（やす）く売（う）れるようになると思（おも）うので、そのほうが世（よ）の中（なか）のためだ。そうしたら私（わたし）は別（べつ）の製品（せいひん）を作（つく）る仕事（しごと）をすると思（おも）うんだ。

　今日（きょう）も空（あ）き場所（ばしょ）で露店（ろてん）を確保（かくほ）して、錬金（れんきん）釜（がま）を取（と）り出（だ）す。

　リュックサック（rucksack）は持（も）ち歩（ある）いている。ただし持（も）ってきた植木鉢（うえきばち）は邪魔（じゃま）なので宿屋（やどや）に置（お）いてきてある。

　代替（だいたい）薬草（やくそう）のモリス草（そう）を細（こま）かく刻（きざ）んで水（みず）と一緒（いっしょ）に錬金（れんきん）釜（がま）へ。ここは昨日（きのう）と一緒（いっしょ）だ。

「ぐるぐーる、ぐーるぐる、なんですよぅ」

　私（わたし）は錬金（れんきん）釜（がま）で薬品（やくひん）を混（ま）ぜて反応（はんのう）させる工程（こうてい）が好（す）きだ。たまに材料（ざいりょう）とは全（まった）く違（ちが）うものができる組（く）み合（あ）わせもあって、神秘的（しんぴてき）だし、とっても不思議（ふしぎ）で興味（きょうみ）深（ぶか）い。

　緑（みどり）の薬草（やくそう）ジュース（juice）ができたら、今日（きょう）はミル（mill）でミルルの実（み）をすり潰（つぶ）して加（くわ）える。

　更（さら）にひと煮立（にた）ちしたら、前半（ぜんはん）は終了（しゅうりょう）。あとは癒（い）やしの魔力（まりょく）を込（こ）めて完成（かんせい）だ。

　発光（はっこう）するポーション（potion）液（えき）は、幻想的（げんそうてき）だ。

「はい、完成（かんせい）です」

「わーすごーい」

「ほう、なかなかの手際（てぎわ）だったな」

　今日（きょう）も観戦（かんせん）している人（ひと）がたくさんいて、人（ひと）だかりができていた。

　まだ恥（は）ずかしいけど、外（そと）で作（つく）っている以上（いじょう）、隠（かく）れようもない。

　それに昨日（きのう）、実演（じつえん）販売（はんばい）は集客（しゅうきゃく）効果（こうか）が高（たか）いことも、分（わ）かったので、ワザと今日（きょう）も目立（めだ）っちゃって恥（は）ずかしくて、柄（がら）じゃないけど、でも背（せ）に腹（はら）は代（か）えられないもの。

　午前中（ごぜんちゅう）の販売（はんばい）は順調（じゅうちょう）に進（すす）んだ。

　みんな作成（さくせい）途中（とちゅう）を見（み）ているので、ただの「薬草（やくそう）水（すい）」とは違（ちが）うことを理解（りかい）してくれている。

　薬液（やくえき）をポーション（potion）瓶（びん）に移（うつ）し替（か）える作業（さぎょう）をするそばから、ポーション（potion）が売（う）れていく。

　基本的（きほんてき）に試験管（しけんかん）型（がた）瓶（びん）に一杯（いっぱい）分（ぶん）が適量（てきりょう）だ。少（すく）なく感（かん）じるかもしれないけど、エキス（[extract]）が濃縮（ぎょうしゅく）されさらに癒（い）やしの魔力（まりょく）の増幅（ぞうふく）効果（こうか）で、軽（かる）い怪我（けが）くらいなら十分（じゅうぶん）な効果（こうか）が出（で）るはず。