第27.5話 勇者話

 むかしむかしあるところに、勇者さまがいました。


 勇者さまは、王さまに頼まれて、魔王をたおす旅にでます。


 魔王よ! きさまをたおせば平和がおとずれるのだ!


 勇者さまは、聖なる剣で魔王をたおしました。


 剣を刺し、魔王の心臓をとりだすと、勇者さまはそれが食べたくなりました。


 おいしそう。おいしそうだ。じゅるりとよだれが垂れてしまう。


 勇者さまは、がまんできずに魔王の心臓を食べてしまいました。


 むしゃむしゃ、むしゃむしゃと食べました。


 ***


「ばーちゃん、どうしてオレは、王さまに会っちゃダメなの?」


 丸く小さな芋のように可愛らしい手が、くたびれた服の裾を掴む。すると皺が刻まれた手が、その手を優しく包むように置かれた。


「そういう運命だからじゃ。お前が王に会ったとき、ふたりは輪の中に囚われる」

「じゃあ、ふたりでにげたらいいんじゃないの?」

「出会っては駄目なんじゃ。いいか? クーチェリカ。王に捕らわれるな。出会い惹かれてしまえば、歯車は動き出す。そうなればもう誰にも止められん。だから、お主はなにがあっても逃げるのじゃ」


 小さな足がぷらぷらと揺れる。空色の瞳は天を見つめた。


「うんめいってなんだろう? なかよくするだけじゃダメなのかなぁ」

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