兵士たち
ボウガ
第1話
辛い肉体労働。退屈なライン作業。だが問題は、そんな事じゃなかった。彼はひどく心を痛めていた。いや、そう思い込んでいるだけだったろう。彼は生まれつき痛みに鈍感であり、人の用に目の前の出来事に感動したり、苦しんだりという事ができなかった。まるで自分や家族に関することでさえも、どこか俯瞰でみていて、花を綺麗と思ったことも、花火を綺麗とおもったことを、食事をうまいと思ったことさえもなかった。
人間など、ブタや家畜、他の生物たちと何もかわりはしない。それなのに何を一喜一憂しているのか、そう考えていた。だが、だからこそ彼らにあることを言われるたび、彼はひどく動揺した。
「あんたは人の痛みがわからないの!でくの坊!!」
人が苦しんでいるときや、悲しんでいるときに、適切な言葉や行動ができない。ただそれだけ、それだけで自分は仲間外れにされる。
仕事の時もそうだ。退屈なライン作業を終えると、人々にこういわれる。
「お前は戦場のほうがお似合いだ!!どのみち感情がないのだから、捨ててもいい命だろう!!」
「兵士となって働いた方がいいだろう」
それは些細なことだった。いじめやいたずらは日常茶飯事。だが、ひとつの紙屑が彼に投げられ、それが隣の綺麗な女性にあたる。女性は困った顔をして、それを拾い上げて、隣にいるのが彼だとわかると、拗ねてどこかへいってしまった。
「かわいそうだ、僕の隣にいたばかりに」
彼は、今まで罵倒としか思わなかった“軍隊へ入れ”という人々の言葉を、今までで一番素直に受け入れられた。
それから、一週間もたたず彼は試験をへて、兵士となった。兵士としての仕事の初日、見慣れないスーツとペンをわたされ、地上へのエレベーターに乗る。そして地上にでると、そこには思わぬ光景がひろがっていた。大草原を眺めるガラスに囲われた一部屋。エアコンによって気温も適切に保たれている。そこで大勢の人間がデスクワークをしていた。あるものは電話に奔走し、汗を流し、あるものは、退屈そうに仕事をし、時折読書やゲームまでしている。
「いったい、何をしているんだ?」
彼はあっけにとられる。そこで上司のへいき、事の顛末を語られることになった。
「ああ、そうか、君は知らないのか、いや何、人類の仕事とは進歩した機械やアンドロイドに奪われたじゃないか、だが彼らは、彼らに足りないものを求めている」
「足りないもの?それはなんです?」
「そうだね、思いやりだね、人の心だ……君はずいぶん周囲から非難されてきたそうだが、AIは、君の採用をえらんだ、あとは君次第だ、ここで働くかね?」
彼は、じっくり考えた。だがその時自分に言い聞かせることを決めた。
「そう、彼らは僕に心があると踏んだ、ならば僕も、それを信じてみよう」
彼はきつくネクタイを結んだ。
兵士たち ボウガ @yumieimaru
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